「外国籍人材の活性化」に加え、ダイバーシティ&インクルージョンに関して日本企業が取り組むべきもう1つの課題は「女性活躍」だ。女性の社会進出が進んできたとはいえ、日本はまだまだ世界各国と比べ、能力を発揮できていないと感じる。世界経済フォーラム(WEF)が2022年に公表した、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数では、日本は146か国中116位。先進国の中では最低レベルをマークしている。そんな状況を踏まえ、今回は日本を代表するヘッドハンターとして活躍されている森本千賀子さんにお話を伺った。
第50話:外国人だけではないダイバーシティ。「女性活躍」に人手不足・労働力不足解消のカギはある

労働力不足解消のカギは「女性活躍」にある

稲垣:森本さんは、日本を代表するヘッドハンターでもありながら、様々な企業の顧問・社外取締役を務め、経営支援もされていらっしゃいます。今回は、外国籍人材の活性化に加え、日本企業が取り組むべきもう1つのD&I、「女性活躍」についてお話をお聞かせいただければと思います。

森本:女性活躍に関して冒頭から厳しい実態をお伝えすると、いわゆる行政からのプレッシャーではなく、真にその必要性や意義を見出して前向きに取り組んでいる企業は多くはありません。特に大企業の経営陣の方々が歩んでこられた時代は男性中心の社会であり、ジェンダーのアンコンシャスバイアス(思い込み)を持たれているケースが散見されます。そこが変わらない限り、基本的に本当の意味での女性活躍はないと思っています。

しかしその中でも、女性活躍が比較的進んでいる企業は、経営者始め経営メンバーの方が若い時に欧州や欧米に赴任し、女性が活躍している現場を目の当たりにしていたという共通点があります。しっかりと機会を与えれば女性は活躍できるという経験をしているために、女性に重責の仕事やマネジメントを任せても大丈夫と、信じられるのだと思います。しかし、そういった経験のない方たちが大多数なので、いま政府の政策として「30%を役員にしていこう」という方針を打ち出しています。これはとても良いアイデアですね。上層部を変えない限り、基本的には日本の構造は変わらないと思います。

稲垣:実際、女性が活躍する会社は増えていくのでしょうか。

森本:いま投資家も、「経営ボードに女性がいなければ投資しません」ということをグローバルでは言いだしています。さらに、「女性が経営ボードにいる企業は時価総額が総じて高い」という実績もついてきています。機関投資家たちも、基本的には女性がボードメンバーにいない企業は多様性に欠けるとし、イノベーティブが課題とみているため、女性比率は重要な指標になりつつあります。その流れの中で、女性活躍を“経営戦略”として組み込まなければいけないという危機感を持った企業は増えています。

しかし具体的に実施しようとする時に、すぐに経営ボードにアサインできる女性が育成されているわけではないため、「まずは社外役員から」という話になっています。上場企業の女性取締役の比率は全体の16.5%で、そのうちの9割が社外取締役というのが実態です。常勤取締役に絞ると女性は1割という状態なので、まだまだ課題は大きいと思います。

稲垣:女性が経営ボードやマネジメントに入っていけない要因はなんでしょうか。

森本:その一つは、両立の問題です。復職率は上昇していますが、その先の女性マネジメント比率となると、低いままです。ちょうどマネジメントへの登用のタイミングで出産などが障害となっています。一つの理由としては、男性の家事・育児参加率の低さです。海外諸外国と比べて日本は圧倒的に低く、ノルウェーなどの男性家事・育児先進国と比較すると6分の1ぐらいです。日本の行政も、男性育休取得率を上げようとかなり強化策を講じており、実際に右肩上がりにはなってきているのですが、中身を見てみると取得期間は1週間ほどの短期間。女性のように半年や1~2年など、長期で取得している男性はめったにいません。やはり、休んでいる間に欠員補充をしなくてはならなかったり、その人が戻った時のキャリアをどうするかだったり、男性の場合はまだまだケーススタディが少ないんです。

稲垣:欧米で、男性の長期休業がうまくいっているのはなぜですか?

