前回は、賃金全額払いの原則と絡めて、「給与からの天引き」について解説しました。3回シリーズの第2回目は、「社会保険料の控除」についてお話しします。給与からの天引きの中で、項目的にも金額的にも大きな割合を占めている「社会保険料」。本稿ではこの社会保険料について、保険料の計算方法や、天引きのタイミングにまつわる注意点などを解説していきます。

各保険料の算出方法と「天引きのタイミング」における注意点/会社が給与から天引きするお金の話(第2回)

(1)労災保険料

「労災保険」は、正式には「労働者災害補償保険」といい、労働者の業務中および通勤時の災害による傷病等に対して、国から給付が行われる保険です。

労災保険料は、全額を事業主が負担することが定められており、労働者の負担はありません。そのため、給与明細に「労災保険料」は控除されていないはずです。

(2)雇用保険料

「雇用保険」は、労働者の失業や育児休業、介護休業などに対し、失業時の所得補償、雇用の継続などのために国から給付が行われる保険です。

雇用保険料について、ここ数年はほとんど変化がありませんでしたが、コロナ禍に休業時の所得補償のために行われた「雇用調整助成金の特例」によって支給額が増大し、2022年度(令和4年度)から段階的に引き上げられました。その結果、2023年度(令和5年度)の雇用保険料率は、一般の事業で1.55%となっています。このほか、農林水産・清酒製造の事業は1.75%、建設の事業は1.85%と、雇用保険料率は3種類に分けられているため、各事業区分に合わせた雇用保険料を用いるようにしましょう。

また、雇用保険では労使それぞれの負担割合が決まっています。2023年度の労使の負担割合については、一般の事業が1.55%(労働者0.6%、事業主0.95%)、農林水産・清酒製造の事業が1.75%(労働者0.7%、事業主1.05%)、建設の事業が1.85%(労働者0.7%、事業主1.15%)です。この具体例として、一般の事業の場合、月額の総支給額30万円の社員からは、「30万円×0.6%=1,800円」を控除することになります。

雇用保険料の控除において注意すべきは、「総支給額」が保険料計算の基礎になる点です。総支給額には、基本給だけでなく諸手当や通勤手当も含まれます。また、給与を支給する度に、毎度算出して控除する必要があります。残業代などの増減によって月ごとに総支給額が変化する場合もありますので、それに合わせて雇用保険料の控除額も変化することになります。

(3)健康保険料

「健康保険」は、業務外の疾病などの保険事故に対し、国から給付が行われる保険です。

健康保険料は、各社員の「標準報酬月額」を決定し、その標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。この「標準報酬月額」を用いることが健康保険料の特徴で、例えば中小企業が主に加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)では、報酬月額が29万円~31万円の社員の場合、標準報酬月額は30万円となっています。

協会けんぽでは、都道府県ごとに保険料率に違いがあり、例えば兵庫県では保険料率が10.17%(2023年度)となっています。標準報酬月額の10.17%を労使で折半することになるため、兵庫県の事業所で働いている標準報酬月額30万円の社員であれば、健康保険料は、「30万円×10.17%÷2=15,255円」となり、この金額を毎月の給与から控除します。

なお、協会けんぽではなく、健康保険組合(組合健保)に加入している事業所の場合、組合健保ごとに保険料率に違いがありますが、保険料の算出の仕方は協会けんぽと同様です。

このように、健康保険料は社員本人の標準報酬月額に基づいて決定されるため、被扶養者の数によって保険料が増減することはありません。また、雇用保険料と違うところは、保険料が原則1年間は一律である点です。「雇用保険料」は給与支給の度に算出する必要がありますが、「健康保険料」は標準報酬月額に基づいて向こう1年間の保険料が自動的に決定する仕組みとなっています。

(4)介護保険料

「介護保険」は、要介護者に必要な介護サービス等を行うための保険で、40歳から64歳の労働者等が加入します。

そのため会社は、40歳に達した社員から介護保険料を控除していく必要があります。例えば、給与が月末締め翌月20日払いの会社で、誕生日が8月4日の社員の場合、40歳の誕生日を迎える8月分から介護保険料がかかってきますので、9月20日支給の給与から控除することになります。一方で、8月に65歳に達する社員の場合には、7月分までが控除の対象となり、8月20日支給の給与が最後の控除となります。

介護保険料は健康保険料と同じく、標準報酬月額に応じて保険料が決定され、労使で折半します。協会けんぽに加入する兵庫県の企業の場合、2023年度の介護保険料率は1.82%であるため、前述のような標準報酬月額30万円の社員については、「30万円×1.82%÷2=2,730円」を毎月の給与から控除することになります。

介護保険料は40歳から控除されるため、社員から「急に手取りが減った」などの質問がくることもあります。そのため、給与明細書などに「40歳に達したため、今月から介護保険料の控除が始まります」といったメッセージを添えることで、トラブルや不用なやりとりを防ぐことができるでしょう。

(5)厚生年金保険料

「厚生年金保険」は、労働者の老齢・障害・死亡に対し、国民年金に上乗せして国から支給される保険です。

厚生年金保険料は、健康保険料と同じく標準報酬月額に応じて決定されます。2023年度現在、厚生年金保険料率は18.3%となっており、これを労使折半で負担します。そのため、標準報酬月額30万円の社員の場合、「30万円×18.3%÷2=27,450円」を毎月の給与から控除することになります。

入社・退社と各保険料控除のタイミング

雇用保険料の算出のタイミングは「給与支払いの都度」と説明しましたが、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料は、その月の給与から控除できるのは前月分の保険料となっています(ただし退職月に限っては、前月分と当月分も認められています)。

上記を踏まえると、例えば、給与が「15日締め当月末日払い」の会社に「8月10日」に入社した「45歳社員」の場合、各保険料は8月分から発生します。各保険料のうち、雇用保険料は8月31日支給分から控除します。その他の健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料は、8月31日支給分からは控除できず、控除のスタートは9月31日支給分からとなります。

一方で退職の場合には、その月の給与からは、前月分と当月分を合わせて控除できます。つまり、前述の例に合わせて「8月10日に退職した社員」で考えると、最後の8月31日支給分の給与から7月分と8月分の保険料を控除します。特に退職月については、2か月分の保険料を控除するケースもあるため、会社としてはルールに基づいて計算しているにもかかわらず、労使間のトラブルになってしまう可能性もあります。このようなトラブルを防ぐため、退職する社員に対してはしっかりと控除の仕組みを説明することが大切です。
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