ビジネスシーンで良く使われるようになった言葉に「インクルージョン」がある。時には、ダイバーシティに代わって用いられ、また時には、ダイバーシティ&インクルージョンとして並んで用いられる。果たして、「インクル―ジョン」とはどのような意味を持っているのか。ダイバーシティとはどう違うのか。さらには、代表的な企業事例にはどのようなものがあるのかを詳しく解説していきたい。

「インクルージョン」の意味とは

「インクルージョン」とは、企業内で多様な人々がお互いに個性や価値観、考え方を認め合い、一体感を持って働いている状態、あるいは平等に機会が与えられた状態を指す。この場合、「インクルージョン」の対象は人の属性となる。男性・女性という「性別」、日本人・外国人という「国籍」、障がいのあり・なし、介護対象の有無など企業にはさまざまな属性の人間がいる。それらの違いを受け入れ、むしろ活かしていくことが企業には求められている。

●「インクルージョン」が重要視される背景

ここでは、二つの観点から「インクルージョン」が重要視される背景について述べたい。一つは、単一的なモノカルチャーで勝負しにくい時代になってきていることである。現在、世界レベルでサービス業の比率が年々高まっている。しかも、そのサービス業において顕著なのが、ソフト化と短サイクル化だ。これらをクリアしなければ、生き残ることが難しい状況にある。組織に同じ価値観を持った人ばかりでは、イノベーションも生まれにくい。だからこそ、多様な人材を活かしていかなければならないと考えられている。

もう一つは、労働市場が流動化してきたことによって、自分の価値観に合致した会社に移りやすくなっていることがある。ここでいう価値観も、年収のアップ、より上位の役職に就くことだけに重きを置くのではない。働く上で大切にしたい考えにこだわる人も増えてきている。また、女性活躍推進も求められているほか、外国人やLGBTの方などの採用も活発化している。そうした課題を解決していくためにも、「インクルージョン」が重要であると言われている。

●ダイバーシティとの違いや関係性

「インクルージョン」に類する言葉として、ダイバーシティがある。これは、英語で多様性を意味する単語だ。ビジネスシーンでは異なる性質のものが共存するとか、お互いの違いを認めた上で人材を迎え入れるといったニュアンスで用いられる。言い換えれば、組織として人材の多様性を認め、さまざまな人々が参加する機会を得られるようにしていこうという考え方だ。

多様性の捉え方はさまざまある。人種や国籍、性別、年齢、性格、学歴など幅広い。それらに関わりなく多様な人材が活躍できる社会、企業でなければならないということで注目されている概念と言える。それを発展させて、従業員一人ひとりの個性や考え方、能力を理解し、認め、活かしあい、シナジーにつなげていく組織・風土作りや組織マネジメントが「インクル―ジョン」となってくる。この「インクルージョン」とダイバーシティは本来別な意味ではあるものの、近年は多様な人材が活躍する社会や企業であるためには、ダイバーシティと「インクルージョン」の両方が必要不可欠であるとして、セットで語られることが多い。

「インクルージョン」の効果と注意点を整理

次に、「インクルージョン」を推進するうえでの効果と注意点がどこにあるのかを解説していこう。

【効果】

●従業員エンゲージメント
多様な人材の個性を認め、活かしていくと言う企業姿勢は、従業員のエンゲージメント向上に繋がりやすい。そうした職場環境であれば、従業員は自らの個性を発揮し伸び伸びと働くことができるからだ。

●採用
近年、「働き方が多様であるか」、「個性や能力を発揮しやすいか」といった視点で就職先・転職先を決める傾向が高まってきている。それだけに、従業員の多様性を認め、活かせている企業には、多くの求職者が関心を寄せている。採用活動において大きなアドバンテージであると言って良い。

●離職率の低下
多様な人材を認め、活かす企業であれば、そこで働く従業員は自分が大切にされているという自己肯定感や自分が会社に役立っているという自己有用感を持つことができる。そうした心理的なメリットは、離職率の低下をもたらし、自ずと定着率もアップすることになる。

【注意点】

●従業員からの反発
これまで長年に渡り、単一属性の従業員しかいなかった会社が、新たな属性を受け入れるのは容易なことではない。どうしても感情的な抵抗が生じてしまうものだ。性別、人種、国籍、年齢などは単なる違いに過ぎず、その違いを受け入れ、認め、活かしていく。それが重要な時代であることを、経営者が従業員に伝えていく必要がある。

