■主旨と内容

平成18年4 月に高年齢者雇用安定法が改正され,「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」または「定年の定めの廃止」により,65歳までの雇用の確保が事業主に義務づけられました。
 一定の規模以下の中小企業にとっては,経営を圧迫しかねないことから特例措置(対象者の基準を労使協定で定められない場合は就業規則で定めることができる)が講じられてきましたが,平成23年4月より例外なく,労使協定の締結が必要になりました。
高年齢者雇用安定法は,急速な少子高齢化が進む中で,①定年に達した労働者にも引き続き社会で貢献する支え手として活躍できる場を設けること,②老齢年金の支給開始年齢の段階的な引き上げに伴って,年金支給開始までの高齢者の就業の場を確保すること,を目的として改正が行われました。

 多くの企業ではコスト高を避けるため,「継続雇用制度の導入」を選択し,実施しています。継続雇用制度は,原則として希望者全員を対象とする制度の導入が求められています。ただし,各企業の実態を配慮して継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準を労使協定で定めることによって,希望者全員ではなく一定条件を設けることが認められています。

 しかし,この制度では多くのトラブルが発生しています。労使協定の締結では従業員側と会社側の意向には大きな隔たりが存在します。会社側はコストを抑えるために基準を厳しくしたい反面,従業員側はできるだけ無条件での継続雇用を求めます。

 そのようなタイミングで,平成23年10月,厚生労働省の年金制度改革案が報道され騒ぎになりました。60歳以上の就労意欲を高めるために在職老齢年金の減額幅を圧縮し受給額を増やす案が1つ。もう1 つは年金支給開始年齢を68歳~70歳に引き上げる改革案。どちらも労使の反対が強く実現は難しそうですが,人口構成や財政状況を勘案すると,遠くない時期に変革せざるをえないでしょう。

 ここはプラスに考えて,既に制定している再雇用規定をより洗練させていく絶好のタイミングとしたいものです。

 考え方の1 つは65歳を超えたさらなる雇用延長をする代わりにより再雇用の条件を厳格にしていく方向性があります。もう1つは入口を緩和してその後の対応策で組織の活性化を求めていく方向性です。平成23年より例外なく労使協定によって継続雇用基準を定める必要があることを受けて,ここでは希望者全員を継続雇用の対象者とする方向性で検証します。つまり希望者に機会を与え,成果を出す高齢者を長期雇用する仕組みを構築します。

■検討内容

高年齢者雇用安定法が義務づけているのは,継続雇用制度の導入であって,定年退職時の労働条件や職務内容の維持ではありません。従って,新たな合理的な労働条件を提示して再雇用契約の交渉をしていくことに注力します。ポイントは事業主の合理的な裁量の範囲で条件を提示し,結果として再雇用が成立しなくても問題とはならないところです。

 そして60歳以降も人事評価を実施し,更新時期に改めて新しい労働条件を評価に応じて提示することにします。

 さらに65歳までの雇用義務を果たした後も本人の評価と健康状態および本人の希望と会社の提示する条件が合致した際には70歳までの雇用を可能にします。

・再雇用者の対象者の基準
再雇用の希望者全員と規定

・再雇用者の労働条件
会社側が提示する労働条件で検討することを規定

・賃金等の改定
更新時には評価等によって賃金や職務内容の契約条件が上下する
ことも予め規定に盛り込みます。

・更新の条件
更新しない場合の条件も定め,緊張感のある環境を整備します。

・出向
今後組織の改編や分化が起こった場合にも対応できるよう,配置
転換や出向の定めもしておきます(規定に記載がないともめる)。

・65歳超70歳までの特別再雇用
ここは現在義務化されていませんが,一足早く積極的な高年齢雇用にトライしたいものです。そして特別再雇用の基準を以下の要素や貢献度をもとに規定化します。厚生労働省が実施した企業への調査結果(再雇用の基準)によると,①働く意思・意欲,②勤務態度,③健康,④能力・経験,⑤技能伝承,その他が報告されています。

