「育児・介護休業法」によって、従業員から申し出があった場合には「育児休業」を取得させることが企業には義務づけられている。本稿では「育児休業」とその関連制度、休業期間中の収入を支援する「育児休業給付金」について、対象となる者と要件、取得期間・給付期間、手続きなどを紹介。さらに近年の法改正に対して企業が取り組みを進めなければならない事柄に関しても解説する。
「育児休業」の取得条件や期間、「育児休業給付金」の計算方法とは? 2022年以降の法改正対応ポイントも解説

「育児休業」の内容と対象者とは?

「育児休業」とは、育児・介護休業法によって定められた子育て世帯に対する支援制度である。取得要件を満たした従業員は、原則、子どもが1歳の誕生日を迎える1日前まで休業することができる。

女性の社会進出や夫婦共働きが増加する中で、仕事と育児を両立しやすくするための法制度として「育児休業等に関する法律」が1991年に成立した。ただし当時は休業中の賃金保障が考慮されていないなど問題も多かったため、より「育児休業」を取得しやすいものとするべく、たびたび同法は改正されてきた。現在、「育児休業」のベースとなっているのは、2021年改正・2022年より段階的に施行されている「育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)」である。

骨子としては「従業員は企業に申し出ることで、原則として子が1歳になるまでの期間、休業することができる」というものとなっている。法律に定められた制度であり、要件に該当するすべての従業員が「育児休業」を取得することが可能だ。企業は「育児休業」の制度を社内で確立させ、その内容を就業規則に盛り込む必要がある。

企業は、従業員からの育児休業の申請を拒否することはできないが、育児休業中に支払う賃金については規定がなく、特別な定めがない限り育児休業中は無給または減給となる。そのため、育児休業中の労働者の生活支援のために「育児休業給付金(育休手当)」制度が設けられている。「育児休業給付金(育休手当)」については後述する。

●「育児休業」の対象者

無期雇用労働者、いわゆる正社員は、原則として「育児休業」の取得対象者であり、1歳未満の子を養育している従業員なら男女を問わず取得可能である。またパートやアルバイト、契約社員、派遣社員などの有期雇用労働者は「子が1歳6ヵ月に達する日までに労働契約が満了しない」場合に「育児休業」を取得することができる。

ただし以下のケースでは、労使協定を締結することによって「育児休業」の対象外とすることが可能となる。

・入社1年未満の労働者
・申し出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

●「育児休業」と「育児休暇」の違い

「育児休業」は、従業員から申し出があれば雇用主・事業主は必ず取得させなければならないものであり、法律上の“義務”である。

いっぽう独自に「育児休暇」制度を導入している企業も存在する。「育児・介護休業法」では「育児休業」以外にも“小学校就学前の子の養育支援”を企業に求めており、その条文に即した取り組みといえる。つまり「育児休暇」は“努力義務”であり、導入の有無、制度の詳細などは企業ごとに決めることが可能だ。下記に、双方の違いをまとめる。

【育児休業】
企業の義務/原則として1歳未満の子が対象/取得期間は子が1歳に達する日までの最大1年間(条件を満たせば延長可能)

【育児休暇】
企業の努力義務/原則として小学校就学前の子が対象/導入の有無・対象者や取得期間など制度の詳細は企業が独自に決められる

「育児休業」の期間

「育児休業」の取得期間は、原則として産後休業を含めて「最大1年間」である(条件を満たせば最大2年まで延長化/詳細は後述)。ただし出産をともなう母親の場合と、父親の場合とでは、取得期間が異なる点に注意しなくてはならない。

母親の場合、労働基準法によって出産予定日までの6週間+出産日から8週間の「産前産後休業(産休)」を取得することが可能だ。この「産後休業」を終えた翌日から子が1歳に達するまでの期間(1歳の誕生日の前日)までが「育児休業」として扱われる。父親は「産休」がないため、出産予定日から子が1歳に達する日までが「育児休業」の期間となる。

