少子高齢化が進む日本では、どの企業も人材の確保が喫緊の課題となってきている。一方では、仕事に対する価値観の多様化も進んでいる。こうしたなか、社員の定着や生産性の向上を図ろうとして、「働きがい」のある職場づくりに注力する企業が増加傾向にある。そこで今回は、「働きがい」に注目し、その意味合いや職場にもたらす効果、「働きがい」を高めるために必要な要素や先進的な企業の取り組み事例を解説していきたい。
「働きがい」の意味や職場への効果とは? 向上にむけて必要な要素や取り組み事例も解説

「働きがい」の意味、注目されている背景とは

「働きがい」とは、社員が働くことで得られる喜びや価値、結果を意味する。それらに本人が満足していれば、自ずとモチベーションも高くなり、仕事に積極的に取り組むことができる。

「働きがい」に関連して、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが「ハーズバーグの二要因理論」を提唱している。それによると、「働きがい」は、「動機付け要因」と「衛生要因」に分かれると言う。「動機付け要因」は、仕事の達成感や裁量範囲の広がりなど、やる気やモチベーションにつながるもの。一方、「衛生要因」は、会社の方針や労働環境、待遇、管理方法など整っていないと不満を生み出してしまうものを指す。順番として、まずは「衛生要因」を改善し、その上で「動機付け要因」にアプローチすることを推奨したい。

●「働きがい」が注目されている背景

「働きがい」が注目される背景には、いくつかの要因がある。SDGs(Sustainable Development Goals)もその一つだ。これは、より良い世界を目指して提示された2030年までの持続的な開発目標を意味する。そのなかに、「働きがいも経済成長も」という目標が掲げられている。これをきっかけに、「働きがい」に対する注目度が一気に高まったといえよう。

また、事業環境や労働市場の変化も要因として挙げられる。複雑性・不確実性が増すなか、いかに最適な経営施策をスピーディーに打ち出して行けるかが企業に問われている。社員も自律的な行動がより求められるだけに、そのエンジンとなる「働きがい」の創出に重きを置いていかなければいけない。労働市場にしても、今いる社員に定着してもらうために、「働きがい」のある職場づくりが急務となってきているのだ。

さらには、経団連が進める「働きがい改革」も背景にある。人材の定着や教育、個人の自主性や創造性が、企業にとってより重要になってきているのだ。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大によるテレワークの普及もある。従来からの時間や場所に制約された働き方ではなく、成果ややりがいを重視した働き方に転換していこうという取り組みにシフトしていこうとしている点も見逃せない。

●働きやすさや従業員エンゲージメントとの違い

「働きがい」は内発的に発生する個人の内面的な変化である。これに対して、「働きやすさ」とは外的な要因に影響されるもの、外側から提供されるものを指す。具体的な例を挙げると、残業が少ない、評価が公正である、働き方が柔軟であるなどだ。

従業員エンゲージメントとは社員と企業の相互理解、結び付きの度合いを意味する。一方、「働きがい」とは、社員がモチベーション高く働いている状態である。

おさえておきたい「働きがい」の要素

「働きがい」にはいくつかの要素がある。それらを説明しよう。

●信頼、帰属意識

長い間、日本企業は終身雇用が維持されてきた。しかし、それも近年は変わり、企業と社員の関係性も新たな時代に入ったといえる。

それでも、「従業員を大切にした経営をする」、「結果だけでなく、プロセスも含めて社員を公正に評価してくれる」、「上司が自分の前向き姿勢をしっかりと見てくれる」などと実感できれば、誰でも仕事に専念しやすくなるはずだ。会社を信頼し、帰属意識が持てれば働くことが喜びとなってくる。

●仲間

共に働く仲間がいるかどうかも「働きがい」につながってくる。仕事を進める上では、チームプレーが大切だからだ。お互いに支え合うこともあれば、ミスをカバーしあうことも珍しくない。それだけに、「仲間との一体感」、「誰かの役に立つことができているという自己肯定感」、「仲間に対する信頼感」などを実感できると、内発的な動機付けが得られ、「働きがい」が高まるだろう。

●成長

人は、仕事を通じた自己成長に「働きがい」を実感しやすい。そうなると、よりレベルの高い仕事に挑み、それをクリアしたいと思うようになってくる。もちろん、いきなり難易度を上げてしまうのは良くない。本人の意欲と能力を踏まえ、多少ストレッチすれば手が届くレベルに設定するようにしたい。度が過ぎると、「働きがい」を感じなくなるどころか、ストレスを抱えてしまう可能性があるので、仕事を任せる時には注意して臨む必要がある。

また、毎年、日本における「働きがいのある会社」ランキングを発表しているGPTWジャパンでは、以下の5つの要素に基づいて調査対象企業の社員に「働きがい」があるかどうかを調査している。