・契約の更新の有無の手続き
再雇用や特別再雇用のための説明会,面談の時期なども明記。

・評価の仕組み
年齢に関係なく適正に評価を行う必要があります。現状では60歳超の再雇用者を評価するための人事評価制度が整っている組織は少ない状況です。しかし,これからは定年後も働きぶりを評価し,モチベーションを刺激して活性化を図るようにします。

・継続雇用の形態(省略)
働き方はできるだけ柔軟に選択できることが重要です。

・契約の終了について(省略)
本人からの契約の終了の手続きも必要です。

雇用延長規定(65歳超の再雇用規定)

第1 条(目的)この規定は社員の長期的活躍を前提とした定年退職者の再雇用に関する事項を規定する。

第2 条(定義)再雇用とは,定年時にいったん退職し,雇用関係を打ち切った後,改めて嘱託として雇用することをいう。

第3 条(再雇用適用範囲)この規定は,再雇用を希望する健康な社員全員とする。※直近の健康診断で産業医が勤務可能と判定すること。

第4 条(再雇用の期間)再雇用者との契約は,契約期間1年以内の有期労働契約とする。ただし,その労働契約が満了する際に,次期契約条件に合意のうえ本人が希望し,かつ会社が適用除外の要件に該当しないと認めた時は,65歳に達する日を限度として契約を更新する。

第5 条(特別再雇用の期間)特別再雇用する者との契約は,契約期間1 年以内の有期労働契約とする。特別再雇用契約の期間は70歳に達した日を限度とする。

第6 条(特別再雇用の条件)特別再雇用の条件は再雇用期間中に高い評価を得て,事業にある一定以上の貢献を果たした等の者のなかから本人が希望する者とする。
①直近の健康診断で産業医が勤務可能と判定すること。
②過去2 年間の出勤率が90%以上の者。
③再雇用期間中の評価がA評価以上を満たす者。
④特殊技能および業務に必要な技能資格を有する者。

第7 条(職種および勤務地)再雇用者・特別再雇用者の職種,勤務地および労働形態は,職歴,能力,本人の希望などを総合的に勘案し,会社が決定する。
2 前項の職種および勤務地は,会社の方針等,経営環境の変化などにより変更することがある。
3 会社の都合により出向を命じることもあり,嘱託者はその命に応じなければならない。

第8 条(評価等による労働条件)再雇用および特別再雇用する者の賃金の額,計算,支払,および昇給降給に関する事項は,各人の勤務内容と本人の経験等を勘案し個別に労働契約書に定めるものとする。
2 再雇用および特別再雇用する者の更新時の条件は前年度の評価等により決定するものであり,昇給および降給の改定を行う場合がある。
3 再雇用後の勤務について賞与および退職金は支給しない。
4 始業・終業時刻,休憩,休日,休暇に関する事項は,各人ごとに労働契約書に定めるものとする。
5 定年前に賦与された年次有給休暇の日数のうち未消化の日数は,法定の事項により消滅するものを除き,再雇用の際に持ち越すことができる。
6 福利厚生施設や慶弔見舞金については,正社員に準じて適用する。
7 社会保険等への加入は,週の所定労働時間等各人の労働条件を法定の基準に照らし判断する。

第9 条(再雇用,特別再雇用の手続き)各手続きは次の通りとする。
①事前説明会を実施(3年以内に定年を迎える者を対象とする)する。
②個別面接(定年1 年前に所属長との個別面談により希望を聴取)を行う。
③再雇用希望者には個別に再雇用の労働条件を提示し,合意の場合は再雇用の労働契約を締結する。
④特別再雇用については64歳に達した時点で対象者には通知し,その後嘱託社員と会社は協議の上,特別再雇用の有無と条件について決定する。

第10条(再雇用前のリフレッシュ休暇)定年後再雇用までに2 週間の有給のリフレッシュ休暇を付与し,嘱託社員への意識改革を行うものとする。
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