組織や集団は「優秀な2割」、「平均的な6割」、「貢献度の低い2割」で構成される。こうした考えを言い表したのが「262の法則」である。ただし「貢献度の低い2割」を切り捨てても組織全体の生産性が上がるわけではない。重要なのは、各層に合わせた施策を実践することだ。ここでは「262の法則」をベースとした人事施策を進める際のポイントについて解説する。
「262の法則」とは何か? 組織のマネジメントや人間関係、職場などに活用できる対策も解説

「262の法則」とは何か

「262の法則」とは、“どのような組織・集団も、人材の構成比率は、優秀な働きを見せる人が2割、普通の働きをする人が6割、貢献度の低い人が2割となる”という理論を指す。

この考え方の発端は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートの研究にある。パレートは所得の分布について「社会全体の富の8割は上位2割の高額所得者に集中し、残りの2割が8割の低所得者に分配される」という理論を提唱した。この“パレートの法則”は、その後さまざまな方向に拡大解釈され、たとえば「企業の売上げのうち8割は売れ筋である上位2割の商品によってもたらされる」などと考えられるようになった。

「262の法則」は“パレートの法則”の発展形といえる。「世界は、2割の富裕層・高額所得者と、6割の庶民層、2割の貧困層で構成される」、あるいは「企業では、2割の人材が生産性の高い働きを見せ、6割は平均的、2割は成果に貢献できていない」など、1つの概念として定着していったのである。

企業に貢献できていない下位2割の人材を切り捨てて、残りの8割で事業を進めれば生産性が上がるかといえば、そう単純なものではない。上位2割+中位6割で構成されているはずの組織の中では、また優劣が生じて新たな「貢献度の低い2割」が誕生する。同様に、上位2割だけを選抜した組織を作っても、その組織はいずれ「上位2割+中位6割+下位2割」という構成比率になってしまう。どのような組織も「262の法則」に支配されるという点が、この概念の面白いところであり、厄介なところともいえるだろう。

生産性に対する貢献度だけでなく、従業員のエンゲージメントについても「262の法則」を当てはめて考えることができる。すなわち「組織は、エンゲージメントの高い2割、平均的な6割、エンゲージメントの低い2割で構成される」というわけだ。そして、エンゲージメントの低い2割を切り捨てても、残り8割からなる組織は、やはり「262の法則」の影響を受けてしまい、新たに“エンゲージメントの低い2割”が生み出されるのである。

重要なのは、この「262の法則」をどのようにして人事施策に生かすかという点だ。たとえば「生産性を大いに上げている上位2割」の社員だけを優遇すれば、残り8割のモチベーションは下がってしまうだろう。かといって「業績アップは全社員の協働のおかげ」と中位6割や下位2割の評価を高めすぎると、上位2割に不満が募るかもしれない。また中位6割の能力を基準として組織全体の目標を設定すると、「上位2割には簡単すぎてモチベーションが上がらない」、「下位2割にとっては難しすぎる」といった状況を招く恐れがある。

考えるべきは、“対象×目的”という観点に立った施策だ。上位2割の能力を最大限に生かし、中位6割のモチベーションを向上させ、下位2割の貢献度を少しでも引き上げるためには何が必要か。「262の法則」をベースとして「誰に対し、何のための施策を実践するか」という方法論が重要となるのである。

組織のマネジメントに「262の法則」を活用するために

「262の法則」を意識した組織マネジメント、すなわち、上位2割、中位6割、下位2割、いずれも疎かにせず、それぞれに適した施策を打つことについて考えてみよう。

●上位2割に対する施策――モチベーション維持と能力活用

上位2割にあたる従業員は、もともと優秀な人材だ。細かな指導がなくとも、自ら考え、課題を解決し、実績を積み上げ、学びやスキルアップにも自主的に取り組むだろう。この層は組織への貢献度が大きく、モチベーションやエンゲージメントの低下、さらには離職が起こると、企業・組織全体に与える影響も極めて大きなものとなる。よってモチベーションとエンゲージメントの維持・向上、さらに、持っている能力を最大限に発揮してもらうための施策が重要となる。

・能力を十分に生かせる仕事を与え、正当に評価する
いわゆる“ハイパフォーマー”に相当する上位2割の層には、優れた能力を十分に発揮してもらわなければならない。各事業の中でもコアな業務、売上げや業績に直接つながる仕事にあたってもらうことと、そのための環境作りを進めることが肝要だ。

