今回は、オリックス生命保険株式会社 執行役員 人事・総務本部管掌 兼 コンプライアンス部管掌 石田 雅彦氏、リーダー育成と組織開発を軸にしたコンサルティングサービスを提供する株式会社リードクリエイト 常務取締役 吉田 卓氏が対談。オリックス生命の新たな人事制度に込めたマネジメント職育成への想いや具体的施策について伺いました。(以下敬称略)
※本記事の内容は、取材時(2023年12月)の情報に基づいています。
プロフィール

石田 雅彦氏
東京大学法学部卒業後、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入行。その後、ウォーバーグ・ディロン・リード証券(現・UBS証券)、日本興業銀行/みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)、GEエジソン生命保険/AIGエジソン生命保険(現・ジブラルタ生命保険)、アメリカン・インシュアランス・カンパニー/メットライフ生命保険、みずほ証券を経て通算約27年人事業務全般を経験。銀行では融資、不動産証券化、M&Aなどの営業も通算約7年経験。エジソン生命で執行役員 経営企画本部長兼人事部長、メットライフで執行役員人事担当。みずほ証券で業務監査部長、グローバル人事副ヘッド等を歴任。2021年1月より現職。2022年4月、兼 コンプライアンス部管掌。
オリックス生命保険会社
執行役員 人事・総務本部管掌 兼 コンプライアンス部管掌

吉田 卓氏
大学卒業後、大手金融機関に入社。企画部門を経て、人事部で育成・評価・異動業務に従事。2005年リードクリエイトに入社。リーダーの選抜・育成を軸に人材開発支援を担当し、これまでソリューションに携わった企業は900社以上。一般論に留まらない「実践知」をベースにしたセミナーも多数開催。2021年より現職。
株式会社リードクリエイト
常務取締役

