企業が経営戦略の改革や組織変革の実現を進める際に、重要な考え方になってくるのが、「チェンジマネジメント」だ。特に現代は市場環境がとてつもない速さで変わってゆくだけに、その動きに合わせて柔軟、かつ俊敏に経営戦略や組織全体の方針を変更していかなければならない。そこで、今回は、「チェンジマネジメント」の概念や実践に向けたフレームワーク、進め方や他社の成功事例を解説していきたい。

そもそも「チェンジマネジメント」とは何か

「チェンジマネジメント」とは、社員全員が変革に適応できるよう準備し、環境を整え、個人をサポートしながら、変革を効率良く成功に導くためのマネジメント手法を意味する。
この概念は、1990年代にBPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス改革)を成功させるためのメソッドとして、米国で実践されたのが始まりとされている。

●「チェンジマネジメント」が重要視されている背景

現代は、「VUCA」の時代と呼ばれる通り、先の見えにくい事業環境にある。こうしたなかにおいても、企業の経営戦略を変革し勝ち残っていくには、トップの強いコミットメントのもと、社員がワンチームとなって経営方針や業務の進め方を変えていかなければならない。もし、戦略の意図・狙いが社員と共有されていなければ、現場から不信感や不満が高まり、想定通りにプロジェクトが進まなくなる可能性がある。それだけに、社員の共感を得ながら改善への取り組みを推進していく「チェンジマネジメント」の重要性が高まっていると言える。

●「チェンジマネジメント」の規模レベル

・個人レベル
「チェンジマネジメント」は、変革の規模感によって個人レベル・プロジェクトレベル・組織レベルに分けられる。

個人レベルの「チェンジマネジメント」は、社員一人ひとりに対して変化を促すアプローチといえる。ここで大切になるのは、社員がどのように変革を推進し、どうすればその変革が成功するのかを理解すること。変革を受け入れなければ何も前進はしないからだ。

そこで、特定の社員に対して「いつ誰からどのようなメッセージを受け取るのが良いか」、「新たな業務の指導はどのように進めたら良いか」、「どのタイミングで新しいスキルを習得するのが最適か」など、変化を促す施策を考えていく必要がある。個人単位での変化を促すことができれば、社員が感じる変革への抵抗感はかなり抑えられる。結果として、生産性の高い業務に取り組んでもらいやすくなると言って良いだろう。

・プロジェクトレベル
プロジェクトレベルの「チェンジマネジメント」は、プロジェクト単位で変革させることを意味する。まずは、プロジェクトを実施した際、変わる必要があるグループや社員は誰か、そしてどのような変化が必要かを特定しなければいけない。また、そのプロジェクトリーダーや社員たちに対して、変革に向けてどのような取り組みが必要か、どんな知識・技術の獲得が求められるのかなど、さまざまな気づきを与えて変化を促していくようにしたい。

・組織レベル
組織レベルの「チェンジマネジメント」は、社会情勢の変化や市場のニーズにどのように対応すべきかをクリアにして、企業全体あるいは組織全体で経営戦略の改革に取り組むことを指す。規模が大きくなるので、プロジェクトレベルや個人レベルの「チェンジマネジメント」を通し、改革を効率的に行える組織づくりを併せて進めておく必要がある。組織レベルで経営戦略の改革に取り組めば、組織が一体となって一つの目標に突き進むことができる。結果として、変化に柔軟に対応する企業へと成長していけると言って良い。

「チェンジマネジメント」の進め方で参考になるフレームワーク

「チェンジマネジメント」を進める上で是非とも参考にしたいフレームワークがいくつかある。それらを紹介していこう。

●危機と改善の緊急性を明確にする

まず、重要となるのが、緊急性を明確化し社員の意識改革を図ることだ。危機意識を高めると、従業員に変革を起こす必要性を理解してもらいやすい。だからこそ、自社が今どのような危機を抱えているのか、なぜ今変革が必要なのかを明確にし、それを社員に知らしめ納得を得る必要がある。社員が変革に抵抗するのは、危機意識や切迫感、当事者意識が欠如し、自社がどのような状況に陥っているのかをしっかりと理解できていないという要因が大きい。

●変革をけん引するパワーを持ったチームを作る

変革をけん引するメンバーを集め、強い変革推進チームを結成することも重要だ。それができてはじめて、短期かつ効率の良い変革を目指すことができる。ここでいうパワーとは、スキルや人脈、周囲からの信頼・評判、そして権限などを意味する。

●変革に向けたビジョンを決定する

ハーバードビジネススクール名誉教授のジョン・P・コッター氏は、「変革ビジョンとは、将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明したもの」と定義している。「最終的に目指すべきゴールは何か」というビジョンを明確にすることで、変革の実現に向けた戦略が描けるというわけだ。加えてコッター氏は、優れたビジョンには共通する6つの特徴があると指摘している。

