改正労働基準法第39条はどう解釈すべきなのか(後編)

前回は、労働基準法第39条が明解に文理解釈できること、そして、厚生労働省から発せられた解釈通達が不可解であることを論じた。しかし一方で、今回の解釈通達についてもろ手を挙げて賛成している識者もいるようだ。時間単位年休が年休の本来の目的たる労働者の心身の休養に資するものではないから、新制度の対象外となるのは当然である、といった論調である。果たしてそうであろうか。

法治国家は文理解釈が基本

近代国家は法治国家であり、その基本的性格が恒久的な法体系によって、その権力が拘束されていなければならない。これは、近代ドイツ法学に由来する概念であり、国家におけるすべての決定や判断は、国家が定めた法律に基づいて行うべきとされる。

形式的には法治国家であっても、その運用が恣意的であり、法の支配が成り立っていない国家や社会を「人治主義」というが、これは近代国家ではあってはならないことである。よって、その延長線上にある法律の解釈もまた、「文理解釈」が基本とされなければならない。

コモン・ロー(common law 慣習法・判例法)の法域には、現在でも、文理解釈上の意味が明白な場合は、大陸法におけるような論理解釈は原則として許されないと考える、「明白な意味の原則」(Plain Meaning Rule)が遵守されている。

「文理解釈」というのは、文字どおり、条文の文字をそのまま素直に読んで意味を掴もうとする法解釈である。簡単に言うと、普通に読んで普通に理解しよう、という手法に過ぎない。条文の解釈においても、まずはこの文理解釈が出発点となる。

つまり、条文を「素直に読むこと」から始まるのだ。なぜなら、その条文を読んだ一般人が普通に理解するだろうというように解釈しないと、彼らがどのように行動したらよいか分からなくなってしまうからだ。条文の解釈に当たっては、国民の期待に反しないよう、その文言の素直な“国語的意味”を尊重すべきなのである。

とは言え、法律によっては、素直に読むと、かえって具体的妥当性を欠き、当事者の権利を不当に害し、法律の趣旨を損なってしまう場合があるのも事実だ。当然このような場合は、文理解釈だけでは通用しない。そこで、文理解釈ではない他の解釈も必要となってくる。これこそ、論理解釈や目的論的解釈が必要とされる所以である。

何度も繰り返すが、条文の文言を離れて自由勝手に解釈してしまうのでは、もはや解釈ではなく、「立法」となってしまう。行政権には自ずと限界がある。行政府は立法府を最大限尊重しなければ、法治国家そのものが壊れてしまう。

誰のための法解釈なのか?

今回の労働基準法第39条の改正は、年次有給休暇の取得促進を図って、労働者の心身の休養に資することを目的としている。そこには、「1日単位や半日単位であればその目的が達せられて、時間単位年休では達成できない」という都市伝説が横たわっているように感じる。しかも、労働基準法制定以来の年次有給休暇の変遷や、果たしてきた役割が議論された節は、ほとんど見て取れない。

法律を取り巻く状況は、時代とともに日々刻々と変化していく。社会経済環境はもとより、雇用労働環境も然りだ。「時間単位年休」が導入されたのは、平成22年4月からであるが、この時の法改正の目的は、

「まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨を踏まえつつ、仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的として、労使協定により、年次有給休暇について5日の範囲内で時間を単位として与えることができることとしたものです。」(厚生労働省)

とされている。その前提として、

「現行の日単位による取得のほかに、時間単位による取得の希望もみられるところです。」(厚生労働省)

との表現も見られる。

制度導入から約10年が経過しているわけだが、潜在的なものも含めて、「時間単位年休」へのニーズは高まりをみせているように思われる。特に、共働き夫婦が激増せざるを得ない社会経済環境においては、ワークライフバランスの実効性を確保する上で必須の制度と言えよう。

解釈通達はワークライフバランスを阻害する

そもそも、「時間単位年休」が年休制度の本来の趣旨目的から逸脱しているとは考えにくい。年休の取得単位が時間となっているだけで、あくまでもこれは、1日単位(所定労働時間数)にプラスアルファで時間単位での年休取得ができるという、フレキシブルな制度だ。

ただ、労働者目線で捉えれば、わずか数時間の所用を済ますために1日の年休取得はもったいない。1年間のうちに生じる細切れの所用を、「時間単位年休」で消化し、数日に圧縮すれば、それ以外の日数を最大化して、心身の休養に充てることができる。場合によっては、すべての年休を時間単位にしても不都合はないだろう。現に、労働基準法が適用されない公務員は、すべての年休が時間単位で運用されているではないか。しかも、過去数十年に亘ってである。

今回の解釈通達によって、すでに「時間単位年休」を導入している企業は、年休の強制付与との兼ね合いで、年休の二重管理を強いられることになる。法定化された「年休管理簿」においては、時間単位年休を含むすべての年休を一元的に管理する必要があるからだ。実務上、そこまで影響が及んでしまうことをきちんと認識せねばならない。

このようにつまらないことが原因で「時間単位年休」の導入を避ける企業が出てくるとしたら、今回の解釈通達は、いわゆる“逆インセンティブ”であり、働く人たちの不幸を煽ったに過ぎない。これではワークライフバランスが進むわけがない。
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP
大曲 義典

著者プロフィール

HRプロ編集部

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