会社に対する貢献度を正当に評価し、昇給・賞与、昇格、表彰など、具体的な対価も用意すべきだ。能力の発揮、会社への貢献、それに対する報奨が目に見えるようになれば、組織におけるロールモデルとしても機能し、組織全体の生産性やエンゲージメントの向上にも大きく寄与してくれるはずだ。

・高い目標や新しい業務を与える
自ら課題を見つけ、解決できる上位2割の層には、目標を高く設定すること、やや難易度の高い業務を担当してもらうことがベターだ。過分なストレスを与えないような配慮は必要だが、難しい課題をクリアしていくことで成長を促すことができる。

またルーティンワークに対する“飽き”や“惰性”を排除し、成果に慣れて物足りなさを感じてしまうことも避けたい。自身のアイデアを生かせる業務、より高度なスキルの取得を求められる仕事、新たな取り組みなどを定期的に与え、モチベーションの維持・向上を図ることが大切だ。

・マネジメント力を向上させる
上位2割の層は、いずれ出世し、リーダーやマネージャーになるだろう。ただ、自分の力で課題を解決し、成果を出す能力の持ち主であっても、部下を率いることが得意とは限らない。プレイヤーとしての素質とマネージャーとしての素養は別物である。

よって上位2割の層には、部下に的確な指示を与える、指導する、自分自身が成功した方法論を伝える、信頼関係を築く……といった“マネジメント力”を磨いてもらわなければならない。上位2割の層が優秀なマネージャーとなることで、その働きぶりが周囲にも影響を与え、組織全体を底上げすることになるだろう。

●中位6割に対する施策――目標達成に向けて一歩ずつステップアップ

組織全体の生産力、モチベーション、エンゲージメントを高めるためには、人材の大半を占める中位6割に対するアプローチがもっとも重要となる。個々の貢献度は上位2割の層に及ばなくても、中位6割全体をボトムアップできれば、トータルでは組織に大きな成長をもたらすだろう。

・目標や行動指針、評価基準の明確化
自分で考え、能動的に振る舞える上位2割に対し、中位6割は「能力はあっても課題を見つけるのは苦手」、あるいは「課題はわかっているが、解決方法を思いつかない」、「積極的に行動できない」といったタイプであることが多い。

まずは適切な目標・課題の設定、果たすべき業務や役割の明確化、ゴールに向かって自走できるような環境を与えることが大切だ。設定した目標をどの程度まで達成できたか、期待された成果を出せたかなど、わかりやすく評価できる仕組みの導入も必須だ。将来的な目標(役割や職責)やキャリアプランを設計し、その実現のために必要なスキルや経験などを明文化して、段階的な成長も促したい。

・中位6割によるプロジェクトチームの編成
中位6割の層だけでプロジェクトチームを編成し、特定の業務にあたってもらうことも有効だ。このチームにも「262の法則」が作用し、「中位6割の中でも特にモチベーションが高い2割の人材」が育つことになる。同時に下位2割も生まれることになるが、トータルとしては中位6割のボトムアップにつながるだろう。

・マネージャーからの細やかなアプローチ
課題を見つけられない、解決方法がわからない、積極性に欠ける……といった特性を持つ中位6割に対しては、上司の伴走が必要となる。仕事上のヒントや課題解決のためのアドバイスを頻繁に与え、成長につながる“気づき”へと導くことが重要なのだ。

1on1ミーティング、メンター制度、洗練されたOJTなどを導入し、上司と部下が課題・情報・仕事の進捗状況を共有できるような取り組みを進めたい。

●下位2割に対する施策――現状把握と問題の解消、適切な指示・管理

下位2割を切り捨てるのではなく、どのようにして活用するかを考えなければならない。

・現状と課題の把握
まずは能力を発揮できない原因、エンゲージメントが低下している原因の特定が必要だ。1on1ミーティングやメンター制度を通じて、本人の能力やスキル、性格、周囲の環境、適性と業務とのミスマッチなど、原因の洗い出しを進め、異動や職場環境の改善など、解決できるものから手をつけていきたい。

・適切な目標設定・指示・管理
下位2割に対しては、的確な指示と管理が重要だ。まずは簡単な目標・課題を設定し、役割や業務を明確化する。「何をしてほしいか」を簡潔に伝え、その指示を確実にこなしてもらいつつ、進捗を確認し、問題があれば細かくサポートする。

目標が達成されて成果が出れば、その成功要因について一緒に考える。上手くいかなったときも原因を共に考え、修正にあたる。そうして仕事に対する“気づき”や理解を促していくわけだ。

