会議において予定時間内に結論に至らなかったり、議論が本筋から逸れたりする課題を解決するためのカギが「ファシリテーション」だ。「ファシリテーション」は、集団での活動を円滑に進めるために舵取りをすることを意味する。特に会議においては、議論を円滑に進め、参加者の意見を引き出しながら結論まで導くための手法や技術のことを指す。本稿では、「ファシリテーション」の意味や目的、具体的な進め方、成功させるコツ、そして必要となるスキルまでをわかりやすく解説していく。
テーブルでディスカッションするビジネスチームのイラスト ミーティング、会議、ブレスト、議論、打ち合わせ

「ファシリテーション」とは

「ファシリテーション(facilitation)」とは、集団での活動や会議などにおいて、メンバー間の相互理解や合意形成を円滑に進めるように働きかける行為や技法のことを言う。単に会議の司会進行をするだけでなく、参加者一人ひとりの意見を引き出し、それらを整理しながら建設的な議論を促すことで、最終的な結論に効率的に導いていくための手法だ。英語の「facilitate(促進する、容易にする)」が語源で、参加者の相互作用を促し、成果を生み出しやすくする環境づくりを意味する。

●「ファシリテーター」とは

「ファシリテーター」とは、「ファシリテーション」を行う人を指す。中立的な立場を保ちながら参加者の発言を促し、質問を投げかけたり、議論が脱線しそうになった場合には軌道修正を行ったりすることで議論を促進し、参加者全員が主体的に関われるように働きかける役割だ。会議やワークショップの質は、「ファシリテーター」の力量に大きく左右されると言っても過言ではない。

「ファシリテーション」の目的と役割

「ファシリテーション」の本質的な目的は、「会議や話し合いを円滑に進めて目的達成や課題解決に導くこと」にある。そのためファシリテーターは、その役割として、「外面的プロセス」と「内面的プロセス」の両方に関わることになる。

・外面的プロセス
会議の段取りや時間配分、進行などの目的達成に向けた運営上のプロセス

・内面的プロセス
参加者の思考プロセスや、感情の動きや参加者間の関係性に基づいた心理的プロセス

会議を円滑に進めるには外面的プロセスが不可欠だが、成果や満足度の質を左右するのは内面的プロセスとなる。参加者の多様な考えや感情がぶつかり合い、変化することで新しいアイデアが生まれたり、合意形成が可能になったりするからだ。「ファシリテーター」はこの両方のプロセスに関わることで、相乗効果を生み出していくのである。

「ファシリテーション」のメリット

生産性向上が求められる中で「ファシリテーション」の重要度は増しているが、具体的にどのようなメリットがあるのか。解説していきたい。

●生産性の向上

議題から脱線したり、論点がずれたりするのは、会議においてよくあることだが、「ファシリテーション」が上手ければ、こうした問題を未然に防ぎ、効率よく結論に辿り着けるようになる。さらに、参加者全員が納得感を持って合意形成できるため、その後の実行力も向上しやすく、生産性向上につながる。

●時間の効率化

「ファシリテーション」によって、議題ごとの時間配分を明確にし、進行を管理することで、予定通りに会議を終えられるようになる。同じ議論を繰り返したり、結論を先送りしたりすることが減り、時間の効率化が図れるのだ。

●協調性の向上

全員の意見を尊重され、安心して発言できる環境を作れるのも「ファシリテーション」の大きなメリットだ。心理的安全性が高まることで、役職や年齢に関係なく活発な意見交換が行われ、相互理解が深まり、実際にアクションを起こす際にも一体感が生まれる。

●アイデアの促進

優れた「ファシリテーション」によって、普段は声に出されない斬新な発想や異なる視点が創出されるかもしれない。特に様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まる組織では、それぞれの専門知識や経験に基づいた革新的なアイデアが生まれやすくなる。

