出産・育児による従業員の離職を防ぎ、希望に応じて男女とも仕事と育児を両立できることを目的に、「育児・介護休業法」が2021年に大きく改正されました。企業には、従業員が育児休業を取得しやすくするための環境整備などがこれまで以上に義務付けられるほか、「出産時育児休業制度」が創設され、男性の育児休業取得を後押しする施策が、2022年4月から段階的に施行されます。「育児休業の分割取得」や「夫婦間での交代取得」も可能となるため、実務的な対応はますます複雑になるでしょう。今回は、これらの制度について詳しく解説します。
2022年4月より「育児介護休業法」の改正がスタート! 複雑化する“実務対応”のポイントとは

「育児・介護休業法」の改正ポイントを把握しよう

2021年に改正された「育児・介護休業法」では、企業に「育児休業を申請しやすくするための雇用環境整備」や、「妊娠・出産する予定を申し出た従業員への個別周知・意向確認」の措置が義務付けられました。また、“男性版産休”ともいわれる「出生時育児休業制度」が創設され、業務と育児休業の調整がしやすくなるよう、現行の育児休業の分割取得・夫婦間での交代取得も可能となります。

法改正に対応するにあたっては、「就業規則の改定」から始まり、「研修や相談窓口等」の環境整備や、「複雑な制度内容や社会保険料の免除の条件、給付金の案内」などを対象者に個別に周知し、意向の確認を行わなければなりません。さらに、2022年10月以降は、「出生時育児休業」を含む育児休業について、回数や期日の管理が必要となり、育児休業に関する制度への実務対応はますます複雑になっていきます。

【PDF資料】雇用保険/老齢年期/パワハラ防止法/育児・介護休業法など改正法を網羅
【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」~社労士が12の法改正を解説~

施行のスケジュールと準備すべきこと

今回の改正は、2022年4月、2022年10月、2023年4月と3段階で施行され、それぞれ、施行前に様々な準備が必要となります。下図と照らし合わせながら、確認していきましょう。
「育児・介護休業法」の施行スケジュールと準備すべきこと

1)制度の個別周知・意向確認義務(2022年4月1日)

本人または配偶者が妊娠または出産した旨(出産日または出産予定日を含む)の申し出をした従業員に、法令および法令を上回る自社の育児休業制度(改正内容を含む)や育児休業給付、社会保険料免除等について提示するとともに、これらの休業取得についての意向確認を個別に行わなければなりません。

2)雇用環境整備義務(2022年4月1日)

育児休業を取得しやすい職場環境の整備は、すべての会社が対象です。男女を問わず、「育児休業」と「出生時育児休業」の申出が円滑に行われるようにするため、下記のいずれかの措置を講じなければなりません。

●「育児休業・出生時育児休業」に関する研修の実施
全従業員を対象とすることが望ましいが、少なくとも、管理職についてはマタハラ・パタハラ防止のために実施する

●「育児休業・出生時育児休業」に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
形式的な窓口ではなく実質的な対応窓口を設け、従業員が相談できるよう周知する

●自社の従業員の「育児休業・出生時育児休業」取得事例の情報収集や提供
自社の育児休業取得事例を収集し、その事例が掲載された書類の配布やイントラネット(社内ネットワーク) 等への掲載等を行い、従業員が閲覧できるようにする

●「育児休業・出生時育児休業」に関する制度と育休取得促進に関する方針の周知
育児休業に関する制度、育児休業の取得の促進に関する会社の方針を記載したもの(ポスターなど)を、事業所内やイントラネットへ掲示する

3)有期雇用労働者の取得条件緩和(2022年4月1日)

雇用形態にかかわらず育児・介護休業を取得することができるよう、下記の通り、有期雇用従業員の取得要件が緩和されます。
有期雇用従業員の取得要件
「子どもが1歳6か月になるまでの間に契約が満了することが明らかでない」との判断は、下記の(A)(B)両方を満たす場合となります。

(A)育児休業の申し出があった時点で、労働契約の更新がないことが確実であること
(B)会社が「更新しない」旨の明示をしていること


ただし、あらかじめ労使協定を締結することで、下記の方々は育児休業適用除外とすることができます。

●引き続き雇用された期間が1年未満の従業員(今回の改正より追加)
●申し出の日から1年以内(延長の育児休業については6ヵ月以内)に雇用関係が終了することが明らかな従業員(現行通り)
●所定労働日数が週2日以下の従業員(現行通り)

4)出生時育児休業(産後パパ育休)制度の創設と育児休業の分割取得(2022年10月1日)

出生時育児休業は、出産する女性以外の男性・養子を迎える女性が、子の出生後8週間以内に、最長4週間(28日)まで取得することができます。通常の育児休業とは別の制度として利用できる新たな制度です。「施行後の制度」と「現行制度との詳細」の比較は、下図をご参照ください。

出典:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」

「施行後の制度」と「現行制度との詳細」の比較
有期雇用従業員については、「子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヵ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない場合」に対象となります。また、労使協定を締結することで、下記の方々を適用除外とすることができます。

●雇用された期間が1年未満の者
●申出の日から8週間以内に雇用関係が終了する者
●週の所定労働日数が2日以下の者

なお、短期の育児休業でも所得補償の実効性を高めるため、「月内に14日以上の育児休業をしている場合にも社会保険料が免除となる改正」も、併せて施行されます。施行前は、月末に育児休業を取得している場合に限り、社会保険料が免除となっていました。また、賞与については、1ヵ月を超える育児休業を取得している場合にのみ保険料が免除となります。

5)育児休業取得率の公表(2023年4月1日)

常時雇用する従業員が1,000人を超える会社は、育児休業等の取得の状況を年1回、自社のホームページや、厚生労働省運営のWebサイト「両立支援のひろば」等で公表することが義務づけられます。公表内容は、「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。

実務対応の際に押さえておきたいポイントを整理

実務対応で押さえておくべきポイントは、以下の内容となります。

(1)施行日前に就業規則・労使協定や社内で使用する書式や資料を用意しておくこと
(2)制度の周知は、マタハラ・パタハラ防止のためにも役員含め全社に対して実施する。なお、研修は毎年1回以上、継続的に実施する
(3)出生時育児休業、育児休業の期日管理・回数管理ができるようにしておく
(4)社会保険料免除となる休業をしているか確認し、年金事務所・健保組合への届出をし、給与計算でも免除にできているか確認する


今回は「育児介護休業法」だけでなく、「雇用保険法(育児休業給付金)」および「社会保険各法(社会保険料免除)」と、複数の法令が関わる改正となり、人事労務担当者の負担が増すことが予想されます。厚生労働省でも様々な資料を公開しているので、活用していかれるとよいでしょう。



【PDF資料】雇用保険/老齢年期/パワハラ防止法/育児・介護休業法など改正法を網羅
【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」~社労士が12の法改正を解説~

【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」~社労士が12の法改正を解説~

  • 1

この記事にリアクションをお願いします!