少子高齢化や労働力の流動化がますます加速している。厳しい状況の中、企業は優秀な人材を確保していかなければならないが、意外な盲点となるのが、最終選考後の企業の対応だ。「内定を通知するのが遅れた」、「企業からの真摯な姿勢が伝わらなかった」などの悪い印象は、応募者が入社をためらう要因となるだろう。通知書一つをとっても、迅速かつ誠意ある対応が大切である。本稿では、採用に重要な役割をもつ「採用通知書」について、「内定通知書」や「採用証明書」など他の類似書類との違い、発行目的や効力など、どのような意味をもつのか解説していきたい。
「採用通知書」と「内定通知書」の違いとは? ハローワークに提出する「採用証明書」との違い、発行目的や効力も解説

「採用通知書」の目的とは?

まず、最初に「採用通知書」の定義や発行する目的について説明しよう。

◆「採用通知書」とは

「採用通知書」とは、企業が最終選考を通過した応募者に採用意思を正式に伝えるための書類だ。これを受け取ることで、応募者は自分が採用されたことを認識する。一般的には、先に内定通知書を送付し応募者から承諾を得た段階で送ることが多いが、「採用通知書」のみの企業もある。

◆「採用通知書」を発行する目的

・採用の決定を確実に通知する
目的の一つが、企業として採用が決定したことを応募者に確実に伝えることである。「採用通知書」の交付は法律上では必要とされてはいないものの、口頭レベルで済ませてしまうと「企業の意思が伝えきれていなかった」などのトラブルに繋がりかねない。

・応募者の入社意思を高める
企業の採用意思を伝えることで、応募者の入社意思を高める効果も期待できる。

◆「不採用通知書」について

「不採用通知書」は、「採用通知書」と反対に、採用に至らなかった応募者に選考の結果を通知する書類である。注意しなければいけないのは、個人情報の取り扱いである。面接時に履歴書や職務経歴書を預かった場合には、選考後に返却しなければいけない。多数の応募者に返却する作業を防ぐには、求人広告の応募要項に「選考を通過されなかった方の応募書類は当社で責任を持って破棄いたします」の一文を記載するなど注意が必要である。

「内定通知書」や「労働条件通知書」など他書類との違い

「内定通知書」に類する書類が幾つかある。それらについて説明したい。

◆「内定通知書」との違い

「内定通知書」は、最終選考を通過した応募者に対して企業が内定の意思を通知する書類である。「採用通知書」との違いは、通知内容が「内定」決定か、「採用」決定かという点である。いずれも発行を義務付けられているわけではない。

そのため、企業によって意味合いや取り扱い方は異なってくる。両方を明確に区別している企業もあれば、「採用内定通知書」として送付している例もある。また、中途採用だと内定から入社までの期間が短いケースが多いので、「内定通知書」ではなく「採用通知書」を送付するケースが一般的といえる。「内定通知書」を発行するタイミングは、新卒採用の場合、政府からの要請もあって10月1日以降が主流となっている。

◆「雇用契約書」との違い

「採用通知書」が雇用契約を締結する意思を企業として示した書類であるのに対し、「雇用契約書」は、民法や労働契約法で規定している雇用契約に関する事項を記載した書面である。企業と従業員との間における労働条件が詳細に示されている。まずは、「採用通知書」を送付し、その後「雇用契約書」を取り交わすという流れになる。

◆「労働条件通知書」との違い

「労働条件通知書」は、労働基準法第15条第1項に基づいて企業が労働者に対して賃金や労働時間、契約期間、就業場所、業務内容などの労働条件を示す書類である。法改正により2019年4月からは、書面だけでなくFAXやメール、SNS等でも明示できるようになっている。「労働条件通知書」を「採用通知書」と兼ねることも可能だ。ただし、その場合には「労働条件通知書」に記載すべき項目を確実に網羅し、労働者にも署名捺印をもらい相互で合意内容を明示することが望ましい。

◆「採用証明書」との違い

「採用証明書」とは、失業者が再就職できた際に失業保険の受給停止や再就職手当受給のためにハローワークに提出すべき証明書である。「採用通知書」とは、発行目的や交付対象が全く異なっている。

