障がい者雇用を進めていくときに活用したいのが、障がい者雇用に関わる「支援機関」です。しかし、障がい者雇用に関わるサポート機関は複数あるため、それぞれの機関の違いや、どのように活用できるのかわかりにくいという声をよく耳にします。そこで、障がい者雇用で活用できるサポート機関の種類や役割、サービス内容について、5回に分けて解説しています。今回は第3回目、「就労移行支援事業所の活用方法」についてお伝えしていきます。
企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【3】就労移行支援事業所を活用する

「就労移行支援事業所」とは、どのようなところなのか

「就労移行支援事業所」とは、「障害者総合支援法」に定められた障害福祉サービスのひとつである「就労移行支援」を提供する事業所のことです。障害者総合支援法で定める障害福祉施策では、障がい者を対象としたさまざまなサービスがおこなわれています。

●障害者総合支援法とは

「障害者総合支援法」は、前身である「障害者自立支援法」の一部を改正し、2013年(平成25)4月に施行されました。2006年(平成18)4月に障害者自立支援法が施行された段階から、障害者就労支援施策はスタートしています。そして、就労系障害福祉サービスとして、「就労移行支援」、「就労継続支援(A型・B型)」ができました。法律名は、障害者自立支援法から障害者総合支援法へと変わりましたが、基本的な考え方は変わっていません。

障害者総合支援法の目的は、「障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営む」ことであり、地域生活支援事業を含め、総合的な支援をおこなうことが明記されています。

●障害福祉施策の変化

障害福祉施策は、この20年ほどで大きく変化しています。まず、2003年度(平成15)からノーマライゼーションの理念に基づいて導入された「支援費制度」により、充実が図られてきました。このため、サービス利用者である障がい者が、契約に基づいたサービスを受けられるようになりました。

それ以前は、サービスを利用する際は、障がい者がサービスを選択するのではなく、都道府県知事や市町村長が提供するものを決めていました。障がいをもつ当事者が自分でサービスを選べるということは大きな進展でしたが、同時に課題もありました。例えば、サービスが障がい別の縦割りで活用しにくいことや、障がいによってはサービスが受けられないことがあるといった問題です。また、スタートした当初は、精神障がい者は対象外でした。

次に、サービスの提供に関しては、費用負担の財源を確保することが困難な地方公共団体があり、地方自治体間で大きな格差が見られることもありました。このような経緯のため、2006年度(平成18)からは「障害者自立支援法」が施行され、支援費制度で課題となっていた点が改善されました。そして、法改正を経て現在の「障害者総合支援法」となりました。

「障害者総合支援法」による障害福祉サービスは、「自立支援給付」と「地域生活支援事業」で構成されており、さらに自立支援給付サービスには、介護の支援を受ける「介護給付」と、訓練等の支援を受ける「訓練等給付」に分けられています。「就労移行支援事業所」は、この「訓練等給付」に位置づけられているのです。

図1

厚生労働省:障害者福祉サービス等の体系
【出典】厚生労働省:障害者福祉サービス等の体系
※現在の就労系障害福祉サービスは、「就労移行支援」、「就労継続支援(A型=雇用型、B型=非雇用型)」、「就労定着支援」となっています。

図2

厚生労働省:障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス

「就労移行支援事業所」を通して障がい者採用をおこなうには

「就労移行支援事業所」は、障がい者が働くために必要な知識・能力を身につける「職業訓練」や、「企業実習」などをおこなうところです。2年間の訓練期間中に企業への就労を目指します。障がい者雇用を進めたい企業としては、障がい者採用のひとつの方法として活用することができます。

それでは、就労移行支援事業所を活用している人や、どのような訓練を実施しているのかについて見ていきたいと思います。

●就労移行支援事業所の利用者とは

就労移行支援事業所の利用者は、原則18歳以上~65歳未満で、一般就労を希望する、障がいや難病をもっている人です。法律で対象としている障がい者の範囲は、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者(発達障がいを含む)に加え、制度の谷間となって支援の充実が求められていた難病をもっている人なども含まれているのがポイントです。

最近では、精神障がい者の雇用が増えているため、これまでは精神障がいの手帳を取得しないで就職を目指そうとしていた方が、一般の就職をするよりも配慮のある障がい者枠での就職を志望する傾向が見られています。このような背景からも、精神障がいや発達障がいをもつ方が就労移行支援事業所を利用することが増えています。

●就労移行支援事業所の訓練内容とは

前述の通り、就労移行支援事業所では、2年間の訓練期間中に、働くために必要な知識や能力を身につける職業訓練や企業実習などをおこないます。この内容には、下記のようなものが含まれています。

・就職するための生活リズムを整えること
・身だしなみを整えること
・挨拶や、報告・連絡・相談をはじめとしたビジネスマナーの習得
・ソーシャルスキルやコミュニケーションスキルの向上
・自分自身への理解を深めること
・履歴書や職務経歴書の作成、および面接対策


また、訓練内容は、運営する就労移行支援事業所ごとに特色があります。作業訓練で基礎体力や集中力・持続力の向上を目指す事業所もあれば、パソコン操作のトレーニングや、擬似会社や部署における役割分担によってコミュニケーション能力や実務スキルを向上させる訓練をおこなうところもあります。

なお、近年の産業構造の変化によって人材市場ではIT人材の必要性が高まっている中、人工知能(AI)や機械学習、データサイエンスなどの先端IT領域を学ぶことによって、障がい者の職域拡大を目指している就労移行支援事業所もあります。

このように、就労移行支援事業所の特徴や訓練内容によって、利用している障がい者のスキルや能力、希望する仕事内容・職種には違いがあります。同じ障がいでも訓練している障がい者の層は異なるものです。もし自社が障がい者雇用を進めたいのに、職種や仕事内容にマッチした人材が採用できないと感じているのであれば、複数の就労移行支援事業所を見学したり、話を聞いてみたりするとよいかもしれません。自社が求める人材が訓練していると思われる就労移行支援事業所にコンタクトを取れば、ターゲット人材に出会える可能性も高くなるでしょう。

●採用だけでなく「定着支援」でも活用できる

就労移行支援事業所は、事業所から採用された障がい者が、職場で定着するためのフォローを6ヵ月間おこなっています。以前は、このフォローの年限は3年間ありましたが、2018年(平成30)4月から「就労定着支援」が追加されたことにより、「定着」だけを目的とし、独立したサービスとなりました。

なお、一般就労してから6ヵ月が経過した後は、就労定着支援機関がフォローを引き継ぐことになります。


今回は、「就労移行支援事業所とはどのようなところなのか」と、「事業所を利用する人と、どのような訓練内容なのか」について見てきました。障がい者雇用は、障害福祉施策と密接に関係しています。そのため、障がい者雇用に関わる方には、障害福祉施策についての基本的な知識をもっておくことをおすすめしています。また、障害福祉計画の基本指針は3年ごとに見直しがありますので、今後のニュースにも関心をもち、動向をチェックしてほしいと思います。
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