「ファシリテーション」の進め方

実際に「ファシリテーション」をどう進めていけば良いのかを、5つのステップで説明していく。

(1)目的・ゴールの明確化

「ファシリテーション」を始める際、まず着手すべきは会議の目的とゴールをはっきりさせることだ。「なぜこの会議をやるのか」、「何を達成するのか」を固めておくと、あとで議論が脇道に逸れにくくなり、参加者も同じ方向を向いて取り組むことができる。目的やゴールが曖昧なままだと、いつまでも終わらない会議になってしまう。

(2)環境づくり

参加者が本音で話せる場づくりには、最も気を配りたい。これには「空間の物理的デザイン」と「関係性を整える心理的デザイン」の二つのアプローチがある。物理的デザインは例えば、会議の目的によって席や机の配置を変えるなど、目に見える工夫で活発な議論を促すことだ。心理的デザインは、会議の冒頭でオリエンテーションを入れて参加者の緊張をほぐすことで積極的に発言できるようにすることなどが挙がる。安心して発言できる土台があってこそ、本音の議論が生まれるのだ。

(3)参加者の把握と対応

見落としてはいけないのが、参加者の特性を事前に把握することだ。参加者の考え方の傾向、役職、立場、関係性などを理解しておくことで、会議の進め方や準備すべき材料が明確になる。特に、上下関係のせいで発言しにくい参加者がいるような場合は、中立的な立場から「本音」を引き出す工夫が必要になる。会議の冒頭で自己紹介や雑談の時間を設けたり、参加者全員に発言の機会を与えたりすることで、参加者が主体的に参加できる環境を整えたい。

(4)会議の進行

会議を進める際のコツは、アジェンダに沿って時間管理をしながら、議論が本筋からずれないよう調整することだ。議題の時間とゴールを参加者に共有しておき、ダラダラと話し合いが続くのを防いでおきたい。発言が長すぎたり的を射ていなかったりする場合は、意見を要約し、他のメンバーにも意見を求めるよう調整すると良い。

(5)合意形成とまとめ

「ファシリテーション」の最終段階は、議論を収束させ合意形成を行うことだ。この段階では、出された意見を整理し、組織全体としての最適解に導いていく。ここで気を付けたいのは、ファシリテーター自身が結論を出さないことだ。参加者自らが納得して合意に至るように促すことが大切となる。この「腹落ち感」を生み出すことがファシリテーションの最大の目的であり、全員が納得した状態で会議を終えることで、その後の実行力も高まる。そして会議の最後には決定事項を確認し、誰が何をいつまでに実行するのかを明確にする。

「ファシリテーション」を成功させるコツ

「ファシリテーション」を成功させるには、いくつかのコツやポイントがある。それを紹介していく。

●必要な資料やツールを事前に準備する

効果的に「ファシリテーション」を進めるための第一歩は入念な事前準備にある。会議の目標と具体的なゴールを明確にしたら、アジェンダを作成し、議題ごとの時間配分を行い、これを参加者と事前共有することで、各自に期待される役割を理解してもらう。また、会議室や使用する備品の準備、オンライン会議の場合は接続URLの設定なども欠かせない。こうした下準備が会議中の混乱を防ぎ、円滑な進行につながる。

●様々な意見を尊重し、中立的な立場を保つ

「ファシリテーター」に求められるのが公平性だ。特定の意見に傾くことなく、様々な視点を受け入れ、耳を傾けるようにしたい。意見が対立した場合には、主張の共通点やギャップを見出し、妥協点を探る役割がある。中立的立場で様々な意見を尊重する姿勢があってこそ、参加者からの信頼が生まれ、活発な意見交換を促すことができる。

●論点を整理し、議論の焦点を絞る

会議では多くの意見が飛び交うことになるが、これを整理して内容をまとめ、また方向性を調整するのが「ファシリテーター」の腕の見せどころとなる。曖昧な発言には「つまり〜ということでしょうか」と本意を確認したり、付箋やホワイトボードなどを活用して議論を可視化したりすれば、全員が同じ視点を持つことができ、議論の迷走を防ぐことができる。

●議論が続かない場合は引き出す

会議で沈黙が続かないようにするには、発言しやすい雰囲気作りが重要だ。事前に発言してくれる人に協力を仰ぎ、会議中に意見を求めることで流れを作るのも有効だ。または、ブレインストーミングを取り入れて、一度参加者の考えを引き出す時間を作るのも良いだろう。

