ガクチカをどこまで盛るか
ここからは、就活生からの投稿による「2026年卒 就活川柳・短歌」の入選作品を取り上げます。まずは、【最優秀賞】からです。今年は2作品あります。サークル長 バイトリーダー 学祭長 信憑性取り 副部長(大阪府 バーバパパさん)
就活におけるガクチカ(学生時代に力を入れたこと)の盛り方を見事に表現した秀作です。「サークル長」「バイトリーダー」「学祭長」といった聞こえの良い肩書を並べながら、最後に「信憑性取り」「副部長」というオチで現実を突きつける構成が絶妙です。現代の就活生の多くが直面する“エピソードの演出”という課題を、リズミカルな語呂合わせで表現しています。
エントリーシートでの自己PR作成において、多くの学生が過去の経験をいかに魅力的に表現するかに苦心する現状を、この作品はまさに就活生の等身大の心境として代弁しています。「信憑(しんぴょう)性」という言葉を使うことで、学生自身、その演出に後ろめたさを感じている複雑な心理状態も巧みに描写しています。
手書き散る AIの筆に 風光る(千葉県 たなかさん)
デジタル化が進む就活現場において、手書きからAIへの移行を季語「風光る」を使って美しく表現した作品です。自分自身が数日かけて思いを込めて書き上げたエントリーシートが書類選考で落とされる中、生成AIにほんの数分で作成してもらったエントリーシートが通過していくさまを物悲しく感じる一方で、生成AIが内定までも引き連れて来てくれる期待感も表現しています。また、「手書き散る」という表現には、従来の就活手法が終わりを告げる寂しさと、新時代への期待が込められていると読めなくもありません。「AIの筆」という擬人的な表現により、生成AIを道具として受け入れながらも、それが持つ創造性を認める学生の心境が読み取れます。
近年の就活現場では生成AIの活用が急速に浸透しており、エントリーシート作成や面接対策において生成AIを活用する学生が増加している現状を、まさに時代の転換点として詠んだ作品といえます。「風光る」という春の季語により、新しい門出への希望(内定)も表現されており、生成AIとの共存を前向きに捉える現代学生の価値観を見事に捉えています。
AIと人間性の間で揺れる心境
続いて、【優秀賞】を紹介します。【最優秀賞】が2作品だったこともあり、こちらは1作品のみとなりました。AIより 人に見てほし この熱意(新潟県 すんださん)
生成AI活用が当たり前となった就活において、学生が抱く根源的な願いを表現した一句です。エントリーシートの書類選考でAIによる一次スクリーニングを導入する企業が増える中、学生たちは自分の思いが人事に届くのか不安を抱えています。「この熱意」という表現には、AIでは判断しきれない人間らしい感情や体験への思い入れを、最終的に人間同士のコミュニケーションで伝えたいとの学生の願望が滲み出ています。AIと人間性の両立という、今どきの就活生が直面する課題を的確に捉えた秀作です。
令和の就活事情を映す佳作群
さらに【佳作】の中から6作品を抜粋して紹介します。二つ来た 夢か安定 揺れる胸(北海道 ドラケンスバーグさん)
複数内定を獲得した学生の心境を見事に表現した作品です。売り手市場が続く中、学生にとって内定獲得のハードルは下がったものの、逆に選択の困難さが生まれています。「夢か安定」という対比により、自分の夢を追うことのできる企業と、福利厚生や待遇などが充実している安定企業との狭間(はざま)で悶々(もんもん)とする学生心理を簡潔に描写しています。そして、「揺れる胸」という表現からは、贅沢(ぜいたく)な悩みでありながらも、長きにわたり深刻に悩む学生の等身大の姿が想像できます。売り手市場が継続する現代の就活において、複数の内定を得る学生が増加する状況を映した作品といえます。
落ちたなあ 受かってるかも 落ちたなあ(兵庫県 アホゲータさん)
就活生特有の心境変化を巧妙に表現したユーモア溢れる作品。最終面接直後の感触から一転、時間が経過する中で期待と不安が交錯する心理状態を「落ちたなあ」で始まり、「落ちたなあ」で終わる構成で表現し、中間の「受かってるかも」という一瞬の希望的観測が、売り手市場であっても必ずしも希望どおりにはいかない現実を際立たせています。面接後すぐに結果連絡が来る企業ばかりではありません。就活において、なかなか結果が知らされない企業に対して誰もが経験する感情の揺れ動きを、シンプルながら印象的な反復表現で描いた一句です。
就活で 仲良くなった GPT(兵庫県 まかろにさん)
生成AI時代の就活における新たな関係性を軽やかに表現した作品です。ChatGPTをはじめとする生成AIが、エントリーシートや面接対策などの就活の相談相手として機能している現状を「仲良くなった」という、文字どおり親しみやすいフレーズで言い表しています。従来の就活では学校の先輩や友人が相談相手となることが多かったところ、現在では24時間利用可能なAIが重要なパートナーとなっています。最初は丁寧語で投げ掛けていたプロンプトも、いつの間にか“タメ口”になっていく様子がうかがえます。この句からは、生成AIを敵視するのではなく、頼れる相手として受け入れる昨今の学生の柔軟性が読み取れます。
