ビジネスを行う上で必要な「スキル」は幅広い。役職やキャリア、職種によって求められるものが異なるが、体系的に理解している人は多くないのではないだろうか。そこで本稿では、そもそも「スキル」とは具体的にどういったものなのか、「ビジネススキル」の基本的な分類例やタイプ別のスキルなどを詳細に解説していきたい。
「スキル」とは? 役職・キャリア・職種別の必要な「ビジネススキル」や分類を解説

「スキル」の意味と定義

まずは、「スキル」や「ビジネススキル」の定義や種類から説明していこう。

●「スキル」とは? 「ビジネススキル」とは?

「スキル」とは、教養や訓練を通して獲得した能力のことを言う。生まれ持った才能とは異なり、努力によって習得できる後天的な技能だ。

「ビジネススキル」とは、仕事を行うために欠かせない知識や技術、能力全般を指す。ビジネスマナーやコミュニケーションスキルなど、社会人として基本的なスキルもあれば、経営者やマネジメント職に必要な意思決定力など、その種類は多岐に渡っている。誰しもが、学びや体験を積むことで身に付けることができ、努力することで高められるのが特徴だ。しかも、しっかりと習得し、業務に応用して役立てることができれば、業界や業種、職種に拘りなく活用できる。ビジネスパースンとしての活躍の場が大きく広がり、キャリアアップにも有効だ。

●「知識」や「能力」など近しい言葉との違い

「スキル」と他の関連用語には、以下のような違いがある。

・スキルと知識
「知識」は特定分野の情報を持っているだけの状態を言う。一方、「スキル」は、その知識を実際の行動に移せる実践的な力を意味する。

・スキルと能力
「能力」は生まれつき備わった才能を指すのに対し、「スキル」は努力や経験を通じて後天的に獲得できる力を言う。

・スキルと技能
「技能」は特定の作業を行うための限定的な力を指す。これに対して「スキル」は、人の行動全般に関わる、より広い範囲の力を示している。

・スキルと技術
「技術」は特定の内容を処理する方法や技を指し、スキルを習得するための前提となる。「スキル」と「技術」は関連し、両者を同時に向上させることが重要となる。

●「ビジネススキル」を学ぶメリット

「ビジネススキル」を学ぶことで、業務の効率性と生産性が向上し、日々の仕事がスムーズに進むようになる。それだけでなく、昇進や昇格の機会が増え、給与アップにもつながり、また転職や独立など、将来の選択肢も広がる。

一方で企業のメリットとしては、従業員のスキル向上により、組織全体の生産性が向上し、競争力が高まる。特に、コミュニケーション能力に優れる社員は、業務遂行や組織運営を円滑にし、組織全体の効率を高めてくれる。

社会・ビジネス環境が急速に変化する中、ビジネススキルの重要性は今後さらに増していくであろう。継続的なスキル向上は、個人と組織の持続的な成長を支える重要な要素となっている。

カッツ理論(カッツモデル)における「ビジネススキル」の種類

「ビジネススキル」にはどんな種類があるのかも見てみよう。最初に、職位によってスキルを分類分けした「カッツ理論(カッツモデル)」について取り上げてみたい。次に、その理論を基とした3つのスキルについて個別に紹介していく。

・カッツ理論(カッツモデル)
「カッツ理論(カッツモデル)」とは、1955年に米国の経営学者であるロバート・リー・カッツ氏が提唱した理論だ。役職に合わせて必要となるスキルを「ヒューマンスキル(対人関係能力)」、「テクニカルスキル(業務遂行能力)」、「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」という3つに分類している。

●ヒューマンスキル(対人関係能力)

「ヒューマンスキル」とは、上司や部下、取引先、顧客などとの人間関係を円滑にするために必要となるスキルを指す。例えば、ビジネスマナーやコミュニケーションスキルなどがある。これらのスキルが備わっていると、信頼関係や協力関係を築きやすく、クライアントとの交渉もスムーズとなる。中でも、コミュニケーションスキルはヒューマンスキルの土台となる重要なスキルと言える。