●発言が偏らないようにする

会議では特定の人ばかりが発言してしまう状況に陥りがちだが、そうした時には、発言の少ない人に「〇〇さんはこの件についてどうお考えですか?」と優しく問いかけることで、多様な視点の意見を引き出せる。全員が順番に意見を述べる方式を取り入れるのも、発言が偏らないようにするためには効果的だ。

●時間配分を適切に行う

限られた時間を最大限に活用するために、事前に各議題の持ち時間を設定し、それを守るように努めたい。議論が白熱した際は「あと数分でまとめに入りたいと思います」と伝えることで、時間をコントロールしやすくなる。

●発言者の意図を正確に捉え、記録する

発言者の真意を捉え、必要に応じて言い換えや要約を行うのも「ファシリテーション」の技術の一つだ。例えば、「今おっしゃったのは〜という意味でしょうか」と確認することで、誤解を防ぎ、参加者に共通理解を持ってもらうことができる。また、会議の内容を記録し、会議後には議事録を共有するようにしたい。そうすることで、全員が行動につなげやすくなる。

「ファシリテーション」に必要なスキル

「ファシリテーション」には様々なスキルが求められる。中でも重要な5つのスキルを紹介していきたい。

●理解力

「ファシリテーション」には、言葉の奥にある本意を読み取る理解力が欠かせない。参加者の発言から核心を掴み、時に言い換えることで議論の橋渡しをする。さらに言葉だけでなく、表情やしぐさなどの非言語コミュニケーションから参加者の心理状態を察知することも、場の空気づくりには求められる。

●質問力

質問力は「ファシリテーション」の核となるスキルと言える。「それはどういう意味ですか?」と掘り下げる質問で曖昧な意見を具体化したり、「他にどんな可能性がありますか?」という質問で参加者の視野を広げたりする。あるいは、沈黙が続いた場合には「具体例を挙げるとしたら?」と糸口を探り、議論が熱くなれば「優先すべき点は?」と焦点を絞る。場面に応じた質問力が、参加者のアイデアや意見を最大限に引き出すことにつながる。

●ロジカルシンキング

「ファシリテーション」におけるロジカルシンキングは、主に議論を整理し、筋道立てて進める力を指す。議論の流れを論理的に構成し、意見を構造化しながら会議を進行させることで、論点が明確になり、参加者が同じ認識を持って議論を進めることができる。

●合意形成スキル

合意形成スキルは、異なる意見をまとめ上げ、全員が納得できる着地点を見出す技術だ。様々な視点を尊重し、対立する意見から共通点や価値ある部分を抽出し、妥協点を探っていく。全員の意見を可視化し、優先順位をつけることも、ひとつの合意形成に向けた技術と言えるだろう。

●コミュニケーションスキル

「ファシリテーション」の土台となるのが、コミュニケーションスキルである。意見に真摯に耳を傾け、相づちを打つことで、発言者の安心感が生むだけでなく、曖昧な意見を噛み砕いて説明したり、議論の要点を簡潔にまとめたりする言語能力も求められる。さらに、緊張した場面で、適度な笑顔や冗談を交えるユーモアも交えれば、参加者の発言のハードルを下げることができ、本音を引き出しやすくなる。

まとめ

「ファシリテーション」は単に会議を進行するだけでなく、組織の知恵を最大化する手法と言える。メンバーのアイデアを引き出し、建設的な対話を促すことで、よりイノベーティブな話し合いが行われる。「ファシリテーション」の能力を社員に身につけさせることは、企業の生産性が高まることにつながるだけでなく、心理的安全性の高い職場づくりにもつながっていくのである。実践の場を意図的に作り、社員が「ファシリテーション」の経験値を高める施策を検討してほしい。



よくある質問

●「ファシリテートする」とはどういう意味?

「ファシリテートする」とは、会議や議論などの場で、目的達成に向けて対話をスムーズに進行させることだ。中立的な立場から議論を整理し、参加者の意見を引き出しながら合意形成まで導いていく。
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