来年4月からの実質的な法施行に向けての準備が佳境を迎えている働き方改革関連法であるが、やはり、現場への落とし込みのプロセスで混乱を来たしている。今回は、労働基準法改正で義務化される「年次有給休暇の5日間強制付与」について、その内容や影響について考えてみる。
年次有給休暇強制付与制度はここが問題だ!

年次有給休暇制度の趣旨

労働基準法第39条の年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、毎年一定日数の有給休暇を与えることを使用者の義務、裏返せば労働者の権利として規定している。ここでその歴史的経過を辿ってみよう。

年次有給休暇の趣旨に倣えば、休暇単位はなるべくまとまっていたほうがよい、ということになる。よって、労働基準法制定以来、年次有給休暇の付与単位は1日単位だとされてきた。しかし、働く女性労働者の比率が高まるなどの労働環境の変化もあり、「1日単位付与に対する例外」が考えれられるようになってきた。

理由としては、労働者が家庭や地域での行事、病院への通院などで休む場合、1日の有給休暇では長すぎると感じる時もあるだろう、使用者としても有給休暇を1日単位より小さな単位で取ってもらったほうが業務運営上好ましいこともあるだろう、といった、労使双方の状況変化が挙げられる。

実際、職場では、このような双方のニーズに応える形で、労働基準法における有給休暇の趣旨とは違った、半日単位での休暇の付与が行われている。行政庁においても、1日よりも小さい単位での有給休暇の付与は、労働者がその単位での休暇の取得を希望して時季を指定し、それに使用者が同意している限りは問題ないとしている【昭和63年3月14日基発150号】。

つまり、この段階までで年次有給休暇は、1日単位を原則としながらも、一定の要件の下に半日単位ででも取得可能とされてきたわけである。

時間単位年休制度の導入

このような経過を踏まえ、平成20年の労働基準法改正では、「時間単位年休制度」が導入される運びとなった。これにより、適切な労使協定を結べば、年5日の範囲内で1時間単位での年休取得が可能になったのである。

労働者は自身のプライベートや仕事の都合を考慮しながら細やかな休みを取得できるようになり、1日休めば多くの仕事が溜まってしまっていた労働者も、休みを小刻みにすることで、業務上の負担を軽減することができるようになった。また、企業としても、この制度を導入して休みやすくなる環境を整備することは、労働者の満足度をアップさせるだけでなく、ワークライフバランスに取り組んでいることを分かりやすい形で対外的にアピールすることができるようになった。

従って、現下の年次有給休暇の取得に関する政策課題は、いかにこの「時間単位年休」の日数の上限を緩和していくか、それと同時に、年次有給休暇のグローバルスタンダードと言える「長期休暇制度」をどのように制度化していくか、にあると言えよう。

「年次有給休暇の5日間強制付与」制度の運用方針は理不尽

ところが、このような潮流にありながら、今回の「年次有給休暇の5日間強制付与」にあたって、厚生労働省は、労働者の時季指定での取得済み年休についても、使用者の強制時季指定付与についても、「時間単位年休」での取得や付与はカウントされないという方針のようなのだ。これはいったい何を意味し、いかなる影響を及ぼすことになるだろうか?

私見だが、おそらく厚生労働省としては、「時間単位年休は本来的な意味での年次有給休暇とは考えていません。まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨を踏まえて、このような対応をさせていただく予定です。各企業の働き方改革に伴う制度構築の有力な選択肢のひとつが時間単位年休であったとしても、従来からの考え方を改めるつもりはありません。」ということだろう。

これでは時間単位年休制度を導入している企業にとっては、年次有給休暇が2つの制度に分割されるようなものだ。事によると、大きな悪影響が出るかもしれない。

年休の全体管理は時間単位年休を含めて管理していく必要があるし、今回の年休の強制付与にあたっては、時間単位年休を除いて管理していくことが求められる。

また、年休取得の主体は労働者であるとされているから、仮に労働者から6時間の時間単位年休が届出られた場合、「半日単位年休」+「2時間の時間単位年休」という取扱いはできないことになり、あくまで「6時間の時間単位年休」として与えなければならないことになる。何とも理不尽な運用を強いられることになりそうである。

さらに、このことが影響し、時間単位年休制度の導入を敬遠する企業が出てくるようであれば、完全なる政策ミスである。ちなみに、国家公務員あるいは大多数の地方公務員の年次有給休暇制度は、従前からそのすべてについて時間単位年休で運用されている。もし、民間に時間単位年休の有用性を否定するような運用を強いるのであれば、しっかりした説明責任と自らの姿勢を正すべきだろう。

確かに、世界、特にヨーロッパと日本では、雇用慣行や休暇制度に対する考え方が異なっているため、世界への体面もあってこのような制度運用とならざるを得ないのかもしれない。しかし、日本には日本独自の仕組みがあってもよいのではないか。

時間単位年休制度の有用性の検証がなされたのか甚だ疑問である。時間単位年休をベースとしながら、ある程度の強制力をもったフレキシブルな長期連続休暇制度をビルトインすれば済む話だったのではないか。抜本的な制度改正ではなく、小手先の改正に終始するから問題が噴出することになる。

今回の法改正は下手をすると、企業にとっては、生産性の向上どころか、マイナスにしか働かない改悪の典型例となってしまうかもしれない。


株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP(R) 大曲義典

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