障がい者雇用の法定雇用率が未達成であり、改善が見られない状況が続くと、最終的に企業名が公表されます。企業名公表を避けるために、障がい者雇用に取り組もうと努力する企業が大半ですが、中には「社名を公表されたところで、それほど影響はないのではないか」と考える企業もあります。しかし、さまざまな企業の障がい者雇用にかかわってきた中で、企業名公表は何としても回避すべきことだと感じています。その理由や、企業名公表による影響について、本稿で解説します。
障がい者雇用率の未達成による「企業名公表」の影響とは?

法定雇用率未達成企業の全てが企業名を公表されるわけではない

従業員が一定数以上の民間企業では、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)で定められている「法定雇用率」以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。2022年2月現在の障がい者法定雇用率は2.3%、つまり従業員43.5人に対して1名の障がい者雇用が義務付けられています。

さらに、障害者雇用義務のある企業は、毎年6月にハローワークへ障害者雇用状況を報告する必要があります。そして、障がい者雇用が進んでいないとみなされると、ハローワークから「障害者雇入れ計画作成命令」が出されます。この計画は、2年間で障がい者の法定雇用率を達成する(不足数を0にする)ように作成する必要があります。なお、「障害者雇入れ計画作成命令」の対象になる企業は、「障がい者の実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5人以上である企業」(法定雇用障がい者数が3〜4人の企業の場合は、障がい者を1人も雇用していない企業)となります。

「障害者雇入れ計画」は、作成すれば終わりというものではありません。作成された計画の内容が著しく不適当な場合には、その変更を勧告されることがありますし、計画が進んでいないときには、適正な実施を勧告されることもあります。しかし、それでも障がい者雇用状況に改善が見られない場合、企業名が公表されることになります。
障害者雇用率達成指導の流れ

出典:障害者雇用率達成指導の流れ(厚生労働省)

企業名が公表されることのリスクとは

「障がい者雇用状況に改善が見られない企業」として企業名が公表されることを、「大きなリスクである」と感じる企業は少なくありません。多くの企業は、企業名公表を避けるためにも障がい者雇用を進めようとします。一方で、「社名を公表されたところで、それほど影響はないのではないか」と考える企業もあります。障がい者雇用の未達成企業として企業名が公表されることで、実際にどのような影響があるのか考えていきたいと思います。

「障がい者雇用未達成による企業名公表」ではありませんが、障がい者雇用が進められてこなかったという理由で、ある企業が大きく取り上げられたことがありました。今から20年以上前の1999年に起こった「JAL(日本航空)訴訟問題」です。この訴訟問題では、1999年12月にJALの一部の株主が「同社の経営者が障がい者の雇用を積極的に行わずに多額の『障害者雇用納付金』を支払い、同社に納付金相当の損害を与えてきた」として、JALの経営者を相手に、株主代表訴訟を起こしました。結果としては、被告が譲歩するという形で和解が成立しています。

この「JAL訴訟問題」は当時でもそれなりにインパクトがありましたが、当時と比べると、現在は企業の社会的責任やSGDs(※)への取り組みに注目が集まるなど、企業と社会とのかかわりや企業の社会的意義への関心がさらに高まっています。障がい者雇用の未達成により企業名が公表されることの社会的影響は、今や、より大きなものとなっているでしょう。

※「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」はSustainable Development Goalsの略で、持続可能な開発目標を示しています。2015年の国連サミットで採択され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際的な目標です。環境への負荷や格差拡大などの課題解決を目指し、持続可能な世界を実現するため、2016年〜2030年の間に達成すべき17の目標が掲げられています。

障がい者雇用未達成の企業名公表は、厚生労働省からプレスリリースで発表されます。また、厚生労働省のホームページだけでなく、それをもとに書かれたニュース記事やブログ、SNSなどを通して、情報は拡散されていきます。企業名がWEB上で公開されてしまうと、長期にわたり、世界中のどこからでも見ることができてしまう状態になります。そして、WEB上で一度公開された情報を収拾することは、かなり困難なことでしょう。

最近では、人材採用や取引先の情報収集にWEBを活用するケースが多くなっています。もし、採用応募しようとしている企業や、これから取引しようと検討している企業が、障がい者雇用未達成の企業として企業名を公表されている場合、どのように感じるでしょうか。このような悪印象を与える情報がWEBに残ってしまうことは、今後の人材採用や企業間取引などに悪影響を及ぼす可能性が十分に考えられます。

自社従業員の「帰属意識」への影響も考慮すべき

また、意外と見過ごされがちなのが、自社の従業員への影響です。障がい者雇用未達成という形で社名が公表されることによって、従業員に「自分の働いている企業は、障がい者雇用に取り組むという社会的責任を果たせない会社だ」と感じさせてしまいかねません。

多くの企業は、従業員の「帰属意識」を重視しています。「帰属意識」とは、「自分は組織や集団の一員である」と感じることで、組織への愛着心にもつながるものです。企業への帰属意識が高まることで、「企業の目標のために貢献しよう」というモチベーションや、業務への責任感の向上につながるといわれています。そのため、組織の活性化を重視している企業では、従業員の帰属意識を高めることで、組織のことを自分のこととして捉え、自発的に動ける人材を育成していきたいと考えています。一方で、帰属意識が低いと、従業員の定着率が下がったり、仕事へのモチベーションが低下したりします。企業の社会的な評価が、社員にどのように影響するかは、容易に想像がつくでしょう。

障がい者雇用の研修などで、各企業の障がい者雇用の推進に携わる社員の方と接すると、その中には、「家族に障がい者がいる」という方も一定数いらっしゃいます。その方たちが、「自社が障がい者雇用に取り組み始めることを嬉しく思っている」ということや、「将来、障がい者を受け入れてくれる企業が増え、(ご家族が)社会に出て働けるという希望が見えた」と話してくださることも珍しくありません。また、「自社が社会に貢献している」あるいは「製品やサービス提供だけでない存在価値を示している」などと感じる方もいます。あえて会社の中で公表することはないかもしれませんが、身近なところで障がい者と接している従業員の方は少なくないのです。

今回は、障がい者雇用の法定雇用率未達成による企業名公表が、どのようなリスクになるのかについて述べました。私は、企業名が公表されることには、一時的ではない大きな影響やリスクがあると感じています。企業の悪印象になる情報がWEB上に残ることによって、企業の評判や信用、企業間取引、人材採用などに長期的な影響が及ぶ可能性があるということです。加えて、従業員の帰属意識を低下させてしまうことにもなりかねません。企業名公表を避けるためには、障がい者雇用を計画的に進めていくことが大切なのです。

「企業名公表を避けるためにすべきこと」については、関連記事で解説しています。そちらも参考にしてください。

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