日頃のビジネスシーンで、「バイアスが掛かっていないか」というやりとりが交わされることが少なからずあるだろう。「バイアス」とは偏った認識や先入観を指す言葉を指す。認識の偏りがあれば、間違った意思決定など組織内に弊害が生じてしまうのは明白だろう。実は、その「バイアス」にはさまざまな種類がある。人事担当者としても、それぞれの種類がどう違うのか、そもそも何が原因なのか、いかに対処すれば良いのかをインプットしておいて損はない。そこで今回は、「バイアス」について詳しく解説する。本記事を通じて、「バイアス」を踏まえた上で、的確なデータ分析や意思決定を行うためのエッセンスを習得していただきたい。
「バイアス(認知バイアス)」とは? 種類と対処法を解説

「バイアス(認知バイアス)」とは?

まずは、「バイアス(認知バイアス)」の定義から紐解いていこう。

「バイアス」とは、日本語で「偏見」や「偏り」「先入観」を意味する。認識や思考に偏り、歪みがあるとされる状態を言う。また「認知バイアス」と呼ばれることもある。「バイアス」は自分自身の思い込みや前例などの要因から起こることが多い。その結果として、合理的な判断ができなくなってしまうので注意を要する。

● バイアスが生まれる原因

人間が意思決定をする際には、二つの仕組みが作用していると言われる。いわゆる、「二重過程理論」だ。その二つを仮に、素早く直観的に意思決定しがちな「Aシステム」と時間を掛けてじっくりと論理的に判断する「Bシステム」としよう。Aシステムの場合は物事をスピーディーに判断していくので、気付かないうちに「バイアス」が掛かってしまう恐れがある。偏った判断をしがちになってしまうので気をつけたい。

「認知バイアス」の主な種類

実は、「認知バイアス」にはさまざまな種類がある。いずれも非合理的な意思決定の要因となり得るだけに、それぞれをしっかりと理解するようにしたい。

●確証バイアス

確証バイアスとは、自分が立てた仮説が間違っていることを証明する情報よりも、その仮説を確証してくれる情報に着目してしまう心理現象を言う。要は、自分にとって都合の良い情報ばかりに重きを置いてしまうということだ。自分の欲望に捉われてしまい、情報を的確に分析できないことも確証バイアスの一例となる。近年は、SNSの広がりによって確証バイアスが強まってきている。同じ意見や考えを持った人たちだけで繋がりを持とうとしているところが要因として大きい。

●正常性バイアス

正常性バイアスとは、事前に設定した閾値(境目となる値)からはみ出る予想外のデータが生じても、先入観が働き「大丈夫。それも正常な範囲内」だと判断してしまう心理現象を指す。データ分析の場では良く見られることであり、自分にとって都合の悪いデータには関心を寄せなかったり、あまり評価しなかったりする。例えば、病気の兆候があったとしても、「家族は皆健康なので自分も病気に罹るはずがない」と考えてしまうのも正常性バイアスに当たる。

●生存バイアス

生存バイアスは、物事の一面しか見ずに判断を下してしまう心理現象を言う。具体的には、自分が収集したデータだけで分析してしまったり、失敗した事例には関心を持たず、成功した事例だけに着目して判断したりするなどのケースを指す。要らないと切り捨てたデータには見向きもせず、選択したデータに基づいて結果を得ようとするので正しい意思決定を下すことができなくなってしまう。

●内集団バイアス

内集団バイアスは、他の集団よりも自分が所属しているグループを優れていると考えてしまう心理現象を指す。仲間意識によって生まれるもので、「身内びいき」と言い換えても良い。

●後知恵バイアス

後知恵バイアスとは、何らかの結果が導かれた時に、「こうなると思っていた」「そうなると予想していた」などと思い込んでしまう心理現象を意味する。結果が出た後の言動をいうので、データ分析に影響を及ぼすものではないが、こうした傾向にある人は、いくつかの「バイアス」を抱えている可能性が高いので注意を要する。

●自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスとは、何かに成功した時には自分の能力のおかげだと過大に評価する一方、失敗するとその原因を他人や周囲の環境に求めてしまう行動を言う。これでは、フラットな視点でデータを分析できず、大切な成功要因を見落とす結果になりやすい。

●ダニングクルーガー効果

ダニングクルーガー効果とは、実際の評価と自己評価との間でギャップがあるにも関わらず、間違った認識に基づいて自分自身を過大に評価してしまう状況を指す。実際の評価以上に自分を評価するケースもあれば、逆に実際の評価よりも自己評価を低くしてしまうケースもある。いずれも、自分を客観視できていないことが要因だ。

