HR総研:「データドリブンな人事と人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート 結果報告(第2報)高エンゲージメント企業ほど、企業に好影響を与える変化が得られる傾向
今後も続くであろうVUCAの時代を生き残るため、必要な意思決定とアクションをとれるデータドリブンな人事が不可欠となっており、企業が持続的な成長を果たすために「人的資本経営」の推進が重要となっている。また、有価証券報告書での開示義務化から1年経過し、企業ではどのような動きが出ているのだろうか。
HR総研では、企業の特徴により異なる人材データの把握・活用・開示、人的資本経営の捉え方や取組みの実態を把握するアンケートを実施した。第2報では主に「人的資本開示」に関する調査結果について報告する。
人的資本経営企業の半数以上で「従業員エンゲージメント」の数値的な効果検証を実施
まず、人的資本経営に関連する3つの施策テーマ「従業員エンゲージメント」「社員のウェルビーイング」「DE&I」について、回答企業の重視度を見てみる。
「従業員エンゲージメント」については、「やや重視している」が最多で35%、「重視している」が25%で、これらを合計した「重視している派」(以下同じ)は60%と6割に上っている。一方、「重視していない」と「あまり重視していない」を合わせた「重視していない派」は14%と2割未満で、「重視している派」が46ポイント差で圧倒的に多くなっている。
「社員のウェルビーイング」では「重視している派」が48%と半数近くで「重視していない派」が20%となり、「従業員エンゲージメント」の割合よりは少ないものの、2倍以上のポイント差で「重視している派」が高くなっている。
そして「DE&I」については「重視している派」が42%と3テーマの中では最も低い割合となっており、逆に「重視していない派」は25%と4分の1に上り、最も高い割合となっている(図表1-1)。
この主要な3テーマの中では「従業員エンゲージメント」が最も重視されており、「社員のウェルビーイング」もある程度多くの企業に重視されるようになっているものの、「DE&I」の重要性を認識する企業も今後より増えていくことが望まれる状況となっている。
【図表1-1】各施策の重視度
各施策テーマに関する社内の現状について、5段階評価のうち上から1,2段階である「高い」「やや高い」(「従業員エンゲージメント」と「社員のウェルビーイング」の状況の場合)もしくは「浸透している」「やや浸透している」(「DE&I」の状況の場合)とする企業の割合を見てみる。回答企業全体と人的資本経営に取り組んでいる「人的資本経営企業」(以下同じ)に分けて各割合を見てみると、いずれの施策テーマにおいても全体より人的資本経営企業の割合の方が顕著に高く、全体では3割未満にとどまるのに対して人的資本経営企業では半数近くに上っている(図表1-2)。
人的資本経営企業では、各施策テーマを重視するだけではなく、社内の状態も良好に保っている企業が全体平均より比較的多い傾向であることが分かる。
【図表1-2】各施策テーマに関する社内の現状 回答企業全体と人的資本経営企業の比較
さらに、各施策テーマの効果検証の状況についても、回答企業全体と人的資本経営企業とで比較してみる。
「数値的な効果検証をして、PDCAに活用している」と「数値的な効果検証をしているが、PDCAには活用していない」を合計した「数値的な効果検証をしている」(以下同じ)の割合を比較してみると、いずれの施策テーマにおいても全体より人的資本経営企業の方が「数値的な効果検証をしている」割合が高い傾向になっている。特に「従業員エンゲージメント」では、全体でも32%と3割を超え、人的資本経営企業では53%と過半数に上っており、データドリブンな取組みが進んでいることがうかがえる。一方、「DE&I」については最も多いのが「定性的な効果検証を行っている」で36%と4割近くに上り、「数値的な効果検証をしている」割合は人的資本経営企業でも21%と2割にとどまり、全体ではわずか11%と1割程度となっている。「DE&I」を重視する企業の割合も低い状態で、数値での効果検証も「従業員エンゲージメント」や「社員のウェルビーイング」より実施しづらい性質があることが推測され、データドリブンな取組みの推進は、現状ではハードルが高い状態なのだろう(図表1-3)。
【図表1-3】各施策の効果検証の状況 回答企業全体と人的資本経営企業の比較
人的資本開示と投資家との対話、グローバル企業では3割以上が実施
人的資本経営に関する取組みの開示・投資家との会話の状況については、「公式な人的資本レポートや統合報告書等で開示していない」が最多で61%と6割に上り、「公式に開示し、投資家との対話を行っている」(「公式な人的資本レポートや統合報告書等で開示し、投資家との対話を定期的に行っている」と「公式な人的資本レポートや統合報告書等で開示し、投資家との対話を始めている」の合計、以下同じ)の割合は20%にとどまっている(図表2-1)。
第1報で示したとおり、人的資本経営に取り組む企業は大企業では6割近く、中小企業でも3割程度あるものの、取組み状況の開示や投資家との対話まで行っている企業は少数派であることが分かる。
【図表2-1】人的資本経営に関する取組みの開示・投資家との会話の状況
人的資本経営に関する取組みの開示・投資家との会話の状況について、回答企業全体、高エンゲージメント企業およびグローバル企業を比較してみる。