「採用通知書」の記載事項と同封書類

次に、「採用通知書」に記載すべき項目と、送付の際に同封すべき書類について確認したい。

◆「採用通知書」の一般的な記載事項

「採用通知書」の記載事項、様式には法的なルールはない。ただし、一般的には以下の項目が記載されることが多い。

・応募者の氏名
書面の左上に記載する。

・日付
発行した日にちを記載する。

・社名
・代表取締役の氏名
日付や社名、代表取締役の氏名は、書面の右上に記載する。

・採用試験への応募のお礼
・採用決定のお知らせ
応募のお礼と採用決定の告知は、本文に記載する。

・入社日
・提出書類の内容と提出期限
・担当者、連絡先
記載した内容に関して応募者が不明点、疑問点を抱く可能性もあり得る。その際に、応募者が問い合わせできるよう担当者の連絡先を記載する。

◆「採用通知書」の同封書類

「採用通知書」に同封することが多い書類は、以下の通りだ。

・入社承諾書
・入社誓約書
上記の2つは、「採用通知書」を受け取ったことに対する応募者の入社意思を明確にするものだ。本文には、「採用通知書」を受領した旨と日付、入社の承諾、承諾書や誓約書を提出した後に理由なくまたは無断で拒否をしないことなどを記載する。書面の最後に本人の氏名記入欄と押印欄を設ける。加えて、入社誓約書には入社に当たって順守すべき事項、内定取消の理由となる事項などが記載されることが多い。

・労働契約書
労働契約書は企業と労働者の間で交わされる契約内容を記載した書類だ。お互いが合意していることを表すために、それぞれが1部ずつ保管されることが一般的である。労働基準法では、採用に際して書面で明示すべき労働条件が規定されている。それらを記載した書類は、一般的には労働条件通知書と呼ばれているが、労働契約書に明示すべき労働条件を記載していれば、あえて発行する必要はない。

・添え状
送付した書類の内容や枚数を記載した添え状も、一般的なマナーなのでぜひ同封したい。

・返信用封筒
入社承諾書や入社誓約書、労働契約書などに署名・押印をした書類を返送してもらう際に利用する封筒も同封しておけば、宛名の記載漏れ・記載ミスなどによる郵送リスクの防止になる。

「採用通知書」の法的効力と注意点

ここでは、「採用通知書」の法的効力と注意点を取り上げたい。

◆「採用通知書」の法的効力について

法律に規定があるわけではないが、「採用通知書」も法的効力がないとは言い切れない。応募者の応募行為が労働契約の申込に該当し、企業が「採用通知書」を交付することは契約の承諾に当たると考えられているからだ。労働契約が成立しているのであれば、法的効力も発生する。そのため、正当な理由がない限り企業による取り消しは難しいとされている。一方、応募者側にも法的な効力が発生するのであろうか。当然ながら発生するものの、民法では労働者側からの労働契約の解除が保障されている。そのため、辞退を止めることはできないといえる。

◆「採用通知書」送付の注意点

・採用決定後、できる限り早く送付する
優秀な人材を採り逃さないためにも、採用を決定したら速やかに結果を伝えるようにしたい。遅くなると、応募者は先に採用通知を受け取った他社への入社を決めてしまったり、転職を考え直したりといった可能性もあり得る。スピーディに対応することで応募者のモチベーションを高めることが期待できる。

・郵送の場合は書留で送付する
「採用通知書」を郵送する場合は、簡易書留や特定記録郵便などを推奨したい。追跡サービスが可能であり、確実に配達されたかどうかを確認できるからだ。受け取る側にとっても、ダイレクトメールなど他の郵送物などに紛れるリスクもあり得る。また、送付する際には書類を折り曲げずに済むようなサイズの封筒に封入するようにしたい。さらには、封筒の表面に本人の注意を引くよう「採用通知書在中」「選考結果在中」と封入物の内容も記載しておこう。

・メールによる送付も可能
「採用通知書」は郵送でなく、電話やメールで伝えることも可能だ。注意しなければいけないのは、メールだと迷惑メールに埋もれたり、見落としてしまう可能性があるということ。そのため、可能であれば書面での交付としたい。もし、メールで送付する場合には、選考時に応募者に対してその旨を伝えておく必要があるだろう。

・押印について
法律に準拠すると雇用契約は口頭だけでも成り立つ。そのため、原則的には書面を交付したとしても押印は不要となる。ただし、企業が発行したことの証明を示すため、また悪用などのトラブルを避けるためには押印をした方が無難であるといえる。


「採用通知書」には、「採用の決定を確実に通知し、お互いの認識のズレを回避する」、「応募者に採用が決まったことを実感してもらい、入社意思を高めてもらう」といった目的がある。発行に法的義務はないが、採用をスムーズに行うためには重要なプロセスだといえる。「採用通知書」と同様、不採用通知書の送付も迅速に行うなど、応募者に誠意ある対応を心がけたい。
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