ヒューマンスキルの例
・ビジネスマナー
・コミュニケーションスキル
・ヒアリングスキル
・ネゴシエーションスキル
・プレゼンテーションスキル
・リーダーシップスキル
・コーチングスキル
・ファシリテーションスキル
・目標設定スキル
・ヒアリングスキル
・フィードバックスキル
・向上心


●テクニカルスキル(業務遂行能力)

「テクニカルスキル」とは、業務を遂行する上で求められる基本的な知識や技術、習熟度をいう。また、このスキルは「汎用スキル」と「専門スキル」、「特化スキル」の3つに大別できる。

「汎用スキル」とは、社会人ならば当然身につけておくべきスキルを指す。業種や業態などには一切関係なく、どの仕事でも活かすことができる。例えば、情報収集スキルや資料作成スキルなどだ。また、「専門スキル」とは特定の職種・職位において求められる専門的な技術を意味する。具体的には、プログラミングスキル、マネージメントスキルなどが当てはまる。「特化スキル」は、専門スキルを大きく上回る高度なスキルや技術を指す。ロバート・リー・カッツ氏は、テクニカルスキルを特に管理職が習得すべき「ビジネススキル」であると指摘している。

テクニカルスキルの例
・情報収集スキル
・資料作成スキル
・PCスキル
・文書作成スキル
・分析スキル
・スケジュール管理スキル
・語学力プログラミングスキル
・マネージメントスキル

●コンセプチュアルスキル(概念化能力)

コンセプチュアルスキルとは、状況分析や情報分析を行いながら物事の本質を見極めるために必要なスキルを指す。大局的に課題をリストアップし、共通項を見出すといったビジネス課題を解決するには、絶対に欠かせないスキルである。代表的なコンセプチュアルスキルには、ロジカルシンキング(論理的思考)、クリティカルシンキング(批判的思考)、問題解決力などがある。特に、問題解決力はすべての社会人にとって必須となる重要なスキルだ。

コンセプチュアルスキルの例
・ロジカルシンキング(論理的思考)
・クリティカルシンキング(批判的思考)
・ラテラルシンキング(水平思考)
・問題解決力
・先見性
・多面的視野
・俯瞰力
・柔軟性
・受容性
・チャレンジ精神
・探求心
・知的好奇心


ビジネスで必要とされる「スキル」一覧

次に、役職別やキャリア別、職種別に必要となる「ビジネススキル」を整理して紹介しよう。

●役職別の必要スキル

前章で説明したカッツ理論(カッツモデル)では、役職を以下の3つに階層化し、それぞれで求められる「ビジネススキル」のバランスが変わってくると指摘している。

・ロワーマネージメント(監督者層)

ロワーマネージメントとは、係長や主任・グループリーダーなど現場で指揮をとる監督者層を意味する。この層で不可欠となるのは、組織の指示や方針に則り実行していける能力だ。なので、最も比重が大きいのはテクニカルスキルである。一方、高度なコンセプチュアルスキルが求められる機会は多くないと言っていいだろう。

・ミドルマネージメント(中間管理職)

ミドルマネージメントは、部長や課長などの中間管理職を指す。部署のメンバーに組織の目標や方針を伝達し、モチベーションや生産性の維持・向上に励むと同時に経営者層への橋渡し役も担うポジションだ。それだけに、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つがバランス良く求められる。

・トップマネージメント(経営者層)

トップマネージメントには、CEOや取締役、執行役員などの経営者層が当てはまる。立場的に経営方針や経営施策の策定に関わるだけに、的確な判断が問われる。そのため、かなり高度なコンセプチュアルスキルが必要となってくる。

●キャリア別の必要スキル

キャリア別でも必要となる「ビジネススキル」は変わってくる。

・新入社員

まず、新入社員の場合には社会人の基本となるビジネスマナーやコミュニケーションスキルを習得することが重要となる。特にコミュニケーションスキルは、業務連絡をしたり、質問をしたりする際に不可欠だ。

・若手社員

若手社員であれば、情報を効率的に収集するスキルであったり、自分の意見や収集した情報を相手にしっかりと伝えることができるプレゼンテーションスキルであったりが求められる。