「公式に開示し、投資家との対話を行っている」の割合を比較すると、高エンゲージメント企業では28%、グローバル企業では34%と3割前後に上っており、最も高い割合となっている(図表2-2)。海外拠点を持っている、もしくは海外との取引を行っているグローバル企業では、日本国内だけでなく海外のステークホルダーからの視線を考慮する必要があるため、人的資本開示と投資家との対話を重要視する企業が多くなる傾向になるのだろう。
【図表2-2】人的資本経営に関する取組みの開示・投資家との会話の状況(高エンゲージメント企業・グローバル企業との比較)
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【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】「データドリブンな人事と人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2024年4月15~26日
調査方法:WEBアンケート
調査対象: 企業の人事責任者・担当者
有効回答:185件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
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著者:
HR総研
HR総研は働き方・採用・人材育成・マネジメントなどの領域で広く調査を実施し、 その結果を広く社会に共有する調査機関です。
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「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況(全体)を、回答企業全体、大企業および高エンゲージメント企業についてそれぞれ確認してみた。まず回答企業全体の傾向を見ると、「社外に開示している」の割合が最も高いのが「生産性」で17%、次いで「多様性」「採用」「コンプライアンス・倫理」がともに12%などとなっており、いずれも2割に満たない状況となっている。また、「社内で開示している」まで合計した「社外もしくは社内で開示している」(以下同じ)の割合は、「生産性」が43%と4割を超えるものの、それ以外の項目は4割に満たず、社外もしくは社内での開示をしている企業は依然として少数派であることがうかがえる(図表3-1)。【図表3-1】「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況(全体)次に大企業の傾向を見ると、「社外に開示している」の割合が最も高いのが「生産性」であることは全体と同じだが、その割合は32%と3割に上り、「社内で開示している」まで合わせると67%と7割近くに上っている。「社外に開示している」の割合について「生産性」に次いで「多様性」が26%、「採用」が23%などと2割以上となり、全体の傾向より顕著に高い割合となっていることが分かる。また、「社外もしくは社内で開示している」の割合で見るとほぼ全ての項目で4割程度以上となり、「ウェルビーイングへの取り組み」、「スキル・能力」、「サクセッションプラン」の3項目以外は半数程度以上にも上っている(図表3-2)。全体より大企業の方が顕著に高い開示率となっている背景には、人的資本に関する情報について有価証券報告書での開示が義務化されたことが少なからず影響していることが推測される。【図表3-2】「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況(大企業)高エンゲージメント企業でも大企業と同様に「社外もしくは社内で開示している」の割合は半数~6割近くに上る項目が多い中、特徴的な傾向として「組織の健全性・安全性」と「組織文化」について「社内で開示している」の割合がともに41%と4割を超えている。社員に対して会社の特色や組織状態を明確に示すことで、社員の安心感が得られ、会社に対するエンゲージメントの向上につながっているのではないだろうか(図表3-3)。【図表3-3】「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況(高エンゲージメント企業)人的資本経営への取組みを行っている企業について、企業に好影響を与えうる変化の状況を確認してみた。回答企業全体と高エンゲージメント企業に分けて比較してみる。「変化している」と「やや変化している」の合計を「変化している派」として、その割合を見てみると、「従業員の意識・行動」、「経営層の意識・行動」、「組織全体の文化」、「株主・投資家や顧客との関係性」の4項目全てにおいて、全体より高エンゲージメント企業の方が顕著に高い割合となっていることが分かる。高エンゲージメント企業では「組織全体の文化」が73%、「従業員の意識・行動」が71%といずれも7割を超えているのに対して、全体ではそれぞれ40%、41%と4割程度にとどまっている。「経営層の意識・行動」については、全体より高エンゲージメント企業の割合の方が高いものの、「変化している派」の割合は57%と6割近くとなっており、「従業員の意識・行動」や「組織全体の文化」に比べると低い割合となっている。高エンゲージメント企業でも、経営層より従業員の意識や行動の方が先に変化する傾向にあることがうかがえる(図表4-1)。【図表4-1】人的資本経営への取組み企業 企業に好影響を与えうる変化の状況それぞれの変化について、具体的にどのような変化が見られているかについて、フリーコメントによる主な意見を抜粋し、以下に紹介する(図表4-2)。【図表4-2-1】「従業員の意識・行動」に関する変化の内容(一部抜粋)
