2021年6月22日、株式会社ROBOT PAYMENTの主催によるオンラインイベント、「日本の経理をもっと自由にサミット~DXで変わる日本の紙と働き方」が開催された。コロナ禍で日本人の働き方が大きく変わる中、紙を介した業務が中心である経理の働き方は変わっていない。本サミットは、日本の経理の働き方が変わらない要因である「社会の構造」を経理1,000名への実態調査などから浮き彫りにするとともに、その働き方を変える鍵となる「電子インボイス」と「Peppol(ペポル)」についての理解を深めることを目的としてして開催された。電子インボイスとは、2023年10月に導入される適格請求書等保存方式(インボイス制度)において仕入税額控除に必須となる適格請求書を電子化する仕組み。Peppol はそのための国際的な標準規格で、日本もそれに準拠することが2020年末、電子インボイス推進協議会(EIPA)によって発表されている。こういったDXによって、日本の経理の働き方は本当に変わるのだろうか?
「電子インボイス」と「Peppol(ペポル)」によるDXが、日本の経理を自由にするのか?

基調講演(1):経理1,000人の調査から見えた新たな課題とは?

『電子インボイス』と『Peppol(ペポル)』が鍵を握る
基調講演に登壇したのは、株式会社ROBOT PAYMENTの執行役員で「日本の経理をもっと自由に」プロジェクト責任者の藤田豪人氏。講演は「プロジェクト変遷と新たに見えてきた課題」というテーマで、同プロジェクトが実施したインターネット調査「経理 1000 人に聞いた請求書電子化と働き方に関する実態調査 2021」の結果をもとに進められた。

まず藤田氏は、「新型コロナウイルス感染症拡大による社会全体の働き方の変化に伴って経理の働き方はどのように変化したと思いますか?」という質問に対して「社会の働き方が変化する中、変わらない」と答えた経理が83.4%にのぼったことを説明。続けて「お勤め先の会社で在宅勤務を希望した際、週にどれくらいの頻度で在宅勤務ができますか?」という質問に対して「在宅勤務を希望しても全くできない」という回答が半数以上の56.6%だったことを説明した。

働き方改革を部署別に見ていくと経理・財務部門は最下位。また、日本の経理のIT化は国際比較しても遅れており、その要因として大きいのはやはり「紙の請求業務の多さ」だとする藤田氏。「本来、経理とは数値を元にしたファイナンス戦略を設計できるクリエイティブな職種であるため、AIに業務が置き換わっていく中で『人がやるべき仕事』に集中でき、それによって経理の地位は向上する」と語る。加えて「取引先に請求書の電子化を進めて欲しいと思いますか?」の問いに「そう思う」と答えた経理が88.1%だったことも「今回の事業が立ち上げられた背景として大きい」と述べた。

今変わらなければ、二度と変われない

「ペーパーレスの促進を目的とした電子帳簿保存法が2020年10月に改正されました。今変わらなければ、日本の経理の働き方が変わる契機は二度と訪れないでしょう」と語る藤田氏。プロジェクトがゴールに定めているのは「現在34.2%である請求書電子化サービス導入率を、まずは50%まで引き上げること」だと続ける。

その後、藤田氏は、2020年7月に立ち上げられた「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトがこれまでに行なってきた活動を説明。プロジェクト第1弾として、「#さよなら紙の請求書」を掲げ、第2弾は経済産業省へ「IT導入補助金の拡充と、経理部門の働き方改善を実現する産官学連携を促す嘆願書」を提出するなど「請求書の電子化」を推進し、2021年6月時点で約150社の賛同企業を得ていることを語るとともに、「脱ハンコ/脱FAX」の報道が追い風となり、「請求書電子化を推進する世論」が形成されたことも付け加えた。

藤田氏は語る。「これらの活動を通じて明らかになったのは、紙文化脱却やシステム投資の必要性を訴えることが請求書電子化を推進するわけではない、ということです。本質的な課題は、請求書を取り巻く『構造(仕組み)』を変えること。その解決の鍵になるのが『電子インボイス』と『Peppol(ペポル)』というわけです」

構造を変えるための『電子インボイス』と『Peppol』

そして「電子インボイス」と「Peppol」についての説明を続ける。「インボイスとは、商取引において一般的に利用される『請求書』のこと。2023年より、日本の消費税制度で仕入税額控除適応の要件として適格請求書(インボイス)の保存が求められる適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます。その仕入税額控除に必須となる適格請求書を電子化する仕組みが電子インボイスで、Peppolはそのための国際的な標準規格です」

