多くの企業にとって、「業務効率化」は大命題と言える。しかし、いざ取り組んでも、簡単に効果を導けるというものではない。成果を得るまでに多大な時間と労力を要してしまうこともあり得る。「どうすれば、スムーズに進められるのか」と企業の人事担当者も悩んでいるのではないだろうか。そこで、今回は「業務効率化」に取り組む際に、押さえておきたいアイデアやポイント、コツなどについて一挙に紹介したい。「業務効率化」を成功させるノウハウを習得し、働き方改革の推進、生産性の向上につなげていこう。
「業務効率化」の意味や生産性向上との違いとは? 働き方改革につながる手法やアイデアも一挙紹介

そもそも「業務効率化」とは?

●「業務効率化」の定義とは

「業務効率化」とは、仕事を進めるプロセスでの「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」を見つけ出し、それらを省いたり、減らしたりしながら、会社の生産性を高める取り組みを意味する。「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」とは、「社員に負担が大きなスケジュールを課していないか(ムリ)」、「資金や時間・人材を必要以上に投下していないか(ムダ)」、「時期や担当者によってアウトプットに偏りがないか(ムラ)」などを指す。それらを削減するにはツールを導入したり、社外にアウトソーシングしたりと手法はさまざま考えられる。

●「業務効率化」が必要とされる背景や目的

「業務効率化」の必要性が叫ばれている背景には、日本が直面する少子高齢化による労働力不足という深刻な問題がある。それと並行して、働き方改革も進めていかなければならない。加えて、この1、2年は新型コロナウイルスの感染が拡大しており、テレワークの導入が広がるなど働き方が大きく変わりつつある。そうしたなかで、いかに生産性を向上させるかを突き詰めていくためにも、「業務効率化」がより一層求められていると言えよう。

●「業務効率化」の3つのメリット

「業務効率化」のメリットは、3点挙げられる。まず、1つ目は業務時間・経費の削減だ。「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」を省くことができれば、その分作業時間は減るし、人件費や光熱費などの経費も削減できる。2つ目が、従業員のモチベーション向上。自分の時間やスキルが会社の売上や利益の拡大につながっていると、認識しやすくなるからである。また、残業時間が短縮されたり、休日出勤をしなくて済むようになったりすると、従業員のワークライフバランスも実現されやすくなるので、従業員の満足度や社員定着率が高まる。まさに、働き方改革の実現には不可欠といえる。そして、3つ目が新規ビジネスへの注力。「業務効率化」によって削減できた時間やコストを新たなイノベーションに投下しやすくなる。

●生産性向上との違い

「業務効率化」と生産性向上は、似た意味で用いられている。ただ、厳密には「業務効率化」は「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」を排除し、業務に要する時間的・経済的コストを抑えることを意味する。一方、生産性向上はより少ないリソースで、これまで以上のパフォーマンスを得ることを言う。生産性向上のための一つの施策として位置づけられるのが、「業務効率化」であると理解しておけば良いだろう。

「業務効率化」のアイデアと手法を一挙紹介

「業務効率化」の定義や目的、メリットなどを理解したところで、実際にどう進めれば良いかを解説していきたい。アイデアや手法は数多くあるので、自社に何がフィットしているかを見極める姿勢が重要だ。

●無駄をなくしてみる

まずは、業務の洗い出しを行い、無駄な作業や工程、やりとりをなくことだ。会議にしても、「本当に実施しないといけないのか」、「意味のない資料を作っていないか」、「リモートでできないか」、「回数を減らせないか」と改めて考えてみると、無駄が見えてくる。「この業務にどんな意味があるのか」と日頃から考える習慣を付けたい。

●自動化してみる

業務のなかには、毎日のように繰り返していたり、マニュアル化しやすいものもあったりする。それらは、いつまでも人の手で行うのではなく、自動化を検討してみよう。例えば、Excelのマクロ機能やプログラムを活用すれば、簡単に終えられる作業もある。また、ヘルプデスクやカスタマーサポートなどの業務では、似たようなお問合せをいただくケースがある。定型的な質問には、チャットボッドを利用するのも適策だ。近年では、ロボットを活用して業務自動化を行う「RPA(Robotic Process Automation)」やAI技術を導入して自動化を図るといった動きも活発化してきている。

●分業化してみる

これは、業務を分けるというアイデアだ。具体的には、特定のユニットや担当者しか携われなかった業務を複数のユニットや担当者に分業化することを指す。これによって、それぞれの従業員は自分の役割に徹することができ、その役割を担うためのトレーニングを行うことで、早期に即戦力を培える。

●業務を一つにまとめてみる

分業化とは逆に、複数ある業務を一つにまとめるという手法もある。例えば、複数のユニットや担当者で行っていた業務を一つのユニット、または一人の担当者に集約するなどだ。また、日報をデイリーで提出しているにも関わらず週報も提出しているといったことはないだろうか。分ける必要があるかという視点が大切だ。