| 「従業員の意識・行動」に見られる変化 | 従業員規模 | 業種 | | 会社が少しずつ変化してきたという実感が湧き、社内のセミナー・イベントへの積極的な参加が増えてきている | 1,001名以上 | メーカー |
| 積極性+創造性 | 1,001名以上 | サービス |
| 経営方針に則った、自身の業務の自分ごと化している | 1,001名以上 | メーカー |
| 各テーマに対してのディスカションが行われるようになった | 1,001名以上 | 情報・通信 |
| 新規事業への投資が明確になり意識が前向きになりつつある | 1,001名以上 | メーカー |
| 市場動向に敏感になった | 301~1,000名 | メーカー |
| 社内コミュニケーションの向上 | 301~1,000名 | メーカー |
| 定着率の向上 | 301~1,000名 | 商社・流通 |
| 会社が変わろうとしている、という視点を持つようになった(会社への期待) | 301~1,000名 | メーカー |
| 自己の成長機会についての意思表示 | 301~1,000名 | メーカー |
| とくに若手社員のモチベーション向上を感じる | 301~1,000名 | 情報・通信 |
| 経営参加意識の向上 | 300名以下 | サービス |
| DE&Iへの認識が高まってきている | 300名以下 | 情報・通信 |
| 組織として目指したい方向性の共有 | 300名以下 | サービス |
| デジタルリテラーシーの部分的向上 | 300名以下 | サービス |
【図表4-2-2】「経営層の意識・行動」に関する変化の内容(一部抜粋)
| 「経営層の意識・行動」に見られる変化 | 従業員規模 | 業種 | | 個人の能力に頼った勘や感覚の経営議論から、定性的または定量的に視覚化したものでの経営議論に変化してきている | 1,001名以上 | メーカー |
| 積極的な発信が見られるようになっている | 1,001名以上 | 情報・通信 |
| 新規事業への挑戦の姿勢が見られる | 1,001名以上 | メーカー |
| 変化は感じられないが、コミュニケーションを取ろうとしている | 1,001名以上 | メーカー |
| 人材の市場価値に関心が高まっている | 301~1,000名 | メーカー |
| データ開示をよく依頼されるようになったので、興味関心の高まりがうかがえる | 301~1,000名 | メーカー |
| 経営からの従業員へのダイレクト発信が増加した | 301~1,000名 | サービス |
| 時代に合わせた人材管理への関心が強化 | 301~1,000名 | メーカー |
| 相手にわかる言葉・行動をするようになった | 300名以下 | サービス |
| 問題解決への具体的な方向性 | 300名以下 | サービス |
| 現在の立ち位置を理解してきている。 | 300名以下 | マスコミ・コンサル |
【図表4-2-3】「組織全体の文化」に関する変化の内容(一部抜粋)
| 「組織全体の文化」に見られる変化 | 従業員規模 | 業種 | | 組織全体としては浸透にばらつきがある。温度差を埋めるのが現課題ともいえる | 1,001名以上 | メーカー |
| 既存の意識らとらわれない発想と行動の変化 | 1,001名以上 | メーカー |
| I&Dに理解が深まる | 1,001名以上 | メーカー |
| 上意下達型組織からボトムアップ型へ変革中 | 301~1,000名 | サービス |
| 組織活性度の向上 | 301~1,000名 | メーカー |
| 国籍、年齢、性別を問わないオープンな社内雰囲気の醸成 | 301~1,000名 | 情報・通信 |
| 以前より従業員同士の会話が増えている | 300名以下 | メーカー |
| 多様な考え方があるということが理解できるようになった | 300名以下 | サービス |
| インクルージョンに向けてマインドの変化が少し見られる | 300名以下 | 情報・通信 |
| 組織全体のブランディング意識の構築 | 300名以下 | サービス |
【図表4-2-4】「株主・投資家や顧客との関係性」に関する変化の内容(一部抜粋)
| 「株主・投資家や顧客との関係性」に見られる変化 | 従業員規模 | 業種 | | 概ね将来性も含めて好印象を持っていただけている | 1,001名以上 | メーカー |
| 社会的存在意義の認知 | 1,001名以上 | サービス |
| SR活動における建設的な意見交換 | 1,001名以上 | メーカー |
| 株主・投資家が積極的に意見を述べてくるようになった | 301~1,000名 | メーカー |
| 正確に自社特長を理解いただいている | 301~1,000名 | 情報・通信 |
| 株主・利害関係人からの支援が得られる | 300名以下 | サービス |
| 顧客サービスの向上と客単価上昇がみられる | 300名以下 | サービス |
最後に、「人的資本経営」に関する今後の取組み意向について見てみると、「現状を維持して推進する」が最多で34%、次いで「さらに積極的に推進する」が31%で、これらを合計した「今後も推進していく派」は65%と7割近くとなっている。一方、「今後も実施しない」は30%と少数派で、現在取り組んでいる企業のほとんどは今後も推進していく意向であることがうかがえる(図表5)。【図表5】「人的資本経営」に関する今後の取組み意向
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