●制度・仕組みの整備
「インクルージョン」を推進していくうえでは、例えば、妊娠中の女性や障がいのある方にも配慮したような制度や仕組みの整備も必要になってくる。新たな制度や仕組みを制定する時には、設計する期間やそれを社内に浸透させていくための啓蒙活動や取り組み期間も見込んでおかなければいけない。また、稼働後も定期的にアンケートや満足度調査などを行い、順調に定着しているかを把握することも大切になってくる。

●すぐに効果が出ない
「インクルージョン」は、短い期間で成し遂げられるものではない。従業員が多様性を認め、受け入れられるようにするには意識の改革を行わなければいけないからだ。一歩ずつの積み重ねが大切になってくるだけに、時間を要する取り組みであることを心得ておきたい。

「インクルージョン」を推進するうえでおさえておきたい3つのポイント

実際に「インクルージョン」を推進するためには、いくつかのポイントがある。それらを紹介しよう。

(1)制度や体制の整備

まずは、社内の制度や体制を整備することだ。これを行わないと、「インクルージョン」が単なる掛け声で終わる可能性があり得る。例えば、車椅子を利用する障がい者を迎え入れるとなると、社内をバリアフリーにしなければいけない。また、通院の可能性も考慮して細切れで休暇を取得できるよう制度を見直す必要が出てくる。同様に、妊娠中や育児中の従業員に向けては産休や育休などを整えたり、教育プログラムを導入したりすることが重要になってくる。

さらには、評価方法も見直さなければいけない。人材が多様であるということは、評価方法も単一の基準・尺度ではカバーできないからだ。社員一人ひとりを公平かつ客観的に扱えるよう、新たな人事評価制度を構築していく必要がある。

(2)社内の意識改革

制度や体制を変えるだけでは十分ではないというのが、「インクルージョン」推進の難しさでもある。管理職や従業員が「インクルージョン」の考え方を受け入れていないと、何も進まない。そのためにも、研修やさまざまな啓蒙活動を通じて、社内の意識を改革していかないといけない。

(3)年代や役職に関係なく言い合える風土づくり

「インクルージョン」を実現していくためには、年代や役職に関係なく、誰とでも自由かつ公平に発言できる風土づくりも重要になってくる。人材が多様になったとしても、従業員一人ひとりが自らの価値観や考え、能力を存分に発揮できる環境でなければいけないからだ。

「インクルージョン」を推進するうえでヒントとなる企業事例を紹介

最後に、「インクル―ジョン」の取り組みを推進している代表的な企業を紹介したい。日立製作所と三井住友カードの二社だ。

●日立製作所

日立製作所では、ダイバーシティ&インクル―ジョンを推進するために専門の部署を開設している。それが、アドバイザリー・コミッティと推進協議会だ。いずれも、ダイバーシティ&インクルージョンにおける経営方針を徹底させたり、活動内容に関する意見交換を行ったり、ベストプラクティスを共有する機会を半年に1回のペースで設けている。

また、グループ各社や各事業所における課題や実態を把握し、施策に落とし込んだり、女性活躍推進などのプロジェクトを立上げたりなど、職場の現状に応じた取り組みをリードしている。他にも、ジェンダー平等の実現に向けてグローバル女性サミットを開催したり、労働組合とも頻繁に意見交換を行ったりなど、積極的な動きを図っている。

●三井住友カード

三井住友カードでは、重要な経営戦略の一つとして「インクルージョン」を掲げている。特徴は、上司の意識改革をテーマに取り上げていることだ。研修などを通じて、コミュニケーションスキルやパフォーマンスの向上を図っている。また、育児や介護など家庭の事情がある場合も、働く場所や時間が柔軟に選べるだけでなく、休暇も取得しやすい制度が構築されている。

さらには、同性パートナー制度を導入したり、副業も解禁したりするなど多面的に従業員を支援しようとしている点も見逃せない。
ライフスタイルや働き方が大きく変化している時代であるからこそ、お互いの多様性を認め、活かし、事業拡大につなげていきたい。言葉にすると簡単だが、実際に推進していくとなると、さまざまな課題に直面する。だが、それを避けてはいけない。これからの時代は多様な人材を活かせない企業は、労働市場において選ばれない企業になってしまうからだ。「インクルージョン」の本質と効果、推進するためのポイントをしっかりと理解した上で、迅速かつ適切なアクションを起こしていただきたい。挑む価値は十分にあるはずだ。
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