・信用
社員が経営層をどれだけ信用しているかを測る。具体的には、経営層のコミュニケーションや習慣、能力、誠実さに対して社員がどう認識しているかを評価している。

・尊厳
社員が経営層からどれだけ尊敬・尊重されていると実感しているかを測る。具体的には、経営層が社員に行ったサポートや協力、配慮のレベルを評価している。

・公正
社員が経営層に公平に扱ってもらえていると感じているかを測る。具体的には、社員が職場で感じている公平さ、中立、正義に関して評価している。

・誇り
社員が仕事に対してどれだけプライドを持っているかを測る。具体的には、自分の仕事や会社、部署に感じている誇りを評価している。

・連帯感
社員が職場で実感している連帯感を測る。具体的には、職場での親密さ、ホスピタリティ、コミュニティの質を評価している。

「働きがい」は企業や組織にどのような効果があるのか

次に、「働きがい」は企業や組織にどのような効果・メリットをもたらすのかを考えていこう。

●業績が向上する

「働きがい」が感じられると社員は、「会社にもっと役立ちたい」、「より活躍したい」という気持ちが強くなり、主体的に業務に取り組んでいく。結果として、業務の生産性がアップし、業績向上につながるというわけだ。実際、「働きがい」の高い企業では、業績アップにつながる社員の行動が生まれやすい。事実、GPTWジャパンの「働きがいのある会社」ランキングに選出された企業の株価リターンは、主要な株価指数と比較しても高い傾向にある。

●定着率が向上する

「働きがい」のある会社では、人材が定着しやすい傾向がある。自分は会社から何を期待されているのかが理解しやすいので、会社に対してもっと貢献していきたいという気持ちで働けるからである。自ずと仕事に対する満足感や納得感も得られ、組織の一員であるという帰属意識も、より強くなってくる。

●新しいアイデアが生まれやすくなる

「働きがい」を感じる社員は、自らの経験に基づいて得意分野や強みを認識し、オーナーシップを持って、仕事のやり方や進め方を工夫しながら、新たなチャレンジをしていく。そうすることで、革新的なアイデアが生まれやすくなるだろう。

●新しいビジネスや技術につながりやすくなる

「働きがい」が高まることで、仕事の楽しさや仕事に対する興味などといった内部的動機にスイッチが入る。それによって、挑戦心や好奇心が一気に加速していくので、新しいビジネスや技術が生まれやすい。

●人材育成につながる

「働きがい」のある企業では社員がスピーディーに成長していける。「働きがい」が社員の意欲やモチベーションを高め、より自律的・主体的な働き方ができるようになるからである。そのプロセスのなかでは、多くの価値ある経験やスキルを身につけることができるはずだ。

「働きがい」の取り組み事例を紹介

最後に、「働きがい」に関する代表的な企業の取り組み事例を紹介したい。

●シスコシステムズ

同社は2018年に続き、2021年においてもGPTWジャパンによる「働きがいのある会社」大規模部門で第1位に選出されている。

同社では、以前から社員の生産性と満足度を向上させるために、最新のテクノロジーを活用しながら「働き方改革」を推進してきた。あわせて、インクル―ジョン&ダイバーシティ活動にも注力しており、社員の多様性を尊重することを経営戦略の一つに位置付けている。特にこの一年は、新型コロナウイルスの感染が拡大したこともあって、完全在宅勤務にいち早く着手したほか、社員及びその家族を招いたオンライン・コミュニティイベントを開催したり、計画的かつ段階的にオフィスに復帰していくプログラムも進めたりしている。

シスコシステムズは、“人財と企業文化”こそが最大の強みであるとしており、今後も「働きがい」のある会社づくりを目指していくという。

●コンカー

コンカーは、「社員の『働きがい』を高めること」を会社の成長戦略に位置付けており、GPTWジャパンが発表した2021年「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門において、4年連続となる1位を獲得した。

同社も新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、順次リモートワークに移行した。そうしたなか、指摘されたのが、リモート環境下における社員のモチベーションや生産性の低下であった。そこで社員の「働きがい」やエンゲージメントを高めるために、さまざまな施策を企画・実施している。例えば、隔週で30分間に渡り、社長自らがオンライン会議「絆ミーティング」を主催。社長が社員からの質問に答えたり、社長が社員にインタビューを行ったりして、社内のコミュニケーション不足や社員の不安感などの解消につなげている。また、“Work from Anywhere”を掲げて、社員一人ひとりのワークスタイルや価値観に合わせて、自宅やオフィス以外の場所でも就業できるよう、短期ワーケーション、長期ワーケーション、遠隔地への移住という、柔軟に働ける3つの選択肢を提示している。
何に「働きがい」を感じるかは一人ひとりで大きく異なり、「これが正解だ」というものはない。そうしたなかで、企業としてどう取り組むべきか。例えば、新たな人材確保が難しくなっているなかでは、「働きがい」を提供することで、仕事への喜びや会社への帰属意識を感じてもらおうと取り組む企業が増えている。各企業の課題によって打ち手は当然異なるため、本記事で紹介した「働きがい」の要素をふまえながら施策を推進していただきたい。
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