「社長、○○さんがまた無断欠勤です」
「なんだって? もう我慢できん。クビだ!」
「でも解雇ってなかなかできないんじゃ……」
人手不足の時代ではあるが、社会保険労務士には依然として解雇に関する相談が多く寄せられている。ところで、一口に“解雇”と言ってもいくつかに分類されるのをご存じだろうか。今回は、解雇の種類や相違点について解説する。
問題社員を解雇したいときに検討すべきは「普通解雇」か「懲戒解雇」か?

解雇に伴う「労働者の不利益」と「企業のリスク」を正しく理解しよう

分類方法はさまざまだが、東京労働局のリーフレット「しっかりマスター労働基準法-解雇編-「しっかりマスター労働基準法―解雇編―」の例によると、解雇には次の3種類がある。

(1)普通解雇
(2)懲戒解雇
(3)整理解雇


これらのうち、労働者本人に何らかの悪い点がある場合に検討されるのが「(1)普通解雇」、または「(2)懲戒解雇」である。さて、あなたが冒頭の社長の立場なら、この(1)と(2)のどちらを選ぶだろうか。その選択次第では、訴訟といった等思わぬ労務トラブルに発展する可能性もある。そうならないためにも、「普通解雇」と「懲戒解雇」それぞれについて正しく理解しておきたい。

まずはそこで、この2種類の違いや注意点などについて比較してみよう。実務上のポイントを簡潔に表に整理すると、概ね次のようにまとめられる。
問題社員を解雇したいときに検討すべきは「普通解雇」か「懲戒解雇」か?
表から読み取れる「普通解雇」と「懲戒解雇」の最も大きな違いは、「労働者が受ける不利益」と「企業側のリスク」の大きさである。上表の通り、懲戒解雇の方が解雇予告、退職金、基本手当(失業手当)、再就職活動において、労働者が受ける不利益は非常に大きい。不利益の大きさにしたがって当然抵抗も大きくなり、訴訟といった紛争リスクも高くなるというわけである。

さらに、普通解雇よりも懲戒解雇の方がより厳しくその正当性が問われるので、結果的に「不当解雇」と判断されてしまう可能性も少なくない。もしそのようになった場合、企業側のダメージは計り知れないといえよう。

なお、前述の「(3)整理解雇」についても少し触れておくと、「労働者に悪い点(帰責事由)がなく、100%会社の都合(経営不振など)で行われる」という部分が、他のふたつの解雇とは大きく異なる点である。このため、上表(I)の「解雇権濫用法理」についてより厳しくチェックされる。その主なチェック基準は次の4つである。

i)人員削減の必要性……経営上人員削減がやむを得ない状況であること
ii)解雇回避努力……退職勧奨、配転、出向、役員報酬のカットなど
iii)人選の合理性……合理的な人選基準が必要
iv)手続きの妥当性……事前の協議、説明、ヒアリングなど


コロナ禍の現在、この整理解雇も増えているというニュースを耳にする。やむを得ず整理解雇を検討する際には、これらi)~iv)のチェック基準を特に押さえておきたい。

間違えてはいけない「解雇の種類」の選択

さて、以上を踏まえて、改めて冒頭のケースを考えてみよう。はたしてあなたは「普通解雇」と「懲戒解雇」のどちらを選択するだろうか。理論上は、どちらを選択することも可能であるが……。一般的には勤怠不良のようなケースで解雇がやむを得ないとするならば、「普通解雇」が相応であると思われる。

実際に問題社員に対する解雇の相談を受けている中で、はじめから「解雇=懲戒解雇」のイメージを持っている方も多いと実感している。しかし、当該解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」の2種類があり(「整理解雇」は状況が異なるので今回は除外)、多くの場合は「普通解雇」が該当するということをぜひ理解しておこう。

「懲戒解雇」の出番があるとすれば、それは本当に余程のケースである。テレビドラマの『必殺仕事人』、『水戸黄門』、『半沢直樹』……などなど、我々は「勧善懲悪」のストーリーを好む傾向があり、悪い人を懲らしめたいという感情は自然なものだから理解もできる。しかし、労務の現場においては、一時的な感情に流されて誤った解雇の種類を選択しないように、ぜひとも心掛けたいものである。


出岡健太郎
出岡社会保険労務士事務所
http://izuoka.net/

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