「お客さまの期待を超える」プロフェッショナル集団で企業価値向上を目指す

石田:我々は、厳しい経営環境に直面しています。今後人口が減少してマーケットが縮小する中で持続的な成長を遂げていくためには、社員一人ひとりがプロフェッショナリズムを発揮し、お客さまから選ばれ続ける会社にならなければなりません。そのための施策として、2021年4月、人事制度を刷新しました。
弊社における「プロフェッショナリズム」とは、「お客さまの期待を超える結果を出すこと」と定義しています。つまりそれは、オリックス生命理念を体現し、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)を実践することそのものです。
吉田:そのようなプロフェッショナルを輩出し活かすために注力していることは何でしょうか?
石田:いかに「適材適所」を実現できるかが重要であり、経営戦略を実現するための戦略的人材ポートフォリオをつくることが鍵だと考えています。As-Is(現状)とTo-Be(目指す姿)のギャップが明確になるよう、御社のアセスメントを活用したり、各種サーベイを実施したりして課題の具体化に注力しています。
マネジメントの柱は部下育成。覚悟をもってマネジメント職に臨んでもらう
吉田:組織発展の鍵を握るのは、リーダーの存在です。マネジメント層の強化は、どのようにされていらっしゃいますか。石田:おっしゃる通りで、エンゲージメントが高い組織風土をつくっていけるかどうかは、マネジメント職が部下の成長支援にいかにコミットできるかで決まると確信しています。現在の人事制度導入以降、マネジメント職登用時に、部下育成がマネジメント業務の重要な柱であることを明記した確認書にサインしてもらっています。
吉田:日本の会社で昇格にあたって契約を結ぶというお話を伺ったのは初めてです。
石田:マネジメント職には、自分の取り組み次第で組織成果が大きく変わるので、覚悟をもって臨んでもらいたいというメッセージを伝えているつもりです。新人事制度の一つの柱としている「Pay for Job、Pay for Performanceの徹底」の一環として、マネジメント職についても、それぞれのポジションの職責と貢献の大きさに応じた報酬を提供する仕組みに変えています。また、傾聴力を高め、効果的なフィードバックを行ってもらうための研修を実施したほか、従来人事部が占有していた部下社員の報酬データ等、マネジメントの役割を果たしてもらうための情報共有も行いました。
部下を日常的に観察、指導、支援するほか、期初、期中、期末に部下との面談をきちんと実施して、目標設定、目標達成に向けた支援、結果の振り返りと今後の成長に向けたアドバイスをしてもらいます。面談後、上司が効果的な面談をしてくれたかどうかを部下社員に確認するアンケートを実施し、アンケート結果によっては、管掌役員がマネジメント職に指導を行っています。
吉田:マネジメント層の意識面の強化や責任・権限の明確化をして、部下育成を徹底されているのですね。マネジメント層を強化する施策の効果は出ていますか。
石田:直近3年のモラルサーベイの結果からは、一定の効果が出ているように思います。たとえば、「能力開発・教育訓練の機会」「上司のコミュニケーション」「評価に対するフィードバック」などの育成や上司の支援に関するスコアや、「目指すキャリアにつながる仕事がある」「成長実感」などのキャリア形成に関するスコアは向上しています。
一方で、「新しいことに挑戦する雰囲気」「安心して働くことができる環境」「心身の充実感」といった項目のスコアはまだまだです。昨年まではコロナ禍により、職場環境や働き方も特殊な状況にあった影響もあるかもしれませんが、これらのスコアも全体的に向上させていくことが今後の課題です。
マネジメント層のリーダーシップスタイルと業績との相関関係
吉田:オリックス生命様で実際に活躍しているマネジメント職に傾向はあるのでしょうか?
たとえば営業組織の場合、業績が高い支社の支社長は、一方的な「指示命令型」に加えて、指示の趣旨・意義を説明して理解を得る「ビジョン型」、およびメンバー間の調和を重視する「関係重視型」、部下の長期的・計画的な育成を重視する「育成型」の発揮度が高く、自ら業務を担って背中で見せる「率先型」は低いことがわかりました。一方、業績が相対的に低い支社の支社長は、「指示命令型」の発揮度は同様に高いものの、高業績支社長とは逆に「ビジョン型」「関係重視型」「育成型」が低く、「率先型」がかなり高い傾向が明確に見えてきました。
吉田:大変興味深いデータです。「指示命令型」は高い業績を出すためには必要なスタイルなのですね。
石田:営業組織で短期的に業績を挙げるためには「指示命令型」が有効なのだろうと思います。しかしながら、持続的に高い業績を挙げ続けるためには、「指示命令型」だけではなく、「ビジョン型」「関係重視型」「育成型」これら3つのスタイルを、場面や必要に応じて使い分ける必要がある、ということのようです。さらに、業績が高い支社では、「のびのび働ける」「仕事を任されている」「きちんと評価・処遇されていると感じる」「方法が明確である」などの組織風土の面でも高いスコアが出ています。
これらの結果から、リーダーシップスタイルが組織風土をつくり、組織風土が業績をつくるという相関がかなり明確になりました。いかに社員の成長を促して、より良い組織風土をつくり、業績を伸ばすか。お客さまに選ばれ続ける会社となるためには、これらのサイクルをつくることができるマネジメント職の役割がキーとなります。このようなマネジメント職を育成し、輩出していくことが我々人事の重要な課題だと考えています。
吉田:オリックス生命様が目指している人事の姿、掲げている人事方針を実現しようとすると、やはりファーストラインのマネジメント職の育成が大事で、彼らが自分達に求められていることを正しく認識することが重要だということがよくわかりました。
人材アセスメントは登用だけでなく能力開発に有効活用
吉田:オリックス生命様では、長期にわたってリードクリエイトの人材アセスメントを導入いただいています。マネジメント層の強化と輩出において、どのような活用をされているかお伺いしたいと思います。人材アセスメントの対象者は、どのような方々ですか。石田:課長手前と部長職を対象に実施して、人材登用の参考材料として活用しています。また戦略的人材ポートフォリオの検討のためにも、人材アセスメントのデータを使っています。As-Isと To-Beのギャップを埋めるための配置と育成を検討する「人材共有会議」を実施し、タレントレビューを行っており、特に経営人材のパイプラインを作っていくために、誰に、どのように成長してもらうべきかを各組織のトップ、リーダーが話し合います。人材アセスメントは、その重要な参考資料となります。
吉田:多くの会社と同様にマネジメント層の選抜に活用され、さらに人材育成にも活用されているのですね。
石田:人材アセスメントのデータは、長らく登用の参考材料として活用するに留まっていましたが、それだけでは非常にもったいない有益な情報です。一人ひとりの能力開発につなげてこそ意味があります。
そこで昨年、リードクリエイトさんに「人材アセスメント活用ガイド」の動画を作成いただきました。人材アセスメントと人事考課との違いや、アセスメントのデータを活用した職場内人材育成の進め方などを、育成を担うマネジメント職向けに配信しました。人材アセスメントの対象者本人に対してフィードバックを行うだけでなく、現場上司にもきちんと情報を共有し活用してもらうことで、一人ひとりの成長につながり始めているのではないかと思います。
吉田:素晴らしいお取り組みです。受講者はもちろんのこと、関係者一人ひとりの理解が深まることで、マネジメント職への期待事項やそこに向けた成長の機運が高まり、各職場で効果的な能力開発が進むことを期待しています。
今後の人材開発の課題は「言語化力」「向上心」「促話力」

