新型コロナウイルスが蔓延してからというもの、企業には従来とは異なる対応が求められている。人事採用領域においてもそれは同様だ。従来、対面で行われていたインターンシップもオンライン化が進んでいる。「オンラインインターンシップ」とは、読んで字のごとく“オンライン上で実施されるインターンシップ”のことを指す。オンラインインターンシップは従来の対面型と比べ、地方在住者でも実施でき、コストも低減できるのがメリットだ。しかし、ビデオ会議システムやチャットツールだけでは、社風がわかりづらいというデメリットもある。本記事では、「オンラインインターンシップ」を導入している企業が気をつけたいポイントや実施企業の事例などを紹介する。
「オンラインインターンシップ」の実施内容や事例とは? 人事担当者がおさえておきたいメリットや注意点を解説

「オンラインインターンシップ」の定義や注目されている背景

「オンラインインターンシップ」とは、ウェブ会議システムやチャットツールを用いてオンラインで実施するインターンシップのことを指す。新しい生活様式が求められるコロナ禍で、テレワークの拡大とあわせてオンラインでインターンシップを実施する企業が増えている。

インターンシップといえば、学生が企業に赴きオフィス等で就業体験を行うのが一般的だった。しかし、2020年頃からは新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、対面でのインターンシップを実施できない企業が多くあった。

オンラインインターンシップでは、対面でのインターンシップのように業務の一部を体験させることは難しい。そのため、動画による事業内容の説明やWeb会議システムおよびチャットツールを通してのコミュニケーションが中心となる。

中には、オンラインと対面のハイブリット方式でインターンシップを実施する企業もあるようだ。この場合、オンラインで事前に課題を進めてもらい、対面でワークを行うといった方法で行われる。

「オンラインインターンシップ」はどのような内容で実施すればよいか

「オンラインインターンシップ」は主に次の内容で実施されている。

●グループワーク

インターンシップの基本プログラムであるグループワークは、オンラインでも実施されている。オンライン会議システムを使用すれば、多数の参加者がいても問題なく実施できるだろう。多くの企業が利用しているオンライン会議システム「Zoom」のブレイクアウトルーム機能を使えば、一度に大人数が参加しても数名ずつのグループを作りワークを進められる。

●社内会議の同席

テレワークを実施している企業のほとんどがオンラインによる社内会議を実施している。日常的に行われているオンライン会議への参加なら、「オンラインインターンシップ」のプログラムに容易に組み込める。

企業側はいつも通りオンライン会議を行い、学生は自宅で実際の会議の様子を見る。どのようにして意見交換を行っているのか、会議中の雰囲気はどうなのか、オンラインでも十分学生に伝わるだろう。

●工場見学

工場見学をオンラインで行う企業もある。製品がどのようにして作られているのか、製造工程に加えて管理体制や社員の動きもある程度見てもらえる。

工場見学は、一度に多くの学生に体験してもらえるプログラムだ。普段は見られない工場内部が見学できるとなれば、学生も興味を示すだろう。Zoomを使えば一度に数百人単位に工場内を見てもらえるのも利点だ。インターンシップにかかるコストを削減しながら、より多くの学生に自社をアピールできる機会になる。

●書類の作成

書類の作成は、対面とほとんど指導内容を変更せず実施できる。やり方は簡単だ。オンライン会議システムの画面共有や、遠隔操作を用いて指導すればいい。どのようにして書類を作成するのか、社員側の画面を共有して実際の作業内容を見せれば学生側もわかりやすい。

操作がわからず業務を進められないという声があれば、遠隔操作機能を使って学生側のパソコンを操作することも可能だ。いずれの機能もZoomに備わっている。

「オンラインインターンシップ」のメリットとデメリットとは

「オンラインインターンシップ」は、対面のインターンシップと比較して次のようなメリットとデメリットがある。

●メリット

・採用コストの削減
「オンラインインターンシップ」は、対面と比べて低コストで実施できるのが利点だ。対面のインターンシップでは、学生の交通費や宿泊費を負担しなければならないこともある。また、一度に多くの学生に対して実施する対面のインターンシップでは、会場を用意するための費用も必要だ。

ところがオンラインインターンシップなら、これらすべてのコストを削減できる。学生側の自宅にインターネット環境とパソコンがあれば費用をかけずにすぐに実施できるのは、企業側にとって大きなメリットといえる。

