労務トラブル発生時の関係修復法“3つのかえる”

甚大な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」から約2か月、被災地ではいまだ懸命な復興活動が続いている。その被災地で社労士として企業と関わりながら、何度か耳にした事業主の方の悩みが、「周囲(被災していない人、地域)との温度差があり困っている」ということである。到底、通常業務を行える状況ではない中で、顧客から「え? 無理なんですか?」と、さも意外なことのように驚かれることに愕然とすることも少なくないという。
また社内の労務トラブルとして、従業員に出勤してほしい旨伝えると、「出勤は不可能です」とむげもなく返されるといったように、勤務を巡って事業主と従業員が対立するケースも目の当たりにした。これらトラブルの要因になっているのは、双方の“認識の差(温度差)”である。
人間社会において、立場の違いによってこうした“温度差”が生じることは、ある程度は仕方がない。その差を埋めるために我々は、情報の共有化や、良好なコミュニケーションに日々努めている訳である。しかしそれでも、上記のようにトラブルになってしまうことがある。そのようなとき、何を取っ掛かりにして解決を目指すと良いだろうか。

そこでふと思い出したのが、私が外食業界に勤めていた頃に教わった、顧客とのトラブル発生時の“3つのかえる”という実践法である。当時はこの方法にとても助けられた。業界を離れて10年以上経つが、今でも内容をすらすら言えるくらい我が身に染みついている。今回、もしかするとこれが労務トラブルの解決にも役立つかもしれないと思ったため、以下、簡単にご紹介したい。

(1)人をかえる
1つ目のかえるは「人をかえる」である。例えば飲食店などにおいては、お客様からクレーム等が発生したとき、ためらわず一番上の立場である店長が“サッ”と出て行って対応すると、案外すぐに円く収まることがある。この理由としては、責任ある立場の者が直接対応することで、相手に自分のことを重要視してくれていることが伝わり、お客に安心感が生まれるためと考えられる。トラブル解決には、相手の不安な気持ちを取り除くことが何より重要なのである。

労務トラブルの場面においても同様に、“サッ”と直属の上司や経営トップが対応することで、同様の効果が期待できるのではないだろうか。このとき、この“サッ”が重要である。決して後手に回ってはいけない。こちらから積極的に、従業員に対し歩み寄りを見せることが、労使の温度差解消の肝である。

(2)場所をかえる
2つ目のかえるは「場所をかえる」である。飲食店などでは、応接室など別室に案内したり、お客様のお宅へお伺いするという方法である。場を改めることで雰囲気を一変させる効果の他に、これにより相手に対し誠意を見せる意味が出てくる。

労務トラブルの場面においては、さすがに労働者の家に行くのは少々やり過ぎだが、仕事場を離れ、会議室などでプライバシーを確保し、じっくりと話ができる場所を用意することで、真剣に話し合いをするという姿勢(誠意)を示すことになるのではないだろうか。そうすることでお互い建設的な話し合いができるようになるかもしれない。

(3)時間をかえる
3つ目のかえるは「時間をかえる」である。具体的には丸1日ほど置いて話をするなど、いわゆる“冷却期間”を設ける方法である。この方法のメリットは2つある。

第1のメリットは、感情的になり短絡的な結論になってしまうのを避けることができるということである。例えば、「辞めてしまえ!」「ああそうですか!」といった売り言葉に買い言葉で、貴重な人員を減らしたり、不当解雇の訴えを起こされたりするケースを予防できる。

第2のメリットは、時間をかけて正しい情報を調べることで、誤った回答を避けられる点にある。ついその場の雰囲気で不確かな返答をしてしまい、後になってから「あれは間違いでした」では、問題はこじれるばかりだ。労務トラブルで多いのが、「聞いていた話と違う」といったパターンや「○○さんと私とで扱いが違う」といったパターンである。これらを防止するには、いったん時間を置き、事実確認や就業規則等社内ルールを正しく把握した上で、常に間違いのない回答をすることだ。それを積み重ねることで、労使間の信頼関係も高まっていくだろう。

自然界においても空気の“温度差”で“風”が生じるという。温度差によって秩序が乱れるのは自然界も人間界も同じのようだ。ただ、自然の風は、気温差を解消するための大気の運動であるらしい。とすれば、人間関係のトラブルといった多少の“風”も同様に、元の円満な状態に戻るための一つの現象であると考えられないだろうか。そう考えると、労務トラブルは、むしろ歓迎すべきものであるかもしれない。問題に対して決して背を向けず、積極的に解決に向けた行動を取っていくようにしたいものである。

出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

著者プロフィール

HRプロ編集部

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