最近上映された映画、『シン・ウルトラマン』は、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、安倍前首相逝去といった、ともすると暗くなりがちなトピックスばかりの中で、怪獣と伝説のヒーローの対決という、安心できる「定番」の令和バージョンとして大ヒット作となりました。怪獣とそれを退治するヒーローのドラマという昭和の怪獣映画の基本構造をそのまま生かしたこのリメイク作品は、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明脚本、数々の怪獣映画を手掛けた樋口真嗣監督によるものでした。定番作品に「シン」と付けてリメイクされた作品の嚆矢は、同じこの二人のコンビで作成された2016年の『シン・ゴジラ』です。イノベーションに関する人財の確保、育成について、今回は、怪獣襲来という「普通ではない状況」=戦時、に求められる「人財ポートフォリオ」について、集められた官僚による対策メンバーを見ながら考察してみます。同じく、構造改革、経営改革を求められている、つまり「戦時」と言って良い、多くの日本企業における「イノベーション」、それも「破壊的イノベーション」を起こす人財について考えてみましょう。
『シン・ゴジラ』から学ぶ、破壊的イノベーションを起こすための「人財ポートフォリオ」と「組織のリーダー像」

『シン・ゴジラ』とイノベーションの関係

『シン・ゴジラ』では、「巨大不明生物特設災害対策本部」を率いる長谷川博己演じる主人公の矢口議員を、「他の政治家や官僚らとは異なり、既定路線や型にはまった考え方に捕らわれない人物」として描いています。

また、高橋一生、市川実日子などの対策本部のメンバーは、皆それぞれ科学的な専門領域のエキスパートでありながら、そしてここが大事なことなのですが、そのKY的な行動特性からか、あまりにオタクすぎる性格からか、各所属部署では全く評価されずに燻っていた「変わり者」ばかりが意図的に対策本部に集められたのでした。

そんなメンバーだったからこそ、モニターに映し出された、見たこともない巨大不明生物の存在をいち早く「現実」として受け入れ、前例のない科学的な対応策で、最後にはゴジラを倒します。

しかし、その経緯については、(もちろんフィクションなのでステレオタイプな葛藤がデフォルメされているわけですが)穏便に済まそうと事実を歪めて国民に伝えようとする政治家、メンバーの対策について横槍を入れて阻止しようとする官僚……様々な障害が待ち受けるのです。

変態を繰り返しながら強力になっていく令和のゴジラに対峙する変わり者集団の作戦には、それこそ「イノベーション」と言っていいほどの斬新な科学的方法がふんだんに盛り込まれています。

無人戦闘機のミサイルによりゴジラのエネルギーを使い果たさせ……無人の新幹線をゴジラに衝突させ気を逸らしながらゴジラを転倒させ……そして倒れたゴジラの口に血液凝固剤を注ぎこみ、ゴジラの身体を-196℃に凍結させる「ヤシオリ作戦」(日本神話にてスサノオノミコトが八岐大蛇を酔いつぶれさせた《八塩折之酒(やしおりのさけ》から矢口により命名された)……。普通で言えば、とても実行できるはずのない荒っぽい対策を、この映画では実行してしまいます。

映画の話ですが、何とか実行できたのは、内閣副官房長官である矢口のリーダーシップの賜物でもあり、シン・ゴジラの強さを目の当たりにして俄然盛り上がった政府・官僚組織内での「危機感」という要素も忘れてはいけないように思います。

この物語は、既存の商品・サービスだけではジリ貧になることが分かっている危機的な状況なのに、それでもイノベーションに真面目に取り組まないできた日本企業への警鐘でもあります。とりわけ事なかれ主義でリスクを取って経営判断を果断に行うことがなかった日本の大方の経営者の滑稽さを描くことによって、ストーリーに深みを与え、社会や会社の中で「何も変わらない」という閉塞感を抱く人々の共感を獲得したと言えそうです。

『シン・ゴジラ』から学ぶ破壊的イノベーションを起こすための2つのポイント

さて、『シン・ゴジラ』は、使命感に燃えるリーダーを中心とし、「ワカモノ、バカモノ、ヨソモノ」を必要とすると言われる、組織の改革について、「バカモノ」を結集する形で、日本の危機を救いました。

破壊的イノベーションを成し遂げる「人財ポートフォリオ」は、「ワカモノ、バカモノ、ヨソモノ」が主体の変わり者集団であり、組織のエリート集団ではありません。
エリートは、無謬性であることを組織に課し、リスクを取ることに極めて慎重です。他人に対し、新たなことを始める際には徹底的に検討させ、成功のハードルを高めに設定し、それを超えるための万全なる方法論を求めます。そんなものが容易にあるなら、既に誰かがやっているでしょう。

そのようなエリートが権力を持っている組織、そういう雰囲気がそこかしこに漂っている日本の組織が、「失われた30年」を現出させたのです。

2016年のこの『シン・ゴジラ』に続いて、2020年の『日本沈没』、そして2022年の『シン・ウルトラマン』という形で、日本の国難と言っても良いような、危機に対応するドラマは作り続けられています。

破壊的イノベーションを必要とする経営上の大きな危機に対して、「ワカモノ、バカモノ、ヨソモノ」を抜擢して対応させるようなことが世の中の常識になる時代が到来するまで、日本では、こうしたドラマによる「提言」が繰り返されるかもしれません。

この『シン・ゴジラ』から、「イノベーション」というものについての示唆は、以下の2点です。

(1)破壊的イノベーションという非連続的な重大なイノベーションを起こすためには、「ワカモノ、バカモノ、ヨソモノ」を多く登用する人財ポートフォリオを構築するのが良い。

(2)そのチームの長は、社内的に力があり、チームのメンバーを守るイニシアティブを持ったリーダーである必要がある。


「やってみないとわからないから、まずやってみる」、「やってみながら、修正し改善していく」……ある意味「いい加減に見える」、そんなイノベーションに対する考え方の変革こそが日本の会社を救い、そういうことがわからない会社は、徐々に衰えていくのでしょう。

「ワカモノ、バカモノ」にもイノベーションを委ねられないこうした会社が悪循環から抜け出すには、「ヨソモノ」である外部のコンサルタントなどを採用することでもしない限り難しいのかもしれません。

何をするのか明確な「ジョブ型雇用」の導入、人をコストではなく資本と見做す「人的資本」についての開示が必要になってきた、そんな今……失われた30年を打破するためにHRを改革するための道具立ては揃ってきました。

破壊的イノベーションを起こせるような人財育成・確保についても、「破壊的」な手立て……社内の変わり者人財の活用による、つまらない社内常識、シガラミ、しきたりをゼロクリアするような新たな「ヤシオリ作戦」(シン・ゴジラで用いられた突拍子もない作戦)が、日本の企業に今求められているのではないでしょうか。
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