・下位2割だけでプロジェクトチームを編成する
いつまでも「自分は会社に貢献できていない」、「上位や中位の人に気後れしてしまう」といった負の意識に囚われていると、モチベーションはますます下がるだろう。そこで中位6割と同様、下位2割だけのプロジェクトチームも編成してみたい。周りが自分と同程度の能力の人材ばかりなら、活躍できる機会は広がり、自信も持てるようになるはずだ。

・それでも問題のある社員がいれば要対処
「自分は会社に貢献できていない」と考えているだけならまだしも、その原因を会社や他人に求めて批判し、チーム全体のモチベーションまで下げてしまうなど、周囲に悪影響を与えているようなら何らかの対処が必要となるだろう。

人材育成や人間関係にも活用できる「262の法則」

「262の法則」をもとにした考え方は、生産性、モチベーション、エンゲージメントの向上に生かすだけでなく、人材育成や人間関係の構築に対しても活用できる。

●能力開発への活用

上位2割に対しては、前述の通りマネジメント力を高めるための教育・研修に力を入れるべきだ。中位6割と下位2割に対しては、適性診断、360度評価、コンピテンシー診断などにより、性格、スキル、適性、行動パターンを洗い出す「人材アセスメント」を進めたい。個々の強み・弱みを見える化し、強みを生かすための施策を打ち、能力を発揮できていない原因の解決を図るのだ。

さらにカウンセリング、1on1ミーティング、メンター制度を通じて、それぞれの将来像、キャリアプラン、目標を再設定し、長期的な能力開発プランを策定して取り組んでもらうことになる。

●適材適所の人員配置

中位6割と下位2割の層は、部署や業務とのミスマッチが原因で成果を上げられず、モチベーションやエンゲージメントが低下している可能性もある。“新規事業の立ち上げや事業再編によってスキルや経験を生かせない部署へ異動となった”、“上司や同僚と働き方のスタイルが合わない”、“面倒見がいいわけではないのに教育役を任された”……など、さまざまなケースが考えられそうだ。

「人材アセスメント」や1on1ミーティングを通じて、個々の性格、スキル、強み・弱み、ストレスの要因が明らかとなれば、それらをもとにして思い切った配置転換・異動を試みてみるのもいいだろう。適材適所の人員配置、職種・部署・勤務地の変更などによって、パフォーマンス、モチベーション、エンゲージメントの劇的な改善を期待できるはずだ。

●人間関係に対する悩みの解決

「262の法則」を人間関係に当てはめれば「自分の周囲にいる人の2割は私のことが好き。6割はどちらでもない、2割は私のことが嫌い」ということになる。

このうち「私のことが嫌いな2割」ばかり気になって、人間関係に悩んでしまう人がいる。これではストレスがたまるばかりだ。苦手な人、そりの合わない人に対して「嫌われたくない」、「上手く付き合いたい」と気を揉むのではなく、「もともと私のことが嫌いな2割なのだ」と、ある意味で開き直ることが必要だろう。

より考えるべきは、自分に好意を持っている「私のことが好きな2割」の期待にどう応えるかだ。また「どちらでもない6割」は、行動や接し方次第で積極的に協力してくれる可能性がある。そうした人にこそ気を配るべきだろう。このような考え方を伝えることで、人間関係の悩みを解消できるかもしれない。「262の法則」は、部下へのアドバイスにも役立てられるのだ。

「262の法則」をベースとした人事施策で問題解決を加速させる

人事領域の仕事において「262の法則」が教えてくれるのは、すべての人に対して平等・公平に接することは必ずしも正解ではないという点だ。「誰に対し、何のための施策を実践するか」を考え、上位2割、中位6割、下位2割、いずれも疎かにせず、それぞれに適した施策を打つことが求められるのである。

重要なのは、それぞれの層が「会社や業務に貢献できている」と実感してくれることだ。各層に対する施策が上手く機能すれば、従業員全体のモチベーションとエンゲージメントが向上し、会社全体の生産性アップにもつながるはずだ。

そのためには、各人材の性格、スキル、行動パターンを細かく分析し、それぞれの層と個々の特性に合わせたキャリアプランや能力開発プランを策定・実践し、教育・研修に取り組み、異動・配置転換や職場環境の改善などによって課題解決を図っていくことが求められる。

いわゆる「ピープルアナリティクス」や「タレントマネジメント」的な手法に「262の法則」を組み合わせることで、上位2割はますます会社への貢献度を高め、中位6割や下位2割は大きく飛躍する。そんな可能性もあるのではないだろうか。
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