石田:能力開発に向け、まだまだやるべきことは多いと思います。現在実施している一つひとつのアセスメントやサーベイの結果についても、マネジメント職自身がしっかりと受け止め、自己理解や行動変容につなげることができるよう工夫する必要があります。
また、メンバーが担う仕事が「作業」「タスク」の繰り回しとならないように意味づけをして、一人ひとりのメンバーがその意味を実現するために何をすべきか、意義のある目標に落とし込めるかどうか、そのための言語化力がリーダーには必要不可欠だと考えています。
吉田:マネジメント職の方々にとって、言語化力は本当に重要だと思います。日々の目標管理においても、設定した目標の「その先」にある意義や意味を、いかにストーリーとしてメンバーに語り、共有するかという能力は欠かせません。これをマネジメント職がやらないと、組織にやらされ感が蔓延し、数字と作業に振り回されてしまいます。石田さんは、これからのマネジメント職に、より一層求められることは何だとお考えですか。
石田:「まだまだ」と思う向上心です。
吉田:積極的に自分から学ぶ力、でしょうか。
石田:そうです。これも意識・姿勢の問題なのですが、前例踏襲、現状維持に留まってしまいがちです。今はChatGPTといった生成AIをはじめ、DXが急速に進展する中で、新しいテクノロジーをどう使うか、新しいチャンスをどう活かすかという気づきが無いと、組織も個人も持続的成長が見込めません。
仕事をしている中で直面する「問題」に対して、まずは「問題」だと気づき、そのうえで不平不満を言うとか他人事にして済ませるのではなく、「何に取り組むべきか」という「課題」に置き換えていく力を高めてほしいと考えています。
吉田:「問題」と「課題」は似て非なる概念ですね。大事なことはあらゆる問題が発生している中でも「我々が取り組むべきテーマは何か」という問いを立てる力ではないでしょうか。チャンスやリスクを察知することは、将来に向けて何か大きな成果をつくるために課題を見つけること。DXの進展によって、マネジメント職に求められる「課題化」の力はより加速化されている気がします。
石田:さらに言えば、人材アセスメントで弊社の弱みとして指摘されている「革新性」や「挑戦性」をいかに組織として高めていけるかが問われていると思います。そしてキャリア入社者が7割いる組織で、多様なバックグラウンドを持った人の能力や価値観をいかに活かすかという多様性への対応力。また、私が「促話力」と名づけている傾聴力とファシリテーションスキル。加えてリスク感知力。こうした能力をマネジメント職になる前に身につけて、いつでも発揮できる準備を整えて欲しいと考えています。
吉田:マネジメント職に求められる能力は挙げればキリがないですが、その中でも自社の事業戦略上、「最も優先度の高い能力は何か?」を明確にしていくことが人事においては不可欠な視点ですね。
人材を見える化して育成・改善につなげ、マネジメント能力向上へ
吉田:人材アセスメントの効果について、石田さんのお考えを伺えますでしょうか。石田:コンピテンシーが可視化、見える化されることが最大の効果です。我々の等級基準と関係づけをしたうえで、強みや改善点が見える化され、育成・改善につなげることができます。また、フィードバックレポートは、適材適所を図るうえで、人材活用のイメージが明確になり、一人ひとりの人材育成に向けて非常に有効です。
長年、人材アセスメントを実施していますので、社内に情報の蓄積があります。私の感覚では、人材アセスメントの結果は8~9割、その人を適切に評価・表現していると思います。私自身も過去に受けているので、演習がいかにタフなものかの実感もあります。疲れ果てましたが、改善点を指摘していただき、私のその後のキャリアにとって、非常に有益な経験になったと感謝しています。
吉田:当時の会社で石田さんが人事部長でしたね。人材アセスメントを2日間受講されました。大変謙虚な姿勢で受講いただいたのが印象的です。人事部長自らがフィードバックを真摯に受け止め、率先して自ら変わろうとする姿は「人事責任者の模範」だと感銘を受けたのを覚えています。石田さんの著書『企業価値を高める組織・人材マネジメントの思考と実践』にも、人材アセスメントの有効性や活用方法について触れていただきました。
では最後に、人材アセスメント結果の有効活用の観点で、今後検討されていることがありましたら、教えていただけますか。
石田:次世代を担う経営人材のパイプラインを太くすることが大きな課題となっているため、過去の人材アセスメント結果も見返して人材を発掘したいと思います。人材アセスメントの価値は、一人ひとりが持つ能力や適性が可視化され、能力開発と人材活用の羅針盤になることです。一人ひとりが自らの能力・適性・価値観を活かし、いかんなく活躍してもらう機会を提供する人材マネジメントに向けて、もう一段幅広く、そして踏み込んだ活用方法をリードクリエイトさんと一緒に模索したいと考えています。
吉田:本日は、人事として目指す姿と実践について、マネジメント人材を中心に貴重なお話をいただきましてありがとうございました。
協力:株式会社リードクリエイト
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