男性社員(当時19歳)が2010年に自殺したのは上司の暴言によるパワーハラスメント(パワハラ)が原因として男性の父親が会社と当時の上司2人に対し、慰謝料など約1億1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、「典型的なパワハラ」として、同社と直属の上司に対し約7200万円の支払いを命じた。
7200万円の損害賠償となった熱血指導とパワハラの境界線

パワハラとされた根拠とは

パワハラの根拠とされたのは、主に以下のような上司(当時20代後半)の発言のようだ。いくつか引用する。

・いつまでも甘い、学生気分はさっさと捨てろ
・人の指示もろくに聞けない、動けない
・注意されてもメモに残さない
・メモをノートに毎日書き写さない。書かないから忘れる
・また同じことで怒られる。これの繰り返し、毎日、毎日
・何もしないだけ、見ているだけ
・まかせられないだろ、ウソなんかつくやつに
・先輩が動いて自分は見ているだけ?
・自分を変えろ
・まず直してみれば? その腐った考え方を
・いろんな意味で直す、生き返らせる
・会社を辞めた方が皆のためになるんじゃないか
・辞めてしまえば? 辞めたくないとか言っているだけ
・そんなやつ辞めろ、死ね

いかがだろうか?
最後の一文は別として、率直に言えば、これらのことを言った覚えはないだろうか。

これ以外にも、より具体的な業務の指示・指導といえる言動も見受けられる。
もしかしたら、新人を鍛える気持ちもあったのだろうと思えなくもないし、実際そのような想いで厳しい言葉を投げかかる管理監督者、上司もいるだろう。



ではなぜ、この事件が「パワハラ」と認定されたのか?

この事件でいえば、上司が言うだけでなく「居残りさせて」反省文等を書かせていたことだ。その量、入社1年足らずの間にノート2冊分にもなるという。
つまり異常なまでの執拗さである。

そこに愛はない。

ここから教訓を学び、パワハラのない職場にするにはどうすればいいのか検討してみる。

2つの具体的視点「管理監督者教育」と「組織構造と就業環境整備」

視点としては「管理監督者教育」「組織構造と就業環境整備」があるだろう。

①管理監督者教育の視点
管理監督者、上司に対してパワハラの定義と実例を伝える。
管理監督者、上司はたとえ熱血指導のつもりでも、部下の受け取り方次第でパワハラになってしまうことを注意喚起する。
また、管理監督者同士で企業内勉強会を開催するのも有効だろう。
パワハラについては以下の項目を学ぶ必要があるだろう。
・パワハラの定義
・事例研究
・熱血指導とパワハラの境界線
・企業に与える金銭リスク
・社会的イメージの低下によって企業が受けるダメージ
・パワハラを予防するための組織構造


②組織構造と就業環境整備の視点
怒ることが常態化し、怒ることそのものが目的化している管理監督者・上司はパワハラとされる可能性が高い。
したがって、その傾向のある上司の傍らにサブリーダーとして怒りをなだめる役目の人員を配置したり、組織をチーム化して仕事を複数人で取り組ませたり(組織構造の整備)、カウンセリング窓口を設置したり(就業環境の整備)といった見直しだ。
あるいは外部機関に相談窓口機能を請け負ってもらうことも考えられる。

いずれにせよ、パワハラを双方向から監視し、客観的に意見できる体制を作ることだ。

世の中には、厳しい指導をするのが社風の会社もあるだろう。
いわゆる体育会系だ。
押しの強い管理監督者・上司にとっては「近頃の新人は根性がない。仕事一つまともに覚えようとしない。だから厳しく指導しなければならない。それがあいつらのためだ!」
なんて管理監督者・上司は多いのではないだろうか。

周りから見ればその厳しい指導が「ちょっとやりすぎじゃないか。」と思いながらも見て見ぬふりでいることは、一見差し障りがないように見える。
しかし、そのような就労環境で生産性が上がるとはとても思えない。
また、その管理監督者・上司にとってもパワハラと認定されることはとても不幸なことである。
被害にあっている部下については言うまでもない。

客観的に見てパワハラ問題が起こるリスクがある場合、先に挙げたような具体的な対策を提案していく勇気を持ちたい。

社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭

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