・多くの学生と接点が持てる
「オンラインインターンシップ」によって、これまでなかなか接点が持てなかった遠隔地にいる学生ともつながりを持てるようになった。また、インターンシップにかかる手間を大幅に削減できるのもオンラインの特徴だろう。

対応できる社員が限られているために、対面では数名の学生しか受け入れられなかった企業でも、オンラインなら複数名を同時に受け入れられる。企業概要の説明やグループワークなど、1日だけ実施するインターンシップであれば、さらに多くの学生と接点を持てるようになる。

●デメリット

・社内の雰囲気や社風が伝わりにくい
オフィスで一定期間就業体験をしてもらうタイプのインターンシップでは、日々の業務の中で社内の雰囲気や社風を肌で感じ取ることができる。

しかしオンラインでは、社員それぞれも自宅にいるため会社内の雰囲気までは読み取ってもらえない。今後もテレワークが継続されるのであれば、オンラインでのやりとりの雰囲気をつかめればそこまで問題に感じることはないだろう。

新型コロナウイルスが収束した後、再びオフィスワークに切り替えようとしている企業は要注意だ。オフィスワークに戻った途端、社内の雰囲気が合わずに離職してしまうかもしれない。

・学生一人ひとりの人柄を把握しにくい
学生が企業側を理解しづらいように、企業側も学生を理解しづらくなってしまう。対面のインターンシップでは、学生の何気ない一言や所作、雰囲気から性格や性質をある程度読み取ることができる。

しかし画面越しでは企業側が学生について読み取れる情報が少なく、学生が自社に適しているのか否かも判断しづらいだろう。

スムーズな進行に向けた「オンラインインターンシップ」の8つの注意点

「オンラインインターンシップ」のプログラムを円滑に進めるために、次の8つの点に注意しよう。

(1)学生がなぜインターンシップに参加するのかを把握する

学生はなぜ企業のインターンシップに参加するのだろうか。株式会社マイナビが行った「マイナビ2022年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査」によると、インターンシップの参加理由として半数以上の学生が「どの業界を志望するのか明確にするため」、「どの職種を志望するのか明確にするため」と回答している。次いで「視野を広げるため」、「特定の企業のことをよく知るため」、「自分が何をやりたいかを見つけるため」が選ばれている。

このことから、インターンシップに参加する多くの学生はどのような仕事をするのか、何を目指すのかが明確になっていないことが分かる。企業を選択する際にも、「この会社に就職したい」とはじめから考えている学生は多くないようだ。

企業側は、学生が業界や職種についても理解を深められるようなプログラムを用意するといいだろう。わかりやすい解説と、その分野で自社がどのように活躍しているのかを伝えるだけでも学生の印象に残るインターンシップになるかもしれない。

(2)ターゲットの学生をいかに集められるか

インターンシップの目的は人材の獲得にある。目的を達成するために、企業はより多くの学生を集めてインターンシップを実施する必要がある。

「オンラインインターンシップ」は、対面のインターンシップよりも気軽に参加できるため人を集めやすい。その特性を生かして、広く学生に自社のインターンシップの魅力を伝えられる。

「この会社のインターンシップが面白い」と学生の間で評判になれば、さらに多くの学生を集められるかもしれない。自社のPRのみに特化するのではなく、学生のニーズを理解し、楽しみながら業務内容を理解できるようなプログラムを用意しよう。

(3)対面よりも短時間で実施する

「オンラインインターンシップ」は対面よりも短時間のプログラムにするのもポイントだ。オンラインでの座学は対面よりも飽きられやすく、学生側にいい印象を与えられない可能性がある。

加えて、「説明が長く休憩時間がない」、「参加者側はミュート状態で主催者側が淡々と説明をするだけ」といった内容のプログラムは避けるようにしたい。

(4)リモートワークの実態を知ってもらう

「オンラインインターンシップ」ではオンラインならではの企画も組める。自社がどのようにしてテレワークを運営しているのか、その実態を学生に見せよう。どのようなツールを使い、活用しているのかをアピールすることで、働きやすさや透明性がある会社というイメージを持ってもらえる可能性がある。

(5)学生の集中力や緊張感が途切れない工夫を

オンラインによるインターンシップは単調になりやすく飽きられやすい。学生が飽きない工夫をして、学生が夢中になれる仕組みを作ろう。業界に関するクイズを出題して、学生側も自由に発言し参加できる空気を作れば、その後のグループディスカッションでも話しやすい雰囲気になるだろう。

