“30人の会社で起こり得る組織の課題”は、“業界を問わず30人の組織”でも同じことが起こっている。これまで数多くの組織を見てきて、この事実を知った際、「組織にはある程度グラフ化できる法則があるはずだ」という考えに至りました。そこで、特徴を洗い出していきながら72個のグラフを作成しました。新連載「図で考えると組織は良くなる」では、組織によくある課題の特徴を図(グラフ)で客観的に示しながら、今よりも、さらにより良い組織にしていく方法をお伝えしていきたいと思います。
経営者に頼りすぎない「自立した社員」がいる組織にするには

後進の育成が遅れる組織とは

企業経営者をはじめとして、どの組織にもその組織を引っ張るトップがいます。就任は良いとしても、退任はいつ、どのようにすることが残された人達や後継者、そして何よりご本人にとって最適なのでしょうか。そこで、組織のトップが退任するパターンを4つ挙げてみました。
経営者に頼りすぎない「自立した社員」がいる組織にするには

(1)自ら退任

・後継者の育成が完了した
・自ら再度新しい事業を興すため
・業績不振の責任をとる
・不祥事などの責任をとる

(2)本人の体調不良

・突然の急逝
・後継者の育成が遅れ、高齢のままトップで居続けていた
・周囲が健康を留意しても「自分は大丈夫」と頑なに自ら退任しなかった

(3)解任

・会社の私物化
・不正行為、犯罪行為
・業績不振の責任をとらない等、自ら退任を選んで欲しい状況にもかかわらず、本人が頑なに退任を拒否している場合

(4)任期満了

上記の(1)~(3)を見ると、組織のトップがスムーズな形で後継者にバトンタッチできるケースがいかに少ないかということがわかります。そのため、「任期」という制度が最も穏便に、トップの交代が行われやすいと言えます。

反面、不正など、調査が必要な問題が起き上がっている最中に任期満了のタイミングと重なった場合、説明責任を果たさぬまま退任してしまうという負の側面もあります。このように、組織のトップが良い形で退任するというのは、想像するよりもかなり限定的であることがわかります。

特に、現実の組織では下記のようなケースが多いと思います。

・以前は「〇年後には引退する」と言っていたはずなのに、結局引退しない(できない)
・経営不振になったら自ら退任すると言っていたのに、退任しようとしない


これは属人的な問題というよりも、それまでの「組織作り」に課題があるため、結果的に「辞めるに辞められない」という状態を引き起こしています。

現実的に多いのは、経営者候補になれそうな幹部がいるのに、経営者が「いや、まだ5年、10年は難しいな」という判断をしている状態です。そうなると、経営者候補の人達は「もう準備ができている」状態だというのに、5年後、10年後など到底待てないと、他社に行ってしまうのです。優秀な人というのは、仕事ができる反面、組織への見切りもはっきりしています。いつまでものらりくらりと人事を先延ばしにされていることを、内心は「良し」としていません。ある日突然「もういいや、ここの会社は」と、腹が決まってあっさり転職してしまうのです。すると、残された会社は計画していた後継者候補がいなくなり、後継者候補をまたイチから育てなければいけなくなります。そして、結果的に現経営者の長期政権が確定するのです。

経営者が一時不在の状態でも会社がまわるような組織体制、人員配置に常時しておく

では、経営者が後進に道をスムーズに譲るようにするにはどうしたらよいのでしょうか。引継ぎがうまくいっている会社を何社か見てみると、一つわかったことがあります。それは、「自分はまた新しくチャレンジするものが見つかったから、今の会社は君たちが引き継いで」というように、次の自分の居場所を自ら見つけた経営者の方は、さっと後進に道を譲っているケースが多いということ。自分でまた新しく起業をしたり、プロ経営者として他社の経営再建に関わったり、あるいは会社を離れて自分のライフワークの活動に専念したりなど「自分の居場所」があると、人は今自分が居る場所を後継者に譲りやすくなります。

次の居場所が何もなく、仕事一筋で「今の会社=自分の人生全て」という方ほど、もし後進に道を譲ったら、一体自分は何を生きがいにしていけばいいのだろうという思考に陥ります。そのため、たとえ後進が育っていたとしても、理由をつけて「まだ譲りたくない」という心理状態が起こるのだと思います。

特に日本は、会社員時代は仲の良かった人が、退職した途端に付き合いがなくなることはよくあります。「個人対個人」ではなく、「肩書対肩書」の付き合いなのです。海外では比較的個人主義の環境なので、私の外国人の友人は、私が会社員だろうがフリーランスだろうが、変わらず付き合ってくれます。実際には経営者レベルの方が退職したとしても、周囲の方は敬意を持って接してくれるはずだと思いますが、日本の場合、肩書を失うと全てを失うという強迫観念があるのです。それが経営者の交代といった新陳代謝を遅らせてしまっている原因の一つになっているのかもしれません。

経営者の方は、ご自身が就任、あるいは起業したその時に、既に「自分の引き際」を頭にイメージをされていたほうが理想の引継ぎができると思います。それはリスク管理の面からも重要です。経営者ご自身が病気やトラブルなどで突然経営者としての仕事が続けられなくなる可能性は「毎日」あります。新型コロナに感染したという経営陣の方も、公表している人は少ないですが、実際はかなりいたはずです。だからこそ、「もし自分が今日、何も経営判断することができない状況に陥ったら」ということを想定して、いつでも「万が一」の時には経営者が一時不在の状態でも会社がまわるようにしておくことが重要です。そのような組織体制、人員配置に常時しておくことで、既存の社員も経営者を頼らず自立をして成長していきます。経営者ご自身も、そのような組織であれば、安心して会社の外に目を向ける時間を確保することができ、ご自身の理想のタイミングで、後進に道を譲ることができるのではないでしょうか。
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