・中堅社員

中堅社員になるとチームリーダー的な役割を担う場合が多い。なので、メンバーを取りまとめるマネージメントスキルやさまざまな考えを集約しながら、より上質な企画を提案するスキルも必要となってくる。

●職種別の必要スキル

次に職種ごとに必要となる「ビジネススキル」を見ていこう。

・営業

営業職には、顧客との信頼関係構築が不可欠だ。そのため、コミュニケーション能力を基盤として、顧客のニーズを的確に把握し、最適な商品やサービスを提案する力が求められる。また、プレゼンテーション能力や情報収集能力を活かして顧客の課題解決に導く必要がある。

・人事

人事職は、組織の要として全社員との良好な関係を構築する必要があるため、ビジネスマナーとコミュニケーション能力が軸となる。また、現場の課題を的確に把握し、迅速な改善策を提案できる課題解決能力も求められる。さらに組織全体のマネジメント能力、社員の育成から評価まで、幅広い視点での判断力も期待される。

・エンジニア

エンジニアは、専門的な技術力が基本となる。プログラミング言語の理解や開発技術、サーバーやソフトウェアの知識など、職種に応じた専門スキルだ。さらに、プロジェクト管理能力やコミュニケーション能力も重要で、チームでの開発を円滑に進める力も求められる。技術の進化に対応する継続的な学習姿勢も不可欠と言える。

・デザイナー

デザイナーには、確かなデザイン力とツールの操作技術が必要となる。加えて、顧客の要望を理解し、最適なデザインを提案するための企画立案能力とプレゼンテーション能力が重要となる。

・マーケター

マーケターには、マーケティングの基礎知識、データ分析力と創造的な企画立案能力が求められる。市場動向や消費者ニーズを的確に捉え、効果的なマーケティング戦略を立案していく必要がある。

さらに体系化して「ビジネススキル」を解説

ここでは、「ビジネススキル」の体系化してまとめた。以下の4つに分類して説明していこう。

●思考スキル

思考スキルは、すべての「ビジネススキル」のベースとなる重要なスキルである。他のどれよりも優先的に身につけなければいけないものと言える。具体例としては、以下の5つのスキルが挙げられる。

・論点思考(イシュー思考)
物事を考えるにあたり、何を考えるべきかを的確に見極める力。

・クリティカルシンキング
論点が適切かどうかをさまざまな角度から考え、新たな側面・可能性を見出していく力。

・ロジカルシンキング
論理的思考法のフレームワークを用いて、物事を筋道立てて考え根本原因を見極める力。

・抽象化思考
限定された範囲だけでなく周囲の広い範囲も含め、物事を柔軟に捉え直す力。

・アナロジー思考
自分が持ち合わせている経験や知識を異なる分野に応用できる能力。

●実務スキル

実務スキルとは、実務をスムーズに進めるためのスキルとなる。具体例としては、以下の5つのスキルが挙げられる。

・情報収集スキル
限定された時間の中で、判断に必要な情報を収集・整理するスキル。

・分析スキル
さまざまな情報やデータを調査・洞察し、物事の構成や関係性を解き明かしていくスキル。

・資料作成スキル
立案した企画の魅力やポイントを周囲に理解してもらえるよう資料を作り込んでいくスキル。

・コミュニケーションスキル
相手が聞きたい、知りたい内容を伝え、お互いに共通した認識を作り上げるスキル。

・プレゼンテーションスキル
相手に提案した内容を理解してもらい、行動を喚起していくスキル。理解だけに終わってしまうのは不十分となる。

●プロフェッショナルスキル

プロフェッショナルスキルとは、より高度なレベルで物事を見極めるスキルや周囲を巻き込みながら物事を進めていけるスキルを意味する。先に取り上げた思考スキルと実務スキルを掛け合わせた総合的なスキルと言える。プロフェッショナルスキルを身につけることができれば、チームを率いて高いパフォーマンスを収められる。具体例としては、以下の5つのスキルが挙げられる。

