人事の世界において「幸福経営学」が注目を集めている。これは目先の幸せを指すHappinessではなく、長期な幸せを指す「Well-being」という言葉に根差し、企業と働き手の両方にとっての「幸せな経営」を考えるものだ。本講演では幸福学、幸福経営学の第一人者である慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏に、幸福経営学の基本と現代の日本企業が抱える問題についてお話しいただいた。
社員の「幸せの4つの因子」を満たし、パフォーマンスにつなげる「Well-being経営」とは
前野 隆司 氏
講師:

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野 隆司 氏

1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。著書に、『ウェルビーイング』(2022年)、『幸せな職場の経営学』(2019年)、『幸福学×経営学』(2018年)、『幸せのメカニズム』(2013年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科

「Well-being」は企業や社員に何をもたらすのか

私は幸せの研究、幸福学、幸福経営学の研究をしております。今日は「企業と働き手がともに“幸せ”になるためには?〜科学的な分析に基づくWell-beingの高め方〜」というテーマでお話を進めてまいります。

まず、皆さんは「幸せ」を英語で何と言いますか? 多くの方が「幸せ」=「Happiness」だとお考えになるでしょう。しかし、実はHappinessという言葉の意味は狭く、「感情としての幸せ」に限られています。つまり、美味しいものを食べて「幸せだなぁ」と感じる数分間など、短時間の心の状態を示す言葉なのです。しかし人生には、もっと長い期間を振り返ってしみじみと幸福感を抱く瞬間もあるわけで、その感情を表す言葉として日本でも近年よく使われるようになったのが「Well-being」です。

Well-beingを辞書で調べてみると、「健康」、「幸せ」、「福祉」と記されています。「幸せ」だけでなく、「健康」や「福祉」までひとつの単語で表すことを意外に感じる方がいらっしゃると思います。Well-beingはWell=「良い」とbeing=「状態」で構成される単語ですから、健康=身体、幸せ=心、福祉=社会を良い状態に保つという意味になり、つまりはHappinessよりも広義な「幸せ」を表す言葉になるわけです。
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