2018年10月、経団連から「就活ルール」の廃止が発表され、日本独特の雇用慣行である「新卒一括採用」が変化を迫られている。すぐに大きく変わることはないだろうが、「通年採用」へと舵を切る企業が増えているのも事実だ。このように、採用市場がかつてない転換期を迎える中、企業の人事採用担当者の役割や採用業務は、今後どのように変化していくのだろうか。採用「する側」「される側」双方に知見の深い、株式会社人材研究所の代表取締役社長・曽和利光氏と、LINE株式会社で新卒採用支援ツール「LINE採用コネクト」の事業リーダーを務める鈴木隆明氏の二人が、採用の未来について議論を交わした。本記事では、その対談の模様をお届けする。

ゲスト

  • 曽和 利光 氏

    曽和 利光 氏

    株式会社人材研究所 代表取締役社長

    愛知県豊田市出身。京都大学教育学部教育心理学科卒業。株式会社リクルート、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。2011年、株式会社 人材研究所を設立。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。
  • 鈴木 隆明 氏

    鈴木 隆明 氏

    LINE株式会社 HRサービス事業部 マネージャー

    2010年、新卒で外資系SIerに入社し、エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、大手通信事業社にてモバイル事業のサービス企画や新規ビジネス開発、外資系コンサルティングファームにて新規事業の立案支援プロジェクトを担当し、2018年にLINE株式会社に入社。「LINE採用コネクト」の事業リーダーとして、サービス立ち上げに従事。
通年採用競争は学生と「長くゆるくつながる」ことで勝ち抜ける。時代の変化に対応するため、人事採用担当者は何をすべきか

新卒採用活動は、「非日常のお見合い」型から「日常の自由恋愛」型へと変化していく

鈴木氏 本日は、新卒採用を取り巻く環境が変化する中、人事採用担当者が直面する課題や、業務の変化などについて、お話していきたいと思います。まず、新卒採用市場の潮流についてですが、「新卒一括採用」から「通年採用」への変化について、曽和さんはどう感じていらっしゃいますか。

曽和氏 ここ最近の採用難を背景に、通年採用の動きは既に始まっていますよね。それを、あとから肯定していく形で、経団連が形骸化された新卒採用スケジュールを撤廃したというのが現状だと思います。

鈴木氏 確かに、一括採用の解禁前から、学生さんと接点を持っていらっしゃる企業は多いですね。当社は、新卒採用向けのクラウドサービス「LINE採用コネクト(※1)」を提供しています。利用してくださっているお客様は中小企業が多いのですが、この採用難で充足することがなかなかなく、自然と通年採用へと移行している印象ですね。

曽和氏 この流れを、私は「採用活動・就職活動の日常化」と呼んでいます。以前はスケジュールががっちりと決まっていたので、学生さんは解禁日に「今から就職活動するぞ!」と気合を入れ、いつもとは違う意識で臨んでいました。つまり「非日常」だったのです。しかしこれからは、日常生活の中で企業と個人が出会い、お互いの理解を深めて、最終的に採用・就職に至るという時代になっていくでしょう。

従来の就活の「お見合い」型から、通年採用によって「自由恋愛」型に変化した、というと分かりやすいかもしれないですね(笑)。場所と時間を決め着飾って会うという状況から、いつどこで出会いがあり、いつ気持ちが盛り上がるのか分からない、という状況になってきたといえます。


※1 LINE採用コネクト:LINE株式会社が提供する新卒向けの採用支援ツール。学生が使い慣れているコミュニケーションツール「LINE」を使って、企業が学生と直接やりとりできる。連絡を取りやすくするだけでなく、採用業務の効率化や説明会の参加率向上などを図るべく開発されており、LINE社によると「内定承諾率の向上」、「採用業務の効率化」、「説明会・インターンシップの参加率向上」といった課題が解決できるという。

公式サイト:https://lin.ee/cTYF7Tk/hrcn
通年採用競争は学生と「長くゆるくつながる」ことで勝ち抜ける。時代の変化に対応するため、人事採用担当者は何をすべきか

通年化は、知名度や採用ブランド力の低い企業にとって大きなチャンス

鈴木氏 「お見合い」と「自由恋愛」のたとえは、大変分かりやすいですね(笑)。こうした流れの中で、人事採用担当者の方々も「今何が起こっているのか」、「何をすればいいのか」と苦心されていらっしゃいます。どういうところに気を付けるべきでしょうか。

曽和氏 カジュアルなつながりを長期的に持つことですね。日常的な出会いをその場限りにせず、コンスタントにつながる「タレントプール」をつくる。そして、特に「就職」を意識しないうちから、お互いに少しずつ情報を交換していくのです。「自由恋愛」って、タイミングが大事ですよね。いつ何時、相手の気持ちがこちらに傾くか分かりません。その変化の瞬間に「近くにいること」が、とても重要です。その点で、まさに学生さんが日常的に活用しているLINEのようなコミュニケーションツールは最適だと思います。

鈴木氏 これは、地方学生や海外留学中の学生、忙しい理系学生など、これまで就職活動における情報格差があった層ともつながりを持てるというメリットがありますね。
通年採用競争は学生と「長くゆるくつながる」ことで勝ち抜ける。時代の変化に対応するため、人事採用担当者は何をすべきか
曽和氏 まさにおっしゃる通りです。もう一つ、採用の日常化のメリットとしては、着飾らないカジュアルな状態でつながるがゆえに、深く知り合うことができることです。そうすると時に、採用ブランドの高い企業から内定が出ているのに、学生さんはその企業を辞退して知名度の低い企業に入社を決めるという、「ジャイアントキリング」が起こります。

鈴木氏 条件面や知名度といった表面上の条件ではなく、よりカジュアルなつながりで相互理解を深めたからこそ起こる現象ですね。

曽和氏 就職ナビサイトは、オープンでフェアという利点があります。しかし、お見合いでいえば釣書やプロフィールのようなもので、そこに来る人はどうしても相手を条件面で探しがちです。もちろん、就職も同様に、「楽しい仲間といい仕事をして、幸せになりたい」というのが本質だと思いますが、スケジュールも出会いの場も決まっている状況では、すぐに判断できません。だから、条件から入ってしまうのです。

しかし、日常の中で意識しない“素”の状態で知り合えば、お互いの人となりを理解した上で決めることができる。知名度や採用ブランドの低い企業には、逆にチャンスといえる状況です。

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