RPAは人事の未来をつくれるか? ロボットができること、できないことを考察する【22】

Inside HR−人事はここを見ている

ロボットと働く。少し前まではSFの世界でしかあり得なかったことが、現実になりつつあります。ロボティック・プロセス・オートメーション、いわゆるRPAはここ数年で急激に進化を遂げました。今では人が行う一部の業務を担えるほどまでになっています。矢野経済研究所の調査によれば、2018年のRPA市場は418億円。前年比134%という脅威の成長率です。
そして、これからRPAの導入が期待されるのが私たち人事部。実際のところ、RPAは人事を変えるのでしょうか。今回は人事の視点からRPAについて考察してみます。

人事部では密かにRPAが動き始めている

ついにこんな時代がやってきました。人の代わりにロボットが働く。こんなことがいままさに現実となっています。具体的にはRPA端末が人事部で稼働し始めています。私の知人が勤める人事部では2年ほど前から、給与計算や派遣社員の勤怠管理でRPA活用の検討を始め今では2台のRPA端末が稼働しているそうです。

RPAが人事に有効なのは、事務作業が多いからでしょう。人事の仕事の8割は事務作業でできているといってもいいくらいです。入社手続きから勤務時間管理、給与計算や面接管理など、各業務に1人の担当者を配置しなければいけないほど仕事量が多く、手間もかかるものばかりです。

反対に企画業務の割合は2割程度です。しかし昨今の働き方改革や人材の流動化といった雇用環境の変化により企画業務の重要性が高まっています。人事部としては企画業務に人手を割きたい。しかし日々の作業に追われてしまっている。こんな状況がどの人事部でもみられます。

最近ではHRトランスフォーメーションと称して、人事部を企画専門部隊とオペレーション部隊に分ける取り組みも増えてきました。ところが、これまで「作業がうまい人員」しかいなかったため、企画を立てられる人がいないという人事部も多いです。この状態でRPAを入れて業務を効率化すると、人事部の仕事が少なくなってしまう。そんな人事部さえあります。RPAはとても便利なツールですが、人事部で導入するためには、業務の見直しや体制変更を行う必要があるのです。

RPA vs その道のプロ、戦いの行方は?

実は人事には「その道のプロ」と言われる社員が少なくとも数名在籍しています。給与計算や労務担当者はまさに「その道のプロ」です。公にはできない個別待遇やその過去の経緯に至るまで彼らの頭の中にルールや会社固有の決め事が入っています。また、彼らは何か問題が起きたときに社内でどう動き、誰とどう調整すればよいかを心得ています。

「その道のプロ」がいるのは企業ごとに固有のルールが多く、標準化が難しいからです。そして標準化が難しいのは、人の問題だからこそです。

以前、ある大手企業を退職された元人事部長にお話しをお伺いしたところ「当時の私の引き出しには門外不出の書類がたくさん入っていた」とおっしゃっていました。その内容は人事部長しかしらない役員報酬のファイルや、退職願、特約事項を記した個別の労働契約書などです。

給料はある程度一律だと思われていますが、実はそうではありません。どの企業でもほんの数%程度ではありますが、特別な待遇をしている場合があります。その背景は様々で、単に過去のM&Aに伴い合併元の給与計算方法を維持しているという場合から、家庭の事情、役員のきまぐれ、創業者の親族だからという理由まで、個別の事情がある場合も多いです。

そんな「その道のプロ」にRPAの話をすると、ほとんどの場合、反対意見が出ます。「RPAを導入してもし仮に私がいなくなると、特別待遇の〇〇さんの給与計算ができなくなります!」といった個別対応を持ち出してくる場合や、「私はロボットにはないホスピタリティを社員に対して提供しています」と人間味を訴えられる場合などがあります。

このように、RPAを日本企業に導入するには「その道のプロ」と「非効率だけどやめられない個別待遇」をなくす必要があるのです。

RPA導入に必要な課題とは

こうした話をHRテクノロジー系ベンダーにすると、「そういった個別待遇はこの際に整理してはどうでしょうか」というご提案をいただく場合もあります。しかし非効率なのを理解していても、やめられないのが現実です。

例えば給与計算で一部の社員の個別待遇をやめるとなると、その社員に対して説得が必要になります。場合によっては給料が下がることもあるため、社員が納得することは少ないでしょう。また反対に、個別待遇をやめると大幅な給料アップになる場合もあります。人件費抑制の観点から個別待遇を維持している場合もあるため、そう簡単に整理できないのが本音なのです。

また、RPAはコスト面でまだまだ中堅企業や中小企業には手の届かないものです。従業員が1万人以上、人事担当者が100人以上いる大企業では、RPAは大いに活用の機会があります。1万人の給与計算や人事手続きを毎月行うとなるとかなりの工数だからです。

一方で従業員が1,000名以下、人事担当者が数名〜数十名規模の企業では人事担当者とアウトソーシングでなんとか対応ができてしまいます。RPAのコストと比べても、アウトソーシングや派遣社員を雇うほうが安く済む場合もあるでしょう。ですが今後、RPAの価格がぐっと下がれば中小企業、中堅企業にも手が届くものになると考えています。

このようにコストと作業内容とのバランスを考慮しながら、簡単な事務処理ではRPAを活用しつつ、人対人の個別対応が必要な場面は、たとえ事務作業であっても「その道のプロ」が対応する。それがこれからの人事部のスタンダードになるかもしれません。人とテクノロジーの融合。そんな姿が日本企業に合ったテクノロジーの使い方なのだと思います。
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著者プロフィール

中野 在人

大手上場大手メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中:http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営:http://hrgate.jp/

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