●「育児休業」は分割取得も可能

2022年10月より「育児休業」は2回まで分割して取得することができるようになった。子が1歳に達するまでの期間であれば、1回目の「育児休業」取得後にいったん職場に復帰し、さらにもう一度「育児休業」を取得する、といったことが可能である。1回目と2回目、それぞれの取得時に申請することになる。

●関連制度①:産後パパ育休(出生時育児休業)

父親が育児に参加しやすくするため、「育児休業」とは別に「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が創設され、2022年10月から実施されている。

これは子の出生から8週間以内=母親が「産後休業」を取得している期間に、父親も最大4週間まで休業できるという制度で、こちらも2回に分割して取得することが可能である。「産後パパ育休」と「育児休業」をそれぞれ分割取得すれば、最大で4回に分けて父親が育児に参加できることになるわけだ。

●関連制度②:パパ・ママ育休プラス

両親がともに「育児休業」を取得する場合、一定の要件を満たせば、「育児休業」の対象となる子の年齢が1歳2カ月まで延長される(ただし「育児休業」の取得可能日数は最大1年間のまま)、という制度である。

「育児休業」と「パパ・ママ育休プラス」の組み合わせは、たとえば「母親は子が1歳に達するまで休業」+「父親は産後8カ月目~子が1歳2カ月に達するまで休業」といった取得パターンを想定したものといえる。

「育児休業給付金」の給付条件と計算・申請方法

「育児休業給付金(育休手当)」とは、「育児休業」を取得した際、その期間の収入を支援することを目的として支給される給付金である。原則として子が1歳に達するまで(それ以前に職場復帰する場合は復帰日の前日まで)支給される。

●「育児休業給付金」の受給資格・支給期間

労働者が下記の要件を満たしている場合、原則として「子の1歳の誕生日の前々日(1歳より前に復帰する場合は終了日)」までの期間、「育児休業給付金」を受け取ることができる。

・雇用保険に加入している
・「育児休業」を取得している(「産前産後休業」は対象外)
・「育児休業」開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上の月が12カ月以上、または就業時間数80時間以上の月が12ヵ月以上
・1支給単位期間中(「育児休業」開始日から起算した1ヵ月ごとの期間)の就業日数が10日以下、または就業時間80時間以下

●「育児休業」期間中の社会保険料の免除

「育児休業」の期間中、下記の要件を満たしている場合には、月給・賞与に係る社会保険料は、被保険者本人負担分および事業主負担分とも免除される。

・その月の末日が「育児休業」の期間中である
・同一月内で「育児休業」を取得(開始・終了)し、その日数が14日以上の場合
・賞与に係る保険料については連続して1か月を超える「育児休業」を取得した場合

●「育児休業給付金」の計算方法

「育児休業給付金」は2カ月ごとに決められた金額が支給され、支給額には上限が設けられている。算出する際の基本計算式は下記の通りである。

【育児休業開始から180日】
休業開始時賃金日額×支給日数(通常は30日)×67%
【育児休業開始から180日目以降】
休業開始時賃金日額×支給日数(通常は30日)×50%

「休業開始時賃金日額」とは、申請時に提出する「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」をもとに、「育児休業」を開始する前6カ月間の賃金を180日で割った金額で、賃金は手取り金額ではなく給与額面(通勤手当、住宅手当、残業手当などを含む)となる。この期間に賞与が支給されていた場合、その金額は含まない。

「育児休業給付金」の支給限度額は毎年8月に更新される。2022年時点では、180日目までは305,319円、181日以降は227,850円となっている。

●「育児休業給付金」の申請方法

「育児休業給付金」を受け取るためには「育児休業」の開始日から4カ月経過後の月末までに、受給資格確認手続きと初回申請を完了させなければならない。その後は原則として2カ月に1回、指定された日までに、ハローワークに「育児休業給付金支給申請書」を提出することとなる。申請は事業主経由でも受給者本人でも可能だが、いずれにせよ支給まで数か月を要する点には注意が必要である。