電子インボイスにより、仕訳入力から仕入税額控除の計算までの業務が自動化されることは経理の大きな作業軽減になるが、対応に必要なツール導入には当然ながら一定のコストがかかる。藤田氏は「現状では取引先と規格が異なる場合には効果が半減するため、中小企業などからすると費用対効果が合わないと考えられている」と補足する。実際に、今回の調査における「請求書の電子化ツールが導入されていない理由は何だと思いますか ?」の質問には、「導入にコストがかかる」という回答が37.3%と最多だったと説明する。

また、「電子文書交換を目的とした国際的標準規格」として世界31ヵ国ですでに導入されているPeppolについては、「インボイス制度やPeppolに関する現在の世の中の状況を、どの程度把握してい ますか?」という質問に対して「詳しく把握している」という回答した経理はわずか2.5%で、電子インボイス推進協議会(EIPA)による周知活動を行なっているにもかかわらず、認知がまだまだ進んでいない現状を明らかにした。

「まだ2年ある」のか、「あと2年しかない」のか

「インボイス制度の導入についても『詳しく把握している』という回答は15.3%ほどです。導入される2023年10月を『まだ2年ある』と捉える経理の方が多いのでしょう。私どもの経理に言わせると『あと2年しかない』ということになりますが、そのあたりに温度差があることは間違いありません」と語る藤田氏は、「抜本的な構造改革には国の協力が必要。これからは官民連携による『標準仕様の普及』が不可欠です」と断言する。

「2023年10月にインボイス制度導入を控える現在、『経理の新しい働き方』を推進する上で、本質的な課題解決となる構造改革を目指す」というこのサミットの開催意義を踏まえ、藤田氏は「経理の新しい未来を作っていきたい。今日が経理の新しい働き方を考えるきっかけにかれば嬉しい」という言葉で講演を締め括った。

基調講演(2)我が国のデジタル改革について

平井卓也 デジタル改革担当大臣
基調講演(2)では、平井卓也デジタル改革担当大臣による事前収録のプレゼンテーション動画「我が国のデジタル改革について」が放映された。

電子インボイスの標準を作ることが、バックオフィスのDXにつながる

最初に「我々は『デジタル敗戦』と呼ばれる現状を脱するために頑張っている」こと、「9月1日にスタートするデジタル庁を規制改革の象徴、成長戦略の柱として機能させ、皆さんの期待に応える」ことを前置きとして語った後、平井大臣は「普通に『デジタル敗戦』という言葉を使ってしまっているが、何が悪かったのかを冷静に考える必要がある」と切り出す。そして「便利にならない、つながらない、エンド to エンドで効果がない、業務プロセスが分断される、データの交換ができない……そういうことが起こるのは、総じてプロセスやアーキテクチャーの問題。考えの見直しが必要だと思う」と続ける。また、あるアンケート結果を引き合いに、「中小企業ではおよそ半分が帳簿作成や請求書作成に市販の業務ソフトを使っているが、最終的にはプリントアウトしてハンコをついている。我々はこれをどこかで『仕方がない』と諦めてきた。しかし、これからはエンド to エンドでデータがつながること、そこから新しい価値を創造することに徹底的にこだわる必要がある」と強調。バックオフィスにおけるデジタル化の遅れが働き方にも制約を与え、生産性向上の足枷になっている現状を変える必要性について語った。

論題はここからインボイス制度移行へ向けた内容へ。先日、デジタル社会の実現に向けた計画が閣議決定され、「2023年10月のインボイス制度導入に向けて、標準化された電子インボイスの活用により取引先とのシームレスなデータ連携を実現し、事業者の作業負担の軽減を図ることを明確な方針として示した」ことを報告。「EIPA代表の岡本(浩一郎)さんより、電子インボイスはPeppolをベースとした中小企業でも使いやすいものにしてほしいという提言があったが、私も全くもってその通りだと考えている」とし、「電子インボイスの標準を作ることが、バックオフィスのDXにつながる。インボイス制度導入はデジタル庁の発足と時期が重なるので、デジタル庁のフラッグシップ・プロジェクトとして取り組みたい」と続けた。また、Peppolをベースとした電子インボイスの標準仕様の策定については、「様々な仕様があることを踏まえて、ユーザーのコスト面などを最小限に止める。ただし相互運用性を確実に保持することは重視したい」、「これまでの仕様や通信方式を気にせず使えるものにしたい」と説明した。

