「従業員を解雇したい」。新型コロナウイルス感染症拡大により、過去に経験したことがない先行きの見えない不安が社会全体に広がっている中、このように考えるケースもあるのではないだろうか。使用者は企業存続のため、苦渋の決断をせざるを得ないケースもあるだろう。そこで、本稿では改めて「解雇ルール」について説明したい。
解雇に必要な労働契約法の「4つのルール」と違反した場合に企業が被るダメージ

「解雇」とは

「解雇」とは、使用者(企業側)からの申し出による一方的な労働契約の終了のことをいう。使用者が「辞めてほしい」と労働契約の終了をすすめる場合は「退職勧奨」となり、解雇とは異なる。

解雇は、使用者がいつでも自由に行えるわけではなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当と認められない場合は、労働者を辞めさせることはできない(「労働契約法」第16条)。つまり、従業員を解雇するには、社会常識に照らして納得できる理由が必要なのである。

「解雇」に必要となる主な4つのルール

(1)解雇制限
原則、一定の場合には法律で解雇が禁止されている。例えば、下記のような場合が該当する。

・業務上災害のため療養中の期間と、その後の30日間の解雇
・産前産後の休業期間と、その後の30日間の解雇

(2)解雇予告
解雇を行う際には、少なくとも30日前に労働者へ解雇の予告をする必要がある。予告をしない場合には、「30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)」を支払わなければならない。

(3)解雇事由の明示
就業規則に「解雇事由」を記載しておかなければならない。原則、記載のない理由では解雇することはできない。

(4)解雇理由の証明書の交付
労働者から解雇の理由について「証明書」の請求があった場合、使用者は遅滞なく(できるだけ早く)、その解雇の理由を記載した証明書を交付する必要がある。

ルール違反をしたら?

使用者が上記の「4つのルール」に従わずに労働者を解雇(いわゆる不当解雇)し、労働者側が納得いかない場合、使用者としては解決するために、段階順に大きく分けて下記3つの方法がある。

(1)示談
お互いの話し合いによって解決策を見出すこと

(2)労働審判
労働に関するトラブルをスピード解決するための、特別な裁判所の手続き

(3)民事訴訟
原告(労働者)の訴状提出から判決まで、おおむね1年以上

(1)~(3)へと段階を踏めば踏むほど、時間と労力・費用は膨大なものになる。中小零細企業においては、使用者(担当者)が対応にかかりきりになってしまい、本来の業務に手が回らなくなることも多々ある。変化のスピードが速い現代においては、企業の成長の致命傷になりかねないだろう。

まとめ

使用者は、新型コロナウイルスの影響もあり、「解雇」を検討するケースもあるのではないだろうか。上記のように解雇についてはさまざまなルールが決められており、これらにのっとって対応することが大事である。感情的になって労働者に解雇を宣告するようなことは、もってのほかだ。使用者は、解雇という判断を下すに至った経緯について、可能な限り労働者と話し合いをすべきだろう。

使用者のみならず、労働者にとっても、「解雇」というのは非常に大きな出来事なのである。
瀧本 旭
社会保険労務士法人ステディ
代表社員
https://steady-sr.com/

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