【労働者が用意する申請書類】
・育児休業給付受給資格確認票(事業主からもらって記入する)
・育児休業給付金支給申請書(事業主からもらって記入する)
・マイナンバー
・育児を行っている事実が確認できる書類(母子健康手帳など)の写し
・給付金を受け取る口座の通帳の写し

【事業主が用意する申請書類】
・育児休業給付受給資格確認票(労働者により記入)
・育児休業給付金支給申請書(労働者により記入)
・(初回)育児休業給付金支給申請書
・雇用保険被保険者 休業開始時賃金月額証明書
・支給申請書の内容を確認できる書類(賃金台帳や出勤記録など)

事業主は、ハローワークから必要な申請書などを取り寄せ、労働者(申請者)に記入してもらい、その他の必要書類と合わせてハローワークに提出・申請する、という流れとなる。

●「育児休業給付金」は支給の延長も可能

以下のような“やむを得ない事情”が認められる場合には、「育児休業給付金」の支給対象期間を最大2歳まで延長することが可能となっている。

・認可保育所への入所を申し込んでいたが入所できなかった
・配偶者の病気・死亡・離婚などにより養育が困難となった
・新たな妊娠によって6週間以内に出産予定

支給延長のためには、その理由に応じて「保育所に入所できないことを証明する書類」、「住民票の写し」、「母子手帳の写し」などが必要となる。

2022年以降の「育児・介護休業法」改正対応のポイント

「育児・介護休業法」に関しては、2021年に大幅改正され、2022年から2023年にかけて順次施行されている内容を十分に把握し、対応していくことが求められる。下記に4つのポイントをまとめる。

●「育児休業」を取得しやすい雇用環境の整備

「育児休業」と「産後パパ育休」について、研修の実施、相談体制の整備(相談窓口の設置など)、自社における取得事例の収集・提供、取得促進に関する方針の周知などに取り組まなければならない。「育児休業」取得者へのハラスメント防止措置、配置・配属(転勤)において育児の状況を考慮することなども事業者に課された義務である。

●個別周知・意向確認

本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対し、事業主は、「育児休業」と「産後パパ育休」の制度、「育児休業給付金」、社会保険料の取り扱いなどに関する周知および休業の取得意向確認を、個別に行わなければならない。当然ながら、取得を控えさせるような個別周知と意向確認は認められない。

●就業規則の改定

「育児・介護休業法」に定められた「育児休業」の取得条件などを反映した形で就業規則を改定しなければならない。また、どのような場合に「育児休業」の取得が認められないかなど、労使協定を整備することも求められる。

●育児休業取得率の公表

2023年4月1日より、従業員数1000人超の企業については、「育児休業」などの取得状況を年1回公表することが義務となった。公表すべき内容は男性の「育児休業などの取得率」または「育児休業などと育児目的休暇の取得率」である。


厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、「育児休業」制度の規定がある事業所(30人以上規模)の割合は95%(前年度93.2%)、「育児休業」取得率は男性が13.97%(前年度12.65%)、女性が85.1%(前年度81.6%)となっている。制度は少しずつ浸透し、取得率も上昇傾向にあるものの、特に男性に関してはまだまだ取得しづらい状況もあるのが事実だろう。

しかし、「育児休業」と「産後パパ育休」の制度確立、独自の「育児休暇」創設などを通じて育休取得率アップを図れば、従業員のエンゲージメント向上や離職防止、求職者へのアピール、企業としてのイメージアップなど、さまざまな効果が期待できる。法令による義務に対応するだけではなく、子育て世帯が不安なく休業・復職できる体制をいち早く確立して“働きやすい企業”を目指す姿勢が、持続的な企業価値の向上につながるだろう。

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