●時間を短縮してみる

業務に要する時間を短くするというアイデアだ。方法は色々考えられる。例えば、メールやチャットをチェックする時間を最小限に留める、高スペックなPCを使用する、PCのショートカット機能を使う、タスク管理ツールを活用する、などが挙げられる。

●アウトソーシングしてみる

「アウトソーシング」とは、単純な業務やマニュアル化しやすい業務を外部の人材や企業に委託するという手法である。ベースに、従業員にはコアな業務に専念してもらうという考えがある。逆に、そうでない業務は思い切って外製化してしまうというわけだ。「アウトソーシング」を活用することでコストダウンも期待できる。

●優先順位を付けてみる

社内のワークフローを見直し、業務の優先順位付けを行うのも良いアイデアだ。より優先順位の高い業務にリソースを割くことで、リソースの最適化を図ることができる。優先順位が低い業務に関しては、これを機会に今後は省略しても問題がないか、他のメンバーに割り振れないか、外部にアウトソーシングできないかと検討してみてはどうだろうか。限られた社内のリソースを有効に活用する視点が大切になってくる。

●業務のマニュアルを作成してみる

業務の進め方やルールなどをマニュアルとしてまとめることも、「業務効率化」につながりやすい。マニュアルがあるとミスの防止につながり、担当者が変わってもクオリティを担保しやすくなるからだ。当然ながら、作成にあたっては読み手が理解しやすいような工夫が求められる。手間はかかるかもしれないが、読みやすいほど成果を出しやすいと言えるだろう。

●業務のフローチャートを作成してみる

業務のフローチャートとは、どのような業務があるのか、1日や1週間をどんな流れで業務を進めていくのかをまとめたものだ。リマインドツールを組み合わせれば、作業を行うべきタイミングをメールなどによって知らせてもらえる。ただし、業務の流れが分かっていても、その内容が理解できていないと意味がないので、フローチャートとマニュアルはセットで用意しておきたい。

●データベースを活用してみる

「データベース」とは、その会社で使ってきたデータを蓄積したシステムを意味する。ここには、複数の社員が活用できる汎用的な情報が網羅されている。過去にどんな事例があり、どう対応したかも分かるので、担当者が異動になったとしてもスムーズに対応できる。

●業務の担当者を変えてみる

適材適所を心がけるだけでも、「業務効率化」に大きな効果がある。なかなか改善の成果が見られないのであれば、担当の変更はやむを得ないと言って良いだろう。実際、担当者が変わったら、急に業務がスムーズに流れるようになったというケースは珍しくない。

●データや情報を共有してみる

社内のデータや情報などの共有精度を高めることも、「業務効率化」への近道だ。必要に応じて社員が容易にアクセスできる環境が構築されていれば、時間も節約できる。ここでも効果を発揮しやすいのが、ITツールだ。例えば、ビデオ通話システムを利用して報告会を開催すれば、場所を選ばずに参加でき、ビジネスチャットツールを導入すればチームメンバーとリアルタイムで情報を共有できる。

「業務効率化」を図るうえでおさえておきたい9つのポイント

「業務効率化」は必ず成功するというものではない。やり方次第では、費やした工数やコストが無駄になってしまうこともあり得る。もちろん、そうならないようにしなければいけないので、次は留意すべきポイントを整理してみよう。

(1)手間やコストの増加に注意

現場にマッチしない手法を取り入れた結果、かえって手間やコストが増えてしまうこともあり得る。例えば、「ノー残業デー」だ。残業時間を削減するためにということで多くの企業で導入されている。しかし、実態として社員が仕事を家に持ち帰っているのでは施策の意味がない。形だけの制度を持ち込むと、悪循環になる可能性がある。

(2)品質の低下やミスの増加に注意

「業務効率化」を拙速に進めた結果、品質を低下させてしまったり、ミスが増えてしまったりする恐れがある。事前に、作業時間がしっかりと確保できているかを確認するとともに、ミスが立て続けに起こらないようフィードバックを怠らない姿勢が重要となってくる。

(3)すべてのアイデアを同時に実行しようとしていないか

成果を急ぐと、すべてのアイデアを一気に実行しようとしがちだ。だが、一度に多くのことを実行しようとすると、どうしても一つひとつが中途半端に終わりがちになる。もし、アイデアが複数浮かんだとしたら、着手しやすいものから始めていってはどうか。また、担当者の能力やキャパシティも考え併せて、確実なプランを立案するようにしたい。

(4)手段の目的化に気をつける

何のためにという目的や目標が明確でないと、手段の遂行自体が目的化してしまう。これでは、成果が導かれるはずはない。大前提として、「業務効率化」は生産性の向上や従業員の負担軽減が目的であるといった認識を従業員とも共有し、それぞれのスキルやリソースが無理なく発揮できる範囲で進めるようにしたい。

(5)現状をきちんと把握できているか

現場を知らない人が、業務改善に向けた施策を設計すると大概は失敗に終わる。現状に沿わない設計ゆえ、かえって効率を低下させてしまったり、トラブルにつながったりするからだ。業務設計をする際には、現状をきちんと把握した担当者に委ねるか、現場の声をしっかりとヒアリングした上で行うことが重要となってくる。