(6)参加のメリットを明確に学生に伝える

自社のインターンシップに参加することで学生は何を持ち帰れるのか。企業側は、学生側のメリットを明確にして伝えることで参加した学生の満足感を高められる。例えば、「業界独自の文化を知ることができる」、「サービスや技術の最新情報が得られる」など、具体的なメリットを提示しよう。

どこでも活用できるスキルや知識が身につくインターンシップなら、学生の就職活動にも役立つ。「自社に来てほしい」からと、自社のアピールに終始するプログラムだけは避けたい。

(7)会社の雰囲気がわかるコンテンツの発信

「オンラインインターンシップ」のデメリットを補完する、会社の雰囲気がわかるコンテンツを発信しよう。

日ごろの社内の様子を動画にし、説明会の中で視聴してもらうのも手だ。自社の業務内容をスライド等で紹介しつつ、社員同士がざっくばらんにコメントしあう、社員インタビューを視聴してもらうなどの方法もある。前述した工場見学も、会社の雰囲気を知ってもらうためのプログラムの一つといえる。

(8)学生一人ひとりとのコミュニケーションを大事にする

オンラインではわかりづらい、学生それぞれの個性や特性、性格を理解できるようコミュニケーションを密にとろう。

いくら参加者を増やしても、コミュニケーションが希薄では採用につながる確率が低くなってしまう。参加者全体ではなく個人それぞれとコミュニケーションをとることで、企業は学生への理解が深まり、学生は企業への理解が深まる。

「オンラインインターンシップ」の後にコミュニケーションを取る場合、採用管理システムを利用するとわかりやすい。インターンシップに参加した学生を登録し、プログラム終了後のアンケート結果を入力して個人に合ったコミュニケーション方法を探っていく。そして、学生が興味を持っている業務を担当する部署の社員インタビュー記事や、インターンシップに登場した社員の業務内容を詳しく解説した記事を個別に配信する。

継続的なコミュニケーションで、学生は自社の印象を強め、事業内容や社風等への理解も深めてくれるだろう。

気になる「オンラインインターンシップ」の企業事例

「オンラインインターンシップ」を導入している企業は、どのようなプログラムを実施しているのだろうか。ここからは、オンラインインターンシップを実施している企業の事例を紹介する。

●サイバーエージェント

サイバーエージェントでは、職種別にオンラインインターンシップを開催している。例えば、実際に仕事に携われる「イラストレーターインターンシップ」は、対面とオンラインの両方で開催している。ゲーム事業に携わりたい、クリエイティブな仕事をしたい学生にとっては魅力を感じるだろう。

そのほかの職種では、1ヵ月間の実務経験ができるものもある。オンラインでも社員とコミュニケーションをとりつつ、業務の現場を見られるプログラムとなっている。

●京セラ

京セラが2020年に行ったプロジェクト型インターンシップでは、1日目をオンライン、2日目はオフラインで社員との座談会を実施。3日目は学生が興味を持った業務の現場をリアルに体感できるイベントを用意した。3日間で異なるプログラムを実施することによって、学生は飽きることなくさまざまな経験ができる。

●Works Human Intelligence

Works Human Intelligenceは、完全オンラインインターンシップを開催した。2日間のオンラインインターンにて、同社はチームごとに新製品の企画書を制作するプログラムを用意した。学生たちはZoomのブレイクアウトルームを使い、スプレッドシートを用いて共同で作業しながら議論を進めていく。連絡にはSlackのツールを利用したという。
新型コロナウイルスの蔓延は、企業の人事・採用領域にも大きな影響を与えている。より多くの優秀人材を獲得するためには、学生との接点を持てる「オンラインインターンシップ」が効果的だ。オンラインは対面と違い、会社の雰囲気まで理解してもらうのは難しい。また単調な座学では飽きられてしまう可能性が高いため、工夫を凝らして学生の印象に残るオンラインインターンシップになるよう注意が必要だ。すでにオンラインインターンシップを開催している企業は、それぞれ自社の特徴にマッチするプログラムを企画している。多くの学生に参加してもらえるよう、楽しめる内容を織り込み自社なりのプログラムを実施してみてはいかがだろうか。
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