(1)可視化できる:将来のあるべき姿が明確化されている。
(2)メリットがある:社員や顧客、株主などステークホルダーにとって、長期的な利益が見込める。
(3)実現可能である:現実的で達成可能な目標が設定されている。
(4)方向を示す:意思決定の方向が明確に提示されている。
(5)柔軟性:個人の自主的行動とさまざまな選択を許容し、変化に柔軟に対応できるようにしている。
(6)伝わりやすい:内容が簡潔に説明できる

●明確化したビジョンと戦略を社内で共有する

変革に向けたビジョンと戦略を社内で共有する。まずは、変革推進チームが率先して変革行動を示すことが重要だ。また、さまざまなチャネルを活用するとともに、意欲がダウンしないよう継続的に変革ビジョンを伝えることも必要となる。

●変革に向けて動きやすい環境を整える

共有した変革ビジョンに基づいて行動しやすいよう環境整備も、ぜひ行いたい。変革の障害になりそうな要素をできる限りなくすべきだ。環境の整備がうまくいけば、社員は自主的に変革に向けて提案、行動を起こすようになるはずである。

●短期間で達成できる目標を設定する

企業が目指すビジョンを達成するには、ある程度の期間がかかる。それだけに、短期間で達成できる業績目標を設定し、その進捗具合を共有することも、ぜひ提示したい。成果が目に見えてくると社員は変革のメリットを実感しやすくなる。社員のモチベーションを加速させるという意味では、短期目標で成果を上げた社員に報酬を与えるのも一つの方法である。変革を進めやすくなる一つのポイントといえる。

●変革の推進を拡大する

ある程度、成果が見えて来たら変革をさらに推進するための積極的な行動を起こしていくと良い。「インフラを変える」、「変革推進に貢献する人材を発掘し、採用と教育を進める」など、方法は色々考えられる。

●企業文化の定着を目指す

最終的には変革への取り組みが、新たな企業文化になるよう定着させなければいけない。各部署のリーダーはこれまでの変革の実績を社員に示すとともに、変革を定着させるための後継者や新たなリーダーの育成を進めていく必要がある。

研修を考えるうえで役立つ活用場面と企業事例を紹介

最後は、「チェンジマネジメント」の活用場面と企業事例について紹介していきたい。

●活用すべき場面

「チェンジマネジメント」のプロセスを組織の変革すべてに適用する必要はない。“抵抗される可能性が高い”、“全社的な規模になると予想される”などのケースでこそ意味を持つと言って良いだろう。具体的に、活用すべき場面としては以下の例が想定される。

「経営陣の交代や組織体制の刷新」、「企業文化や価値観の見直し」、「企業方針や人事プログラム・福利厚生に関する見直し」、「全社レベルでの新しいツールやテクノロジーの導入」、「企業合併や買収」など。

いずれにおいても、「チェンジマネジメント」のプロセスを実践する場合には、組織にその変革を展開する方法とタイミングはじっくりと検討することを留意したい。

●企業事例

・日産自動車
1990年代、業績低迷状態にあった同社の社長に就任したカルロス・ゴーン氏は「リバイバル・プラン」と呼ばれる変革を主導した。徹底的にムダを省くコストカットを実施したほか、稼働率の低い工場の閉鎖、それに伴ったリストラを断行。1兆円規模のコストを削減し、わずか1年で業績をV字回復させている。

非常に難易度が高い変革を推進するために、ゴーン氏は変革専任チームを結成。従来からの慣習や規定、価値観をゼロベースで見直していった。また、日産は“なぜ変わらなければいけないのか”、“どう変わろうとしているのか”というビジョンを、全社員に向けて明快に発信し続けていったのも、成功の要因となった。変革の意義を社員が理解できたのもそのためであると言って良い。

・富士フイルム
富士フイルムは事業構造の変革を目指して、課長クラスの役職者1,200人の意識改革に取り組んだ。具体的には、自己評価ツールを活用してリーダーとしての特性を客観視し、今後あるべきリーダー像を再構築していくというもの。取り組みの結果として、多くの参加者に、「部下と一緒に考えながらモチベーションを高めていきたい」、「リーダーだけでなくチーム全体で課題を解決するようにしたい」など姿勢に変化が生まれている。
企業が勝ち残っていくためには、組織変革が不可欠となる。だが、組織に変化を起こすことは、容易なことではない。変革のビジョンが経営層だけでなく、社員一人ひとりにまで落とし込まれていなければ、さまざまな阻害要因が生じるからだ。それらにも適切かつ迅速に対処しながら、社員の協力を得て計画的にプロジェクトを進めていく必要がある。また、企業の変革は数年単位で計画を策定しなければいけない。長期的な視野でプランを練る一方、社員のモチベーション維持のために短期的な事業目標もミックスして考えていくことが望まれる。
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