(6)業務効率化に向けた体制が整備されているか

現場の状況を踏まえずに、ただ単に改革ありきで新たな制度やシステムを導入してしまうと、業務に混乱が生じかねない。結果として、「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」が増えただけということになってしまう。実現可能な体制やフローをしっかりと構築してから、効率化の施策を実行することを心がけなければならない。

(7)ツールやシステムが使いにくくないか

ツールやシステムは「業務効率化」の切り札になるわけではない。せっかく導入しても、従業員にとって使いにくいものであれば、誰も手にしなくなるのは目に見えている。クチコミだけで判断するのではなく、「操作しやすいか」、「画面は見やすいか」などを実際に確認した上で現場に導入しよう。

(8)業務の質にこだわりすぎていないか

業務を進める際にクオリティを意識することは大切だが、こだわりが強くなりすぎると作業効率を低下させる恐れがあるので注意を要する。完璧であることだけを追求するのでなく、依頼者の目的に沿った水準をクリアすることに重きを置きたい。

(9)ミスはフィードバックに活用する

仕事にはミスが付き物だ。重要なのは、ミスを繰り返さないこと。それは、ミスを起こした本人に限った話ではない。同じ部署の他のメンバーも同じミスを犯さないようにする必要がある。そのためにも、ミスが起きてしまったら、フィードバックし、次のアクションに活かせるようにしていきたい。

「業務効率化」を進めていくうえでのコツとは

最後に、業務効率化を成功に導くためのコツを紹介しよう。

●現状を把握し、業務を可視化する

「業務効率化」を進めるうえでスタートラインになるのが、現状の把握と業務の可視化(見える化)である。まずは全体像を正しく把握し、業務の棚卸しを行い、「何をどのように」合理化・効率化させれば良いかを考えてみよう。

具体的には、それぞれの業務に関して以下の項目を確認する必要がある。「担当者の名前」や「人数・部署」、「作業工程」や「使用しているツール」、「求められるスキル」、「作業に要する時間、「発生する頻度」などだ。詳細に洗い出すことで、業務効率化に向けて正しい改善プロセスを描くことができる。

●どの業務を効率化するか

全体像が把握できたら、次はどの業務を効率化させるか、何がボトルネックになっているかを特定する。ここでのポイントは、効果が見えやすい業務を優先すること。そのためにも、定型化が図りやすい、発生頻度が多い、マニュアル化しやすいといった業務から着手することをお勧めしたい。もう一つのポイントは、コアといえる業務を選ぶことだ。そうでない業務はできる限り外製化(アウトソーシング)することも効率化の一環となるだけに、しっかりと仕分けを行う必要がある。

●どのような方法で効率化を図るか

どの業務を効率化するかを決めたら、次は「業務効率化」の方法を考察したい。その際の指針となってくるのが、「改善の4原則」である「ECRS(イクルス)」だ。どのように改善すればよいかを考える視点と言っても良いだろう。

・Eliminate(排除)
最初にチェックしたいのが、不要と思われる作業工程や業務を排除することだ。コストの削減につながりやすいので、利益率を向上させやすい視点である。

・Combine(結合)
関係性がある業務、類似した業務を結合し、まとめて行ってしまう。その結果として、ツールや備品、必要となるスキルセットを軽減することができる。

・Rearrange(交換)
作業工程を見直し、プロセスの順番を入れ替えるだけでも工数を大幅に減らすことができる。

・Simplify(簡略化・単純化)
作業工程の一部を簡略化したり、単純化できたりしないかと考えてみること。これができると工数も少なくなるので、ミスの防止や従業員の負担軽減を図れる。

●PDCAを回す

「業務効率化」に向けた取り組みでも、「PDCAサイクル」を回すことが重要になってくる。これによって、より精度の高い改善活動を実践していけるからだ。以下の4つのステップを踏んでいこう。

(1)Plan:業務効率化に向けた改善案の立案
(2)Do:改善案の実行
(3)Check:実行した結果を踏まえた改善案の評価・分析
(4)Action:評価結果に基づく、より高い効果を得るための改善案の立案と実行
ただ単に実践あるのみでは、「業務効率化」は何も成果を見いだせない。現場が抱えている問題をしっかりと把握・分析し、どんなアイデアや手順、工程を用いれば良いかを事前に十分に検討した上で適切に選択していこう。さらに、施策を実施した後には、どのような効果があったのかを検証・評価する必要がある。それらを社内で共有し、次の施策に活かしていく。そうしたスタンスを維持・徹底させていけば、必ずや「業務効率化」が実現できるといえる。冒頭で「業務効率化」のメリットとして、業務時間・経費の削減と従業員のモチベーション向上、新規ビジネスへの注力を挙げたが、いずれも企業が厳しい市場競争に打ち勝っていく上で不可欠になってくるものだ。「業務効率化」の恩恵を大いに享受してもらいたい。
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