森本:休業した時には必ず欠員を補充して、戻って来た時にはポジションを与える。男女関係なくそういうマインドセットであるからだと思います。女性がうまくいく、男性がうまくいかない、という話ではなく、育児休業後に復帰するスキームが、たくさんのケーススタディでナレッジ化されているということですね。

稲垣:そもそも、「男女」という区別や「外国人」、「シニア」という区分けの概念が薄いんですね。

森本:そうです。私の友人が北欧に旅行に行ったときにたまたま絵本を買ったら、登場する消防士さんが女性だったみたいです。日本の絵本では絶対考えられないですが、それを北欧の子供たちはなんの違和感もなく読んでいるんですよね。

稲垣:あえてお聞きしますが、変えていくべきなのでしょうか。

森本:変えていくべきです。これから特に日本は、生産労働人口が減っていきます。それをどうやってカバーするかというと、「女性」か「シニア」か「外国人」か。それでも不足すると言われていますが、なかでも最も即効性があると私が思っているのは、「女性」です。すでに男性と同じ人口がいる、かつ労働ポテンシャルも高く、すぐに手がつけられると思っています。まさに今の労働力を考えると、手をつけざるを得ない。特にいま採用環境がとても厳しいため、ある意味、圧倒的に採用力を強化する一つの手段として、女性活躍が進んでいる企業ブランドを構築することが強烈な解決策になります。
労働力不足解消のカギは「女性活躍」にある

女性の特性を捉えた制度とマネジメント

稲垣:では、その概念はどうやって変えていけばよいでしょうか。

森本:まずは皆さんの意識と会社の仕組み(制度)を変えていかないといけません。結局、当事者である女性自身と、その女性を引き上げたりマネジメントする側の意識を変えていくことが重要です。それに加えて、それをサポートする仕組みや制度。この両輪を回していかないといけません。サポートする仕組みや制度は、いろいろな成功事例がありますが、例えば時間短縮勤務とフル出勤を何度も繰り返し選択することができるような柔軟性のある制度を作っている会社や、育児休業をしている間でも10割の給与を出すという会社があります。また一般的に、育休や産休を取ると、その間はキャリアが一旦止まってブランクになるのですが、その期間もキャリア構築が継続されるようにカウントにいれる、という制度で支えている会社もあります。もちろん、女性や管理職向けに、しっかり意識改革する研修を体系的に行うというのも重要ですね。

稲垣:なるほど。男性/女性で差別をしてはいけないけれど、それぞれの事情に合わせて区別してサポートするということが大事ですね。これは、外国人でも同じことが起きています。ある大手の会社では外国人の定着がとても悪かったのですが、日本人向けの研修をしたところ、管理職の方々が口をそろえて「私は外国人だからって特別扱いをしません」と仰っていました。「外国人だから甘やかさないよ」という。

言葉面は正しいかもしれませんが、これは間違いです。文化背景も言葉も慣習も宗教も異なり、そのうえ日本人と異なる在留資格で働いているため、さまざまな違いに配慮し、状況に合わせた伝え方や仕組みを作らなければ定着しません。

森本:その通りだと思います。

稲垣:私は外国籍人材のマネジメントにおいては、学習することで解決できると思っています。島国の日本は同質性の高い民族であるため、自分たちと考え方や価値観の異なる外国人に対してどうしても苦手意識があるのですが、最低限の知識を身につけ、1対1や少数人数同士で話し合う経験をすることで、“同じ部分”と“違う部分”の境界線が見えてきています。同じ部分には安心感を覚え、違う部分については距離感やコミュニケーションスキルを学ぶことで、「外国人の方と一緒に働くことは全く問題がない」という自信になります。

女性をマネジメントするスキル

稲垣:外国人労働者は、2023年12月に初めて200万人を超えました。2030年に400万人、2040年に600万人と急増するとも言われています。日本の労働力不足を解消するためには、外国人マネジメントは必須の能力になっています。しかし、よくよく考えると、女性の労働生産人口は既に3000万人いるわけですから、女性が活躍する環境づくりをしない手はない。「女性のマネジメント力」というのは学習できるのでしょうか。