・戦略策定スキル
環境の変化やライバル企業の動き、自社の強み・弱みをトータルに考慮した上で、より高い成果を挙げるための方針を打ち出していくスキル。

・問題解決スキル
ビジネス上で次々と起こり得る、さまざまな問題を迅速かつ的確に解決していくスキル。特に、自らが設定した理想やビジョンの実現に向けて現状とのギャップを明確に把握する設定型の問題解決スキルは重要となる。

・ファシリテーションスキル
会議やミーティングを円滑に進行し、参加者の意見を引き出して議論を活発化させるスキル。前例に捉われない創造的なイノベーションや組織変革を起こしていくために、各人が持つ固定観念を打破するよう働きかけていく。

・プロジェクトマネージメントスキル
多様なメンバーを取りまとめ、プロジェクトを前進させ、確かな成果を導いていくスキル。

・リーダーシップ
仲間を激励したり、支援したりしながらチームの現状をより良い方向へと変えていくスキル。管理職だけでなく、メンバーにも求められる。

●専門スキル

最後に専門スキルを取り上げたい。企業や組織によって異なってくるものの、ここでは以下の6つのスキルを挙げておこう。

・ビジネスモデル構築
顧客に価値を提供し、企業に収益を生み出す事業モデルを構築するスキル。

・経営戦略策定
競争環境の中で企業が目的と目標を達成するための指針と計画を策定するスキル。

・会計・財務
企業の収支情報や会計情報を管理・活用するスキル。

・組織行動・人材マネジメント
組織において的確な行動や、その働きかけをするスキル。または戦略的に人材を配置したり、能力を引き出したりするシステムを作るスキル。

・マーケティング
事業や商品が効率的に売れる仕組みを作るスキル。

・IT・オペレーションズ
ITを活用して、システムの円滑化を図ったり、運用・管理したりするスキル。

スキルアップのポイント

スキルアップを効果的に進めるには、まず目的を明確にする必要がある。昇進や昇給、転職など具体的な目標を定めることで、必要なスキルが明確になるからだ。上司や同僚など、目標となる人物を見つけるのもモチベーション維持のため有効となる。特にコミュニケーションスキルなど、対人スキルの向上には、高いスキルを持つ人の行動を観察して真似することが効果的と言える。

また、自分に合った学習方法を選択したい。独学なのか、あるいはスクール通学やオンライン学習など、自分のペースや学習スタイルに合った方法を選ぶことで、継続的に学習することができる。

スキルアップをする方法

具体的なスキルアップ方法としては、まず資格試験の受験が挙げられる。資格試験に向けた学習を通じて体系的に知識を習得でき、取得後は客観的なスキルの証明にもなる。

社会人向けのスクールを活用したり、セミナーや勉強会に参加したりするのも良いだろう。パソコン、語学、会計など、専門的な指導を受けられる環境で効率的にスキルを磨けるうえ、新しい知識の習得だけでなく、人脈を形成することもできる。

また、副業を通じたスキルアップも選択肢の一つと言える。実践的なスキルを身につけながら、将来の転職や独立に向けた経験を積むことができる。

まとめ

「ビジネススキル」は、ビジネスパーソンにとって不可欠で、すべての礎、基盤となる能力・技術である。パソコンで言うところのOS(オペレーティングシステム)だ。ただ、「ビジネススキル」と一口にいっても、その種類は数多い。役職やキャリアによって求められるスキルが変わってくることを認識しておかなければいけない。

また、「ビジネススキル」は一度習得すればそれでいいわけではない。成長や昇進に伴い業務内容も変わり、求められる知識や技術も変わってくるからだ。キャリアの階段を一段ずつ上がっていくためにも、次はどんなビジネススキルが求められるのかを模索する姿勢が重要となる。そうした取り組みが必要だと社員や部下に説き続けていくことが、人事担当者やマネジメント層には欠かせないと言えるだろう。

よくある質問

●「スキル」を言い換えると何?

「スキル」は文脈やシーンによって、以下の言葉に言い換えることができる。

・技能
・技術
・技量
・手腕
・能力
・実力
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