●ハロー効果

ハロー効果とは、何かを評価する際に目立つ特徴に引っ張られて、他の特徴を歪めてしまう心理現象を意味する。これには、「ポジティブ・ハロー効果」と「ネガティブ・ハロー効果」の二つがある。ある特定の評価を高く認めた場合に、前者では別の項目も高くするが、後者では低くしてしまう傾向がある。

●フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ情報であっても提示の仕方や表現方法によって人々の印象が変わり、意思決定にも影響をもたらすとする心理現象だ。情報のフレームが異なると、人の受け止め方や反応が変わってくる。例えば、「80%の人に支持された商品である」と伝えると、多くの人がその商品に対して良い印象を持ってくれる。だが、これを「20%の人には支持されなかった」と言い換えると、否定的な印象を持つ人が多くなる。

「バイアス」がもたらす影響

ここでは、「バイアス」が日常や組織にどのような影響をもたらすのかを紹介したい。

●日常への影響

まず、日常生活への影響から説明しよう。実は、さまざまな場面で弊害が起きるとされている。特に注意を要するのが、人間関係における「バイアス」だ。偏った考えだけで、ある集団を厚遇したり、逆に冷たくあしらったりすると人間関係はギクシャクしてしまう。酷い場合には、修復できないような関係に陥ってしまうことも珍しくない。

●組織への影響

「バイアス」は、組織に対しても大きな影響を与える。「バイアス」が人間関係のトラブルを起こしかねないことは上述した通りだ。企業であればm上下関係があるだけに、そのトラブルがセクハラやパワハラといったハラスメントとして認識されてしまうリスクがあり得る。

採用や人事評価の場面も「バイアス」の影響を避けたいところだ。誤った判断をしてしまったことで、自社にとって役立つ人材を迎え入れなくなったり、思うように育成できなかったりなどといった悲しい結末になってしまう可能性があるので留意したい。

「バイアス」の対処法

ここでは、どうやって「バイアス」に対処すれば良いのかを解説していこう。

●バイアスの理解を深める

第一にすべきは、「バイアス」とは何かを理解することだ。基本的な知識を持ち合わせていれば、自身が「バイアス」の影響を受けているかどうか、チェックすることができる。もちろん、「バイアス」を完全に防止することは難しいが、「バイアス」を知ることで極力取り除く、防止するように努めることはできるはずだ。

●前提を疑う

何かを判断する際には、前提が適切であるか、先入観が入り交じっていないかどうかを確認する必要がある。前提そのものが非合理的であれば、誤った判断を導きかねない。最終的な判断を下す前に、一度冷静になり因果関係を的確に分析できているのかと自らに問い直してみよう。

●事実と意見を整理する

事実と意見を整理することも重要だ。特に、日本人はものごとを曖昧にしがちなので注意を要する。そのため、相手の感情が把握しにくくなるので「認知バイアス」に掛かりやすいとされている。例えば、本人を評価する際に何も調べず、ただ単に出身大学だけで「優秀だろう」、または「優秀ではないだろう」などと思い込みで判断してしまうことがあるので気をつけたい。

●判断基準を作る

会社やチーム、個人として明確な判断基準を作ることもぜひお勧めしたい。「バイアス」による失敗を防ぎやすくなるからだ。例えば、「判断に悩んだら○○と考える、○○に重きを置く、○○を最優先に選ぶ」でも良い。判断の軸が決まっていると、それに照らしてスピーディかつ的確にチーム、各自が判断していけるからだ。

企業が行うべき「バイアス」対策

最後に、企業が「バイアス対策」に向けて何をすべきかを解き明かしていきたい。

●社内研修

まずは、「バイアス」に関する認識を高めるためにも、「バイアス」をテーマとした社内研修を実施したい。「バイアス」に関する基本知識を得たり、「バイアス」が仕事にもたらす影響や職場での対応法などを学んだりすることで、さまざまな視点や認識を各々が持てるようになる。また、研修に参加した多様なメンバーから意見を聞けるのもメリットとなる。それによって、自分の価値観が偏っていることに気付けるはずだ。

●アンケート

「バイアス」に関連する専門事業者のアンケートを実施するのも効果的といえる。問題となるような事例を取り上げて、「これがバイアスにあたるかどうか」と質問していくことで、自分自身の考えが偏っていると気付きやすくなる。

まとめ

データを分析したり、物事を判断したりする際には、どの工程においても「バイアス」が掛からないよう注意する必要がある。といっても、誰もが「バイアス」を引き起こす可能性があるのは否めない。脳の仕組み上、スピード感を持って意思決定していくと「バイアス」が避けられないからだ。ならば、自分はどんな時にどのような「バイアス」に陥る傾向があるのかを認識した上で対策を施し、その「バイアス」を極力取り除くように努めることが重要になってくる。そうした姿勢を従業員が持てるよう、研修や啓蒙活動を通じて促していくのも人事の役割の一つと言って良いだろう。
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