議論が煮詰まってくるなかで、中国人リーダーの彼は、「もう考えるだけ考えた。あとはやるだけやってみよう。それで駄目だったら、そのとき考えよう。」と開き直ったかのように言った。私は少々意地悪気味に、「でも、本当に駄目だったらどうするんだよ?」と聞き返してみると、彼は笑いながら意外な答えを返してきた。 「いいか、そのときは潔く責任を取ろう。そして二人で上海の街を一週間歩くんだ。一週間歩いたら、今の上海なら何かしら商売の種が見つかるはずだ。二人で何か商売でも始めようじゃないか!」
この時の彼の言葉は、今でも鮮やかに私の記憶に残っている。この言葉には、現代の中国の姿が幾つも生きている。それは、急成長市場としての中国の姿であり、「個」としての自立心旺盛な中国人の姿、商売を愛する中国人の姿、である。赴任後間もない私にとって、中国の姿を鮮やかに印象づける一言であった。
中国における駐在期間において、数多くのクライアントの皆様に対して、人材マネジメント改革のお手伝いをさせていただいた。その中で、強く印象に残ったことは、先ほどの言葉に代表される「中国人の『個』としての自立心を組織の業績に結びつけること」の重要さである。中国には「発展空間」という有名な言葉がある。これは、組織内において「自らのキャリアを開発するための機会」や「昇進の機会」を指す言葉である。この「発展空間」は、彼らにとって自らのスキルを高め、より高いキャリアと報酬を得るために重要なものである。
転職が通常となっている中国においては、会社は自らのキャリアを高めるための舞台であり、その舞台を用意できる組織が、優秀な人材から選ばれることになる。まさに、この舞台の「舞台装置」こそ「人事マネジメント」といえる。一人一人の「個」としての自立心を、人材マネジメントを通じて、うまく刺激するとともに、組織として「繋げる」ことで、業績向上のドライバーにすることができる。現在、中国で急激な成長を遂げている民営系企業などは、この典型ともいえよう。中国という成長市場は、組織における「戦略的人材マネジメント」の重要性を鮮やかに浮かび上がらせてくれる。
上海駐在時、日本に先に帰国した友人などから、「最近の日本の組織は元気が無い。」という言葉をよく聞くことがあった。本当だろうか? 確かに経済指標はまだまだ上向いていないし、企業の事業環境は厳しさを増している。しかし、そのような時期であるからこそ、「働く一人一人の思いを結集できれば、必ず組織は元気になる」という信念を戦略・人事に関わる人間が持ちつづけることは極めて重要である。
「個を繋ぎ合わせ、組織のパフォーマンスを向上させる」、このシンプルな命題への戦略的回答を常に模索し続けることが、組織・人事変革コンサルタントである我々の使命ともいえよう。
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