Peppolについて平井大臣は「ヨーロッパで生まれたPeppolは、アジア圏でも急速に広まっている。その動きに遅れることなく、我が国もある程度のリーダーシップを持てるよう取り組んでいきたい。それは官だけでできることではないので、民間企業とも協力しながらスピード感を持ってやっていく」と語る。そして「100年に一度のこのパンデミックは、世の中を変えるイノベーションが生まれる可能性も内包している。バージョンアップした上で新しい日常を作らなければ未来は開けない。従来の当たり前をよしとしない、当たり前を疑うというマインドセットが必要」であるとも語る。そして最後に「終わりなき旅であるDXを続けるためにもこのサミットが成功し、ひいてはデジタル庁スタートダッシュにも力を与えて欲しい」と述べ、プレゼンテーションを終えた。

基調講演(3)課題解決の鍵となる「Peppol」

EIPA代表幹事法人 株式会社弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏
基調講演(3)に登壇したのは、EIPA代表幹事法人 株式会社弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏。「課題解決の鍵となる『Peppol』」と題されたこの講演で、岡本氏はまずEIPAの概略について説明。2020年7月の発足以来、会員企業が114社にまで増加していることに触れ、「先ほどの藤田さんのご講演で(インボイス制度導入まで)『まだ2年ある』『あと2年しかない』といった話題がありましたが、この会員数を見れば、少なくない企業が電子インボイスに高い関心を持ち、また『あと2年しかない』という感覚で取り組んでいるのが分かる」と語る。

そして「電子インボイスが当たり前の世の中にする」ことがEIPA設立の理由だと続ける岡本氏。ではそのために何をすべきなのか? 「新たな法令に対応しなければいけない。正直に言って、気持ちは盛り上がらないでしょう。それが一般的な感覚です。しかしEIPAは、今回の機会を単なる法令改正で終わらせたいとは考えていません。先ほどの平井大臣のお話とも重なりますが、今こそがデジタル化のチャンスだと捉えています」

業務プロセスを根底から見直すつもりでデジタル化を進める

EIPAは2019年に発足した「社会的システム・デジタル化研究会」を母体として生まれた団体であり、同研究会は「社会的システムの電子化ではなく、デジタル化が必要」という、紙を前提とした仕組み全体を見直す提言を行なってきた。その理念を受け継ぐEIPAは、短期的には「インボイス制度の導入に向けた電子インボイスの仕組みの確立」、中長期的には「確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度などについて、業務プロセスを根底から見直すつもりでデジタル化を進める」ことを目標にしている。

「もちろん一部で電子化は進んでいます。しかし、デジタルで作られた請求書をアナログで処理しているうちは真のデジタル化とは言えません。そして仕組み自体をデジタル化するために、今回のインボイス制度はちょうどいい機会だと思っています」と岡本氏は語る。それは2018年にシンガポール、2019年にオーストラリアとニュージランドがPeppolを採用し、一定の成果を上げているからだという。

皆が使える電子インボイスのベースを作る

「日本からそう遠くない海外で、国を挙げて電子インボイスの普及を目指し、徐々に、着実に普及が進んでいる。それを踏まえ、EIPAは設立されました。先ほどお話ししたように、『電子インボイスが当たり前の世の中にする』ことが大きな目的で、これにより圧倒的な業務の効率化を目指します。平井大臣のお話の繰り返しになりますが、現状の商取引は中小企業を中心にアナログ処理が多く存在します。見積もり~受発注~請求~支払い/入金消し込みといった業務の大半が紙と手作業で成り立っている。見積もりが紙ではなくデータで買い手に渡り、買い手はクリックひとつで発注書を送る。この発想が日本になかったわけではありません。しかしそれは限られた大企業のみが行なっていたことです。会社の規模に関わらず、皆が使える電子インボイスのベースを作ろう。そこで注目されたのがPeppolです」

「Peppolが稼働することで、大企業から中小企業まで様々な企業が国を越えてつながっていく」と岡本氏。2023年10月のインボイス制度導入に向け、「業務定着のため、来年の2022年にはサービスを開始したい」と語る。2020年12月にEIPAとして平井大臣に提言を行ない、「デジタル庁のフラッグシップ・プロジェクトとなる」という言葉を受けたという岡本氏は、この機会に「非常に大きな可能性が広がっている」と感じている。「業務を圧倒的に効率化させるチャンスとして、国と民間事業者が手を合わせて進める時が来ている」という言葉で講演を終えた。

トークセッション

「電子インボイス」と「Peppol(ペポル)」によるDXが、日本の経理を自由にするのか?
基調講演に続いて、トークセッションが行なわれた。テーマは次の3つ。

(1)「Covid-19から約1年半、『請求書電子化』と『経理の働き方』に関する実態」
(2)「『Peppol』で変わった海外の事例と、国内での浸透に必要なこと」
(3)「『Peppol』の普及で変わる日本の経理の未来」


