サキ(1870-1916、イギリスの作家)の短編小説にこんな話がある。

ある館の女主人が賓客をもてなすための準備をしていた。いよいよ当日という時になって、突然女中の組合員達がストライキを起こす。女主人は泣く泣くその要求を呑む。これで無事賓客を迎えられると思った矢先、今度は女中組合の要求を呑んだことに不満を持った料理人組合員たちがストに入り、「料理は出せない」と告げる。絶体絶命のピンチに女主人は絶望して、「不人情だ!」と叫ぶ ―― 。
問題社員が後を絶たない原因は?

経営者や職場のリーダーの皆様であれば、この女主人の気持ちが良く分かるのではないだろうか。あちらを立てればこちらが立たずといった状況や、理解不能で理不尽な要求を受けることは日々の労務管理の現場では珍しくない。「いったい自分が何をした?」「私がどんな悪いことをしたのか教えてくれ!」と叫びたくなるようなご経験がきっとおありのことと思う。

こうした労務トラブル(問題社員対応)が発生した場合、一般的に次のようなステップを踏んだ労務管理手法で対応することが考えられる。

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 STEP1 事実の正確な把握
 STEP2 問題のレベル分け
      レベル1:教育訓練レベル(例:服装の乱れ、勤務態度など)
      レベル2:懲戒処分レベル(例:ハラスメント、横領など)
      レベル3:解雇レベル(レベル1,2で済まないケース)
 SETP3 各レベルに応じた改善行動
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客観的なデータがある訳ではないので恐縮ではあるが、日々の現場で圧倒的に多いトラブルが「レベル1:教育訓練レベル」に相当するものであるように思える。文字通り教育訓練、指導等により問題解決を図る必要があるが、いざ実施しようとすると社員側から思わぬ反撃を受けることがある。例えば次のような具合である。

(1)遅刻が多い社員を指導
 →「○○店長だってよく遅れてくるじゃないですか!」
(2)身嗜みを指導
 →「○○部長の方が派手な格好をしています!」
(3)能力不足を指導
 →「聞いても嫌な顔をされますし、研修の機会もないですよね?」
(4)勤務時間に度々席を外すのを指導
 →「普段からサービス残業しているのですから、これ位多めに見てくださいよ」
(5)急な欠勤を注意
 →「会社だって一方的に突然シフト変更してくるじゃないですか」
(6)課題等の提出物を出さないことを指導
 →「会社も給与明細書とか必要書類が遅れたりしますよね?」
(7)無駄な居残り残業を指導
 →「納期に間に合わなくてもいいのですか?年休も我慢しているのですから残業位認めてください」

……中には論点のすり替えのようなものもあるが、実際に話をしてみると、会社側にとって耳の痛い指摘が次々と社員の口から飛び出してくる。あるいはその場は大人しく従うが、その後に場所をかえて社員同士で盛り上がるのである。こうなると指導について相手の納得を得ることは難しく、問題解決は進まない、ということになってしまう。
ただ、現実問題として、上司は自分のことを棚に上げてでも部下を指導しなくてはならない。放置しておくと職場崩壊に繋がりかねない。しかし、上記のような状況のままでは指導の効果も薄く、実際に指導する上司のストレスも大変なものである。根本的な解決のためには、社員からこうしたツッコミを受けないような体制を作るという視点が不可欠である。

「類は友を呼ぶ」「似たもの夫婦」「割れ鍋に綴じ蓋」……昔の人はよく言ったものである。問題社員を見かけたら、一呼吸おいて自社の状況を客観的に見直してみる必要があるかもしれない。ひょっとしたら、会社がそうした社員を作り出してしまっている可能性も考えられる。時間を守らない社員がいたら、それは会社自体がそういう体質である可能性があるという訳である。

労働契約法第3条第4項には次のように書かれている。
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。』
一番重要なのは主語の「労働者及び使用者」という部分だ。片方だけの努力では労働契約は成り立たない。労使双方がより良い職場づくりの為に力を合わせていきたいものである。


出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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