ベンチャー企業の直面する現状を表す言葉として、10人の壁、30人の壁、50人の壁という「社員数の壁」なるものがあります。「順調に社員数が増えたと思っていたのに、なぜか気づいたら退職が続き、30人前後の組織規模が3年も続いている」というようなことです。この壁を越えなければ、売上も利益も伸びているのに、「起業当初から考えていた株式上場や全国展開、海外進出の目標達成にはまだ程遠い」というような状態が続いていくでしょう。

経営者と社員が「共依存」の関係に陥ると何が起きるのか

経営者一人への過度な依存は「共依存」を招く

いろいろな会社を拝見していると、経営者と社員が「共依存」の関係に陥っているケースがあることに気がつきます。その状態に陥ると、今いる社員数のままで組織が一気に膠着化していきます。今回、本記事で述べる「会社で起こる共依存」というのは、仕事でアクシデントが発生した際に社員だけで解決ができず、“結局経営者が出てきて社員の実務フォローをしてしまう”という状況です。

たとえば社員数が1万人いる会社であれば、経営者と社員が「共依存」するのはまず物理的に不可能です。では、社員数が何人であれば共依存の関係が可能になってくるのか。これは、ご自身の会社に当てはめて考えてみるとわかりやすいのではないでしょうか。

ここで1つ質問をします。
「あなたは何人までの社員の仕事を尻ぬぐいできますか」。

「自分は30人までだったら社員の尻ぬぐいはできる」という経営者が、共依存を起こす最大人数は30人です。「現状、そこそこ利益が出ているので、安定的に経営できればそれで十分」と考える経営者であれば、社員の親代わりとなり、一人ひとりの仕事をケアして和気あいあいとした家庭的な職場を維持していけば良いと思います。これは「良い共依存」の一つのスタイルです。この経営者の方の場合は、常時30人以内に社員数を抑えることで、理想とする組織が維持できます。

一方で、「本当は1000人規模の会社にしたいのに、今は30人のアットホームな会社になってしまっていることが本意ではない」という場合。こちらのケースでは、経営者ご本人の「子離れ」が必要になります。自分が1000人規模の会社の経営者になったと想像してみましょう。まずは、現在行う実務のうち“1000人規模になったら物理的に不可能になるもの”をピックアップします。多くは、全社員の日報に毎日全てコメントを書いて返信をするというような、社員一人ひとりに直接対応するものが挙がるのではないでしょうか。そして、書き出し終えたら、次は“今後一切それらをしない”ように努力します。

そうすれば30人の壁は簡単に突破し、業績が良ければ50人、100人、300人、500人……と理想の1000人に順調に近づいていくでしょう。ただし、先述したプロセスを経ていない場合は、業績が良くて一旦50人に増えても、1年以内には30人に戻っているはずです。

「〇〇人の壁」を突破するには“する努力”ではなく、“しない努力”が必要

社員の場合、“やらないよりやるほうがしんどい”ことのほうが多いのですが、経営者の場合はその逆です。そのためか、ほとんどの経営者は、我慢できずに社員のやることなすことに手や口を出してしまいます。その結果、いつまでたっても、「経営者と社員が日次レベルの実務を毎日一緒に進めている」という状態に陥ります。

「30人までの尻ぬぐいはできる」という経営者は、そのスタイルを変えないと、50人になったときに面倒を見てもらえない20人の社員が不利益を被ることになります。その20人というのは、おおよそ経営者の出身部署“以外”の社員。一般的な傾向として、経営者は自身の得意分野や出身部署に手や口を出しがちです。そのような状態は、多くの社員の目には「社長は、自分の出身部署ばかりひいきやフォローをしていて、フェアではない」と見えています。その結果、社長に関心を持ってもらえていないと思い込んだ社員達が離脱して、“社長が目をかけている30人”だけが残るというのはよくある話です。

「〇〇人の壁」を突破するには“する努力”ではなく、“しない努力”が必要になります。経営者が“しない努力”をすることで何が変わるか。まず、管理職が自立し、成長します。一方、「共依存」状態にあり、社員数の増加が頭打ちになっているような会社では、皆同じ悩みをおっしゃいます。経営者は「管理職がいつまでも自立してくれない」、管理職は「経営者がすぐ口出しをしてきて自立させてくれない」とそれぞれ言うのです。

つまり、経営者が日次業務に手や口を出さないようになれば、その問題はおのずと解決します。“管理職のほうから自発的な”相談やお願いをされたときだけ、経営者は対応をすればいいのです。ところが、共依存に陥っている会社の経営者というのは、自分からすぐ声をかけてしまいます。だから相手も受け身になり、「何かあったら社長が助けてくれるだろう」、「先回りしてフォローしてくれるだろう」と自立できなくなってしまいます。自立とは書いて字のごとく、「自ら立つ」ということです。全て自分でできなくても、「助けてください」、「教えてください」と自分から言えるようになることが“自立への一歩”です。それができたら、“自分で全てできるようにする”ステップを目指しましょう。

仕事の習得プロセスというのは、以下のステップを経ることです。そして、これが「組織の自立と成長」のステップにもなります。
(1)周囲からフォローしてもらいながらできるようになる
(2)自分からフォローを周囲にお願いしてできるようになる
(3)自分一人でできるようになる


共依存を起こしやすい会社というのは、上記ステップの(2)が弱い会社です。“自分からフォローを周囲にお願いしてできるようになる”というアクションを社員一人ひとりが繰り返し徹底し、強化することで、自立した集団が形成されます。その結果、経営者も社員の作業を終日チェックする必要がなくなり、より大きな視座で経営を考えることができるようになるでしょう。「共依存」が解消されず悩んでいらっしゃる経営者の方々、部下の教育に悩んでおられる管理職・人事の方は自立への方法の一つとしてぜひ試してみてください。
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