森本:できると思います。フェムテラシーといわれているのですが、女性特有の3つの健康課題として「(1)月経による体調不良」、「(2)妊娠・不妊ケア」、「(3)更年期症状」があり、その具体的な情報をインプットし、女性理解に努める。フェムテラシーも女性の力を引き出すためには必要な知識だと思います。

稲垣:確かに知識として学習機会が少ないかもしれませんね。

森本:更に、男性と女性で感性も異なります。稲垣さんが良く例に出される「時間」に対する感覚。例えば5分遅刻した人がいたら、日本人は「5分も遅刻した」と思う一方、外国人は「5分しか遅刻していない」と思う。時間に対する概念が異なることと、それを徹底したい場合は言葉で形式知化する技術を身につけるということ。女性のマネジメントも構造は同じだと思います。賛否両論ある概念ですが、女性ならではの6つの感性、「共感性」、「協調性」、「親和性」、「繊細性」、「母性」、「勤勉性」があるとも言われており、個人的にはとても参考になっています。この感性をよく理解してコミュニケーションを取れれば、そこに心理的安全性を感じて意欲的に働く女性は増えると思うんです。

例えば私はリクルート所属時代、子供が小さくて仕事と家庭の両立が大変な時期がありました。時短勤務をしていると、16時や17時に帰らなくてはいけない。当時のリクルートはみんながむしゃらに仕事をしていたため、その中でパッと立ち上がって「失礼します」と帰るのは、ものすごく勇気のいることなんです。その時に、当時の上司は必ず自分でアラートをかけて、「森本さん時間だよ!」と言ってくれていたんです。

日中にいきなり電話がかかってきて保育園に呼び出されることも度々ありました。みんなに申し訳ない気持ちを抱えながら保育園に迎えに行き、子供の体調次第では翌日も休暇をとって会社に行けないということも。1日休んだ翌日に会社に戻った時に、当時の上司から「森本さん、お子さん大丈夫か?」という一言を言われた瞬間、この人のために頑張ろうって思いました。その一言に罪悪感から救われ勇気を頂いたものです。

稲垣:なるほど。共感性や親和性を強く刺激するわけですね。

森本:そうです。もちろん男性でもこのような気遣いをされると嬉しいと思いますが、女性はよりその感性が強いため、そこを理解してマネジメントする。感性が強いということは、疎かにされると傷つくし、大事にされるとモチベーションが上がるんです。

稲垣:ここはもっと研究できる部分ですね。我々はアジア10か国の文化を研究し、比較していますが、やはり各国ごとに文化的特徴があることがわかっています。例えば、「やってはいけないこと/やったほうがいいこと」、「伝わりやすい表現/伝わりにくい表現」などがあります。

宗教も同じで、「豚肉は食べない」、「牛肉は控える」、「お祈りは一日5回する」などなど。“Must”と“Must not”が多分にあります。これはCultural Intelligence(異文化適応力)のとても大事な要素で、知っているか知っていないかという知識なんですよ。それだけでコミュニケーションのスムーズさが全然違います。

森本:更に一説には、男性脳と女性脳の構造が異なるともいわれています。例えば、仕事ぶりを評価してマネージャー昇格の内示をした時に、男性は理由がなんであったとしても、「よし、やった!」と思う人が多いですが、女性の場合は「なんで私なんですか?」と思うわけです。女性には「インポスターシンドローム」という性質があるのですが、これは「初めてや未知なる経験に対してものすごくストレスがかかる」というもので、女性は男性より高いストレスがかかるということがいわれています。ですから、例えば女性がマネジメント昇格を打診された場合に、「なんで私なんだ」とか、子どもがいる人であれば「子どもが熱を出したらどうしよう」とか、そのほかにも「私は数字の管理が苦手だし」、「部下を怒るなどできない」など、自身の抱くマネジメント像に自分は当てはまらないと考え、そのことに対してものすごくストレスがかかってしまうんです。

稲垣:なるほど。ある程度男女の機能的な違いとしてあるのであれば、学習すべき重要な知識ですね。外国人に関しても、「外国人に寄り添おう」、「外国人の気持ちを理解しよう」という道徳的な意識はもちろん必要なのですが、あくまでも企業活動なので、「彼らの力をどうやって引き出すか」、「自分にはできない部分で力をどう発揮してもらうか」という“実需”を求めるために、身につけるべきマネジメントスキルだと思います。