最初に基調講演を終えた藤田氏がモデレーターとなり、同じく基調講演を終えた岡本氏と、内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐の加藤博之氏、株式会社マネーフォワード 執行役員 サステナビリティ担当CoPA Fintech 研究所長の瀧俊雄氏の3名が登壇し、テーマについてそれぞれにコメントした。

リモートワークの普及で、ツールの整備が行き届いた

(1)について、瀧氏は「ちょうど1年前の今頃、四半期決算が締められるかどうかの瀬戸際でしたが、何とか経理部長が出社せずに締めることができた」と振り返る。「日頃から『クラウドだ』と言っている私たちですらギリギリという感覚でした。最後の砦はやはり紙の請求書。それらをスキャンする環境を整えることで部長の出社を避けることができ、当事者としてのプライドを保持できました。しかし、これを一般の事業者さんが実行するのはまだまだ難しいと思いました」

同じ質問に、岡本氏は事業者という立場で「やはりバックオフィスのリモート化はハードルが高かった。紙という物理的なハードルはもちろんあるのですが、経理の方は基本的に真面目な方が多いんです。何がなんでも出社するという思いが強い(笑)。そのあたりのマインドセットがまず必要だなと。これまであった紙がなくなるという心理的不安は少なからずあると思いますし」と答える。

一方で官庁側である加藤氏は「去年の今頃までテレワークという言葉すら知らなかった。しかし状況が進み、自分の部署の人間にも在宅勤務をするように伝えたのですが、そうすると決まって『ツールを渡せ』と言われる。何もない中で精神論を言うのではなく、まずは道具を渡せということです。そういう意味では、この1年でツールの整備がかなり行き届いた印象はあります」と語った。

日本はPeppolの導入でどう変わっていくのか

そして(2)については、「みんなでやることが大事。国や民間の一部がやっているだけでは進まない。全員で『せーの』で動くことで不安がなくなると思う」と岡本氏。シンガポールでタウンミーティングのような形で説明会が行なわれているのを見て、「国もここまで懇切丁寧にやるんだなと感心した」とか。

瀧氏は「交渉力の大きい側から落としていくのがマナーだと思います。実態として、発注側と受託側にはやはり大きな力の差があることが多く、請求などが自動化することでスムーズになる面は少なからずあるはず」と語る。

加藤氏は「藤田さんの基調講演では、インボイス制度やPeppolについて詳しく把握しているという人はまだまだ少ないとのことでしたが、知っていることに意味があるのではなく、それに対応できていることに意味があると私は思っています。質問にある『浸透』という言葉の捉え方が難しいのですが、『みんな言葉は知っているけど、制度には反対している人が多い』では美しくないので、『言葉は知らないけれど、気づいたら快適に使っていた』というのがいいかなと思います」と見解を述べた。

日本の経理の未来を変える、第一歩を踏み出すために

最後の(3)について、「経理には最終的に会社の全ての情報が回ってきます。そこには『経営をどうすべきか』といったヒントも隠されているわけです。経理の方たちの時間も資産として考え、より良い働き方を考えたりすることに使われる。そういう時代になっていくと思います。経理がフロントオフィスと呼ばれるような時代が来るといいですね」と瀧氏。

岡本氏もその意見に賛同しながら「多くの人に『紙を使わなくても便利だね』と言われる仕組みを作りたいですね。そして作業が軽減された分の付加価値を皆さんに見つけていってもらえたらと思います」と続ける。

「先日、DXをテーマとしたセミナーである中堅企業の方が『めんどくさいこと言ってんじゃないよ。うちは全て紙でいくからな』と言われて、場が凍りつきました。しかし私は『それでいいと思います』と答えました。DXの“X”には行動変容が含まれているからです。実際に紙で全てをやってみて、その企業の方が『効率が悪い』と感じた。そしてデジタル化を考えてPeppolにたどり着いてくれる。最終的にそんな行動変容があれば嬉しいです。まずは最初の一歩を踏み出して欲しいなと思います」という加藤氏のコメントで、トークセッションは終了。

モデレーターの藤田氏からの「このサミットが、2年後に迫ったインボイス制度の導入についての気づきとなれば幸いです」という挨拶で、オンラインイベントは閉会となった。加藤氏のコメントにもあるように、日本の経理の働き方が大きく変わる、その第一歩となるに違いない今回の電子インボイスとPeppolの導入。変わりゆく時代の中で、何を選び、何を選ばないか。このイベントリポートが、貴社の未来を考える一助となれば幸いだ。

取材・構成:伊藤隆剛
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