去る7月6日に難産のすえ、「働き方改革関連法案」が国会を通過した。あまり知られていないが、この法律案には、政党間の激しいやり取りを物語るように「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案に対する附帯決議」(参議院厚生労働委員会)が、平成30年6月28日に付されている。47項目の多岐にわたる附帯決議には、当事者となる企業等が理解しておくべき内容も多いので、今回及び次回の2回に分けて解説しておきたい。
働き方改革関連法に対する国会の附帯決議から読み取れること(前編)

「罰則付き時間外労働の上限規制」に関する事項

「三、 労使が年七百二十時間までの特例に係る協定を締結するに当たっては、それがあくまで通常予見できない等の臨時の事態への特例的な対応であるべきこと、安易な特例の活用は長時間労働の削減を目指す本法の趣旨に反するもので、具体的な理由を挙げず、単に「業務の都合上必要なとき」又は「業務上やむを得ないとき」と定めるなど恒常的な長時間労働を招くおそれがあるもの等については特例が認められないこと、特例に係る協定を締結する場合にも可能な限り原則水準に近い時間外労働とすべきであることを指針等で明確化し、周知徹底するとともに、都道府県労働局及び労働基準監督署において必要な助言指導を実施すること。」(太字著者)

本項は、労働基準法第36条の改正に係る36協定の特例条項に関するものである。今回の改正では、時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以下(休日労働含む)を限度とすることが、罰則付きで法律に格上げされた。

附帯決議では、改正後の36協定の特別条項の趣旨があくまで例外的な取り扱いであることを謳っている。具体的には、特例条項を締結しなければならない理由が、「業務上必要なときとか、業務上やむを得ないとき」では認められず、「具体的な事由を挙げる」ことが必要だとしている。

また、特別条項による労使協定の締結の必要性が認められる場合でも、その時間数は月45時間あるいは年360時間の原則水準に近いものにすべきだとしている。従って、企業としては、原則とされている時間外労働時間数を強く意識しながら対処していく必要があるだろう。

「五、 事業主は、特例の上限内であってもその雇用する労働者への安全配慮義務を負うこと、また、脳・心臓疾患の労災認定基準においては発症前一箇月間の時間外・休日労働がおおむね百時間超又は発症前二箇月間から六箇月間の月平均時間外・休日労働がおおむね八十時間超の場合に業務と発症との関連性が強いと評価されることに留意するよう指針に定め、その徹底を図ること。」(太字著者)

本項は、36協定が法定の範囲内であっても、それとは切り離して、企業は労働契約法第5条に定める「安全配慮義務」を負うことを謳っている。そのために意識すべき時間外労働時間数が、労災認定基準にあることを改めて徹底することとしている。

安全配慮義務違反となれば、それは民事上、債務者(企業)の債務不履行として損害賠償請求されるため、企業側が立証責任を負うこととなる。企業としては、ほとんど無過失責任と同義となってしまうことを十分に理解しておくべきである。

「十五、 時間外労働時間の上限規制の実効性を確保し、本法が目指す長時間労働の削減や過労死ゼロを実現するためには、三六協定の協議・締結・運用における適正な労使関係の確保が必要不可欠であることから、とりわけ過半数労働組合が存在しない事業場における過半数代表者の選出をめぐる現状の課題を踏まえ、「使用者の意向による選出」は手続き違反であること、及び、使用者は過半数代表者がその業務を円滑に推進できるよう必要な配慮を行わなければならない旨を省令に具体的に規定し、監督指導を徹底すること。また、使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしてはならない旨の省令に基づき、その違反に対しては厳しく対処すること。」(太字著者)

本項は、36協定の締結手続きに関するものである。実務上も「過半数代表者」の選任が適正でない企業も少なくないことから、今後は手続き面についても厳正化していくことを宣言したものである。

周知のとおり、件の「電通事件」においても、36協定の締結手続き違反=36協定無効=労基法違反との認定がなされたところであり、例えば、社内親睦会の幹事を過半数代表者として選任したり、非民主的な手続き(消極的な意思確認にとどまる投票など)による選任は無効となるので、要注意である。もちろん、労働基準監督署の監督指導は強化されることになる。


株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP(R) 大曲義典

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