障がい者雇用が進む中、厚生労働省は雇用施策と福祉施策の連携強化や具体的な検討の方向性を議論することを目的とした「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」を開催し、令和3年6月に報告書を公表しました。検討会の中で議論された内容から、今後の障がい福祉施策や障がい者雇用の方向性について考えます。
障がい福祉施策から見た障がい者雇用の今後の流れと企業が考えていくべきこととは?

「障がい者雇用」と「障がい福祉施策」との関係

障がい者雇用には、障がい福祉施策が深く関係しています。特に、障がい者の就労支援施策は障がい者雇用に直結しています。障がい者雇用関連の情報とともに、障がい福祉施策の動向についても情報収集することは、組織に合った障がい者雇用を進める上でも役立つことを覚えておいていただきたいと思います。

厚生労働省は令和2年9月、雇用施策と福祉施策の連携強化に向け、具体的な検討の方向性を議論する「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」を立ち上げ、3つのワーキンググループで検討を行なってきました。それぞれのワーキンググループのテーマは、「障がい者の就労能力等の評価」、「障がい者就労を支える人材の育成・確保」、「障がい者の就労支援体系」です。特に、企業の雇用に関係するものとしては、3つ目の「障がい者の就労支援体系の在り方に関するワーキンググループ」で、雇用施策と福祉施策の連携に関する現状や課題が扱われました。

また、これらの検討会の中でも改めて確認されたのが、「障がいのある人もない人も共に働く社会を目指し、多様な働き方が広がる中、障がい者本人のニーズを踏まえた上で、一般就労の実現とその質の向上に向けて、障がい者本人や企業等、地域の就労支援機関を含むすべての関係者が最大限努力すること」です。つまり、地域で働くことを希望する障がい者が、その能力や適性に合わせて働くことにチャレンジできる社会を実現し、企業での一般就労および福祉的就労を進めるという方向性が示されました。

令和3年の「障害者雇用状況の集計結果」によれば、同年は雇用障がい者数、実雇用率ともに過去最高となりました。雇用障がい者数は59 万 7,786人で対前年比3.4%増、人数にして1万 9,494人の増加となり、雇用者数は18年連続で過去最高を更新しました。また、実雇用率は2.2%で、対前年比0.05ポイント上昇しています。このような増加の流れは、障がい福祉施策の状況を見ると、今後も続く、もしくは加速していくと言えるでしょう。

なお、就労系障がい福祉サービスには、就労移行支援事業、就労継続支援事業A型・B型があります。就労移行支援事業所は、「障害者総合支援法」に定められた障がい福祉サービスのひとつである就労移行支援を提供する事業所のことで、障がい者を採用するときに活用されている企業も多いと思います。障がい者が働くために必要な知識・能力を身につける職業訓練や企業実習などを行い、2年間の訓練期間中に企業への就労を目指します。就労継続支援事業A型・B型は、一般就労が難しいものの、就労することに備えて必要な知識やスキルを向上させるために必要な訓練を受けられる事業所のことです。詳細は、文末の参考リンクをご覧ください。

就労移行支援事業は、利用期間が2年間以内と設定され、就職を目指した取り組みが集中的に行われますが、就労継続支援事業A型・B型は、移行支援事業所ほど就労に重きがおかれることはありませんでした。しかし、「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」の中では、「一般就労」の可能性を探りつつ、それを希望する場合には、実現に向けてどのような支援が必要かという議論が多く行われました。また、障がい者本人にも意欲があり、企業等で働く可能性があったにも関わらず、十分な情報や支援等が提供されなかったために一般就労を諦めたケースがあったことも示され、福祉と雇用の両施策の連携の強化の重要さが強調されました。

障がい者雇用に見られる変化と企業が行うべき準備

一方で、企業での障がい者雇用についての取り組みを聞くと、「厳しい、難しい」という声をよく聞きます。確かに、雇用の拡大とともに、障がい者雇用には変化が見られています。身体障がい中心の雇用から、知的障がいへの雇用と広がり、近年では精神障がい、発達障がい、難病の障がい者雇用も広く受け入れられるようになりました。それに合わせて、雇用障がい者の障がいの重度化なども見られ、多様な障がい者雇用の対応が求められるようになっています。企業では、時代や状況に合わせた障がい者雇用を考えていく必要があるといえるでしょう。

例えば、勤務時間は、障がい者雇用としてカウントできる30時間(短時間カウントでは20時間)以上が一般的でしたが、週20時間程度の労働は厳しいものの、全く働けないわけではなく、ごく短時間であれば働ける障がい者を含めて活躍できる場をつくろうとする動きも始まっています。精神障がい者などで、20時間未満の短時間であれば就労可能な障がい者の雇用を確保することができないかという議論が行われた結果、障がい者雇用としてカウントはできないものの、特例給付金を支給することが決まり、平成30年の障害者雇用促進法の改正で反映されています。

また、新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークを導入する企業が増えたことから、障がい者雇用においてもテレワークという働き方を導入する企業も増えてきました。ある企業では、テレワークに切り替えたことで一時的に生産性が落ちるのではないかと心配したそうですが、結果的に業務における生産性があがったそうです。精神障がい、発達障がいの社員が多いということもあったかもしれませんが、通勤ストレスがなくなることや、オフィス勤務における感覚過敏からくるストレスなどが極端に減ったことにより、働きやすくなったということが考えられます。

これは、障がい当事者にとってのメリットですが、企業側には、労働環境を整えるコストが削減できるといったメリットがあります。障がい特性に合わせた配慮のために設備投資などを行っている職場は少なくありません。例えば、疲れやすく身体的な休憩が必要な社員向けに休憩室や仮眠室を準備する、気が散りやすい社員には机のパーテーションや個室のワーキングスペースを設けるといったケースです。しかし、テレワークであれば、これらの環境整備がなくても障がい者を雇用することができます。

また、近年は首都圏など、企業の多い地域では、障がい者採用の倍率が大きく上昇しています。一方で、交通機関などが限定される通勤の難しい地域などでは、採用したくても応募者がいないこともよくあります。しかし、テレワークが進めば、企業は応募者が住んでいる地域や通勤の困難さなどに関係なく採用することができ、障がい者にとっても働く機会が増やすことができます。

障がい者雇用をさらに進めていくためには、各企業に合わせた採用戦略をたてることが必要です。障がい者雇用に対し、経験や関わりが少なかったりすると、障がい福祉機関からのアドバイスや意見を鵜呑みにする企業の方が一定数います。しかし、障がい者雇用は福祉や教育とは異なります。障がい者を継続的に雇用するには、「組織に必要とされる業務にマッチする人材を雇用すること」が何よりも大切になってきます。どのような業務が求められており、それがどのような人材の雇用につながるのか、またそれをどのように提案すれば社内で受け入れられるのかなどは、それぞれの企業の中にいる方でないとわかりません。合わせて、採用する人材が組織の文化や雰囲気に合うかどうかも重要です。同じ業務内容でも、社風や社員の方の考え方などによって、障がい者の受け入れ体制はかなり異なるものとなるからです。

今後、さらに就労系障がい福祉サービスからの企業就労は増えていくでしょう。企業は障がい者雇用率を達成することとともに、時代や状況、そして何よりも組織に合った障がい者雇用を進めることが求められています。

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