女性も同じで、「女性の立場に立とう、寄り添おう」といった道徳的なイメージで研修を受けるのではなく、どのようにしたら女性が力を発揮してくれるのか、「これからのビジネスパーソンにとって必須の技術を学ぶ」という姿勢で身につけていくべきなんですね。
女性をマネジメントするスキル

女性が活躍する機会を提供する

稲垣:ある大手企業のクライアントの話ですが、ダイバーシティ&インクルージョン部という部門を新設し、会社としてあらゆる啓蒙活動を始めたものの、なかなかうまくいかなかった。しかしこの会社は、女性活躍を前に進めるためにある大胆な手法をとりました。

森本:大胆な手法とは何ですか?

稲垣:新卒の女性採用比率を一気に上げたんです。配属される新卒の女性比率が高まったことで、社員は「どうしたら戦力化できるか」を知るために、それまで会社から指示されてしぶしぶ出席していた女性活性化の社内研修にこぞって参加するようになったといいます。管理職の女性マネジメントに変化が起きて、活躍する女性が増えてきた。

森本:正解だと思います。必要に駆られて人は学習するんですよね。まずはやってみる、が大事です。

スタートアップの世界でも、女性が活躍している割合は低く、起業家の女性比率はたった3%といわれています。J-Startup(※)でも、女性経営者は9%です。一方、実は調達額1円あたりの時価総額は男性経営者より女性経営者の方が2割ほど高いと言われています。つまり、女性だから起業に向いていないわけではないのです。
(※)J-Startup:経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム

先日、東京都主催の女性起業家向けの講演会に参加したとき、参加者の約9割が個人事業の起業家でした。多くの方は法人化することにすごく抵抗心がある。なぜかと聞くと、「マネジメントの経験がないので社員を雇って会社を成長させていくイメージがわかない」とのことでした。

稲垣:なるほど、企業勤めをしていた時にその経験を積めていないんですね。

森本:そうです。自分のチームを持つ、マネジメントするといった経験は、会社でもそうですが、もっと言うと社会人になる前の学生時代のリーダー経験などが、おそらく男性と比べても圧倒的に低いんです。最近でこそやっと運動会の応援団長が女性といったケースがちらほら出てきましたが、たいていの場合は学生においても男性がリーダーシップをとる。そういったことから、学生時代から社会人の若手時代に、リーダーシップをとった経験は男性の方が圧倒的に多いのだろうと思います。

稲垣:確かにそうですね。女性がリーダーシップの経験を積んでいくということの重要性について、欧米では解決に向かっているのでしょうか。

森本:欧米は学生でも女性がリーダーシップをとるケースが圧倒的に多いですし、そもそも男性だから、女性だからと区別する概念があまりないのだと思います。そのため、女性は抵抗感なくリーダーシップをとるし、周りも女性をその地位に引き上げようとするわけですね。

稲垣:ありがとうございます。我々HRの人間や、経営の立場としてやるべきことは、まずは女性に活躍する機会を作るということですね。
第50話:外国人だけではないダイバーシティ。「女性活躍」に人手不足・労働力不足解消のカギはある
【取材協力】
株式会社morich代表取締役社長 森本千賀子氏

1993年、獨協大学外国語学部英語学科卒業、リクルート人材センター(現リクルート)に入社。転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を中心に、3万名超の求職者と接点を持ち、2,000名超の転職に携わる。リクルートキャリアでは累計売上実績は歴代トップで全社MVPなど受賞歴は30回超。 カリスマ転職エージェントとしてテレビやメディアの出演多数(2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」2022年「ガイアの夜明け」・日経新聞夕刊「人間発見」連載等)。2017年3月株式会社morich設立。NPO理事や社外取締役・顧問など20枚以上の名刺を持ちながら、「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。日経オンライン・プレジデントオンラインなどの連載のほか、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』『無敵の転職』など著書も多数。 2男の母の顔ももち希望と期待あふれる未来を背中を通じて子供たちに伝えている。
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