2019年に「労働施策総合推進法」が改正され、現在では大企業のみならず、中小企業でも職場におけるパワーハラスメント対策が義務とされている。同じ2019年には、ILO条約第190号「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」が採択されるなど、世界的にも関心が高まっている。本講演では、こうしたパワーハラスメントに関する近年の動向と今後の課題について考察していく。
変わる日本の“パワハラ対策”――世界の動向と今後の課題から読み解く、パワハラ防止に向けた企業の取り組み

法的義務としてのパワハラ対策を超えて議論を展開していく必要がある

国立大学法人山形大学 人文社会科学部 講師 日原 雪恵氏

事業主に課される「パワハラに対する措置義務」

変わる日本の“パワハラ対策”――世界の動向と今後の課題から読み解く、パワハラ防止に向けた企業の取り組み
「パワーハラスメント」(以下、パワハラ)に関する近年の動向と今後の課題をテーマにお話しさせていただきます。
まず初めに、「パワハラとは何か」から見ていきます。パワハラを議論するにあたっては、さまざまなレベルの話が含まれます。最も重大なのは「刑法上の犯罪にあたるもの」です。2番目が「民法の不法行為として損害賠償の問題になるもの」で、民事裁判で違法な行為として問題となる場合です。そして3番目が「労働政策総合推進法上の措置義務の対象となるもの」で、現在法的な定義があるのは、この措置義務の対象としてのパワハラです。それ以外にも、「人事管理上問題となるもの」や、「社会通念や人間関係上、望ましくないもの」がパワハラといわれることがあります。

労働政策総合推進法で問題となるパワハラの定義は、「職場において行われる、(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすもの」です。このパワハラには、典型的な例として、6類型があります。1つ目が「身体的な攻撃」、2つ目が「精神的な攻撃」、3つ目が「人間関係からの切り離し」、4つ目が「過大な要求」、5つ目が「過小な要求」、そして6つ目が「個の侵害」です。パワハラの定義や「該当すると考えられる例」について、詳しくはパワハラ指針(令和2年1月15日厚労告第5号)を参照してください。

次に、「企業の法的義務と責任」の話をします。2019年に労働政策総合推進法が改正され、事業主がパワハラに対する措置義務を負うことになりました。これは、セクハラやマタハラに存在した措置義務をパワハラにも規定したものです。中小企業では2022年3月末日まで努力義務であったものの、同年4月1日からは全面的に施行されています。

この措置義務の内容には、4点が含まれます。まず1つ目が「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」、2つ目が「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」、3つ目が「職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」、4つ目が「その他の措置」です。措置義務に関するポイントは、事前の体制整備と事後の適切な対応が必要であること。また、ハラスメントが発生しなくとも、措置義務の違反自体が行政指導の対象になり得ることにも注意する必要があります。

パワハラ指針では、「事業主が行うことが望ましい取組」も書かれています。まず、パワハラについて、「セクシュアル・ハラスメント等と一元的に相談に応じることのできる体制の整備」、「コミュニケーションの活性化や円滑化のための取組」、「職場環境の改善のための取組」等が挙げられます。他には、「自らの雇用する労働者以外の者に対する言動」や、「他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為」も書かれています。本講演時点では未施行ですが、今年の4月に成立したいわゆるフリーランス新法に特定受託業務従事者に対するハラスメント行為についても相談対応等必要な体制整備等の措置を講ずる義務が定められており、また、2022年には「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が策定される等、ハラスメントの問題は広がりをみせています。

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