一年前に始まった、本シリーズも今回が最終回です。組織にある課題について、その特徴を「組織の法則」としてグラフ化し、さまざまな実例とともに紹介してきました。また、経営者と社員の間の“ズレ”に着目し、「より良い組織風土を醸成するポイント」をお伝えしました。第12回では、「不祥事が起こる背景」と「コンプライアンスが欠如した組織状態」について解説してみます。

【最初から読む:バックナンバーの一覧はこちらから】図で考えると組織は良くなる(全12回)
社員数が増えると、組織内の不祥事に対する“各自の危機意識”は希薄化しやすくなる

「社員数」と「不祥事に対する危機感」の相関関係

社員数と自社の不祥事に対する危機感の相関関係
社員数に応じて不祥事の起きやすさが変わるかといえば、私はそこには相関性がないと考えています。なぜかというと、社員数によって不祥事の内容も変化してくるからです。

社員数の少ない時期は、組織として内部統制がまだ確立されておらず、「モラル」は各個人に委ねられる側面があります。そのため不祥事の内容も、経営者の公私混同からくる不祥事や、モラルのない社員の単独行動による不祥事やトラブルといったものが起こりやすいです。

そして社員数が増え、上場企業など組織内の内部統制が確立されていくと、前述したような個人レベルの不祥事は、理論上は起きにくくなります。しかし、内部統制のルールだけ作って実際には稼働しておらず、いい加減な管理をしている場合には引き続き同様の不祥事は起きます。

また、組織が大きくなると業務の取引規模も大きくなりますので、今度は単独ではなく組織ぐるみの不祥事も発生する機会も増えてきます。内部統制や監査などに引っかからないように“検査前、調査前に口裏を合わせて嘘をつく”といった類のものも出てきます。

不祥事の発生件数は、社員数と相関性を示すのは難しいと考えますが、自社の不祥事に対する自覚や危機意識、自分ごととして捉えられるかどうか、という「危機感」は、グラフとして図示できると思います。

不祥事を“自分事”として捉える「当事者意識」が持てるかどうか

例えば、同じ組織に所属する“ある社員”が不祥事を起こした場合を想定してみます。

(1)小規模な会社なので、その社員の顔も名前も人柄もよく知っている
(2)大規模な会社なので、その社員の顔や名前すらもよくわからない

もし、職場環境が上記の二つのケースだった場合、皆さんならそれぞれどう感じるでしょうか。

やはり、(1)より(2)のほうが“自分ごと”として、危機感を持つのは難しいと感じる人が多いと思います。

自分が普段見知っている人が不祥事に関わっていると、やはり自分ごとのように不祥事を受け止めることができます。しかし、一応同じ会社の人らしいけれど、名前を聞いたこともなく、話したこともないという関係性の場合はどうでしょうか。

会社から「自分ごとのように危機感を持って気を引き締めましょう」とアナウンスがあっても、実感としては難しいものです。むしろ、「何千人、何万人も社員がいたら、そのような不祥事を起こす人も確率として、一定数いるのは仕方がない」と思う人もいるかもしれません。

そして、不祥事があった後、その会社の営業や役員などが、外回りで取引先などに出向いた時、先方から「不祥事でいろいろ大変だったみたいですね」と声がけをされた時、その返答は次の二つに分かれることでしょう。

A:
「ご心配をおかけして申し訳ありません。本当に恥ずかしい限りです」。


B:
「私はその社員のことはよく知らないのですが、聞いたところによると社内でも変わり者で有名だったらしいですよ。本当に私たちも迷惑していますよ」。



Aは、会社として、経営陣が組織や社員をマネジメントできている印象を受け、外部の人達から見ると、「自分ごととして会社全員の人達が反省しているのだな」、「きっと今回はたまたま不祥事が起きてしまったのだな」という印象を受けます。

Bの場合は、同じ社内の人間が起こしたことなのに、“他人ごと”のように捉えていることに、外部の人達は違和感を持ちます。「きっと経営陣が社員にメッセージをきちんと発信しきれていないのだろう」、「危機感がないから、この会社、また何か不祥事を起こすだろうな」という印象を受けます。

経営者が「不祥事を根絶する覚悟」を毅然と示すことが第一歩

組織のトップが「不祥事を起こした社員は、どれだけ実績のある役員や社員でも関係なく一律に処分します」と宣言をすれば、社員の不正が激減することは間違いありません。不正に対してそこまでの真剣さや覚悟が経営者にあれば、簡単に社員も職場で不正をしようという気になれません。

しかし、経営陣自身が「まあ、経営していればいろいろありますしね」というスタンスをとり、それが少しでも社員から垣間見えてしまう場合は、社員は「チャンス」、「自分はこれだけ会社の貢献してあげているのだから」とという気を起こすこともあるかもしれません。そうなると、金銭的な不正やハラスメントなどの不祥事を「必要悪」なのだと正当化して行う社員は絶え間なく出てくることでしょう。

トップセールスや、実績のある役員や社員などが、「こんな些細な金額の領収書やキックバックの不正で自分をクビにしたら、年間何千万、何億の自分の担当の売上もなくなるのだから、クビになんかできるわけがない」と、「ボーナス代わり」と称して不正を長期間にわたり続けたり、部下や取引先などに圧力をかけてハラスメントを行い続けたりすることも実際にあることでしょう。

自社で起こった不祥事に対する危機意識は、社員100人の組織であれば100分の1、社員1万人の組織であれば1万分の1に希薄化していきます。不祥事を抑制するためには、社員数が増えれば増えるほど、「経営陣からの覚悟を持ったメッセージ」を発信していくことが求められます。
                               
本連載は今回が最終回です。近日中に前田さんの新連載がスタートします。どうぞご期待ください。
参考:【HRプロ】書籍・本 紹介/レビュー:
『図で考えると会社は良くなる』前田康二郎(クロスメディア・パブリッシング)
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