社長になって私はまごまごしていただけでしたが、有難いことにお客様方からの様々な注文がありました。また、社内イベントなどの機会も数多く訪れました。例えば、創立20周年記念の行事や、DDI社の新商品の次々の紹介など。その頃の新商品は、IM(対話の質の向上を計るインターアクション・マネジメント)、TS(適材の採用を目指すターゲット・セレクション)、TM(管理能力の向上を目的とするターゲット・マネジメント)などでした。
第15回 社長、会長時代は幸運にも教育産業が活発だった
これらを順々に紹介するセミナーがあり、そのセミナーには、それぞれ権威ある先生方のご協力がありました。DDI社のコンサルタントのかねてからの恊力で創ったOMプログラムも、この頃の新商品の一つです。これは海外で働く日本人管理者向けの商品で、OMの名はAccess to Success Oversea Managersからきています。またちょうど、いくつかのテーマの書籍を出版したり、何社かの営業支店を地方都市に作ったりすることも重なり、今振り返っても大変忙しい時期でした。

他にもこの頃、知人の先生からこのような誘いを受けました。「中国政府の一部門である中国管理科学訓練中心という所から、社員教育について交流を申し込まれている。あちらでは日本が敗戦後の復興をスピーディに成し遂げたのは、多くの企業において中間管理者の力が顕著だったからに違いないと思っているらしく、日本の管理者教育の話を聞いてみたいそうだ。だから、一緒に行こう」と。5~6名程のメンバーで行くとのことだったので、私はこれに同行することを決めました。以後このプロジェクトでは、8年間にわたり、中国の各省への訪問を続けました。

この時期には、教育コンサルタントの同業者も増え、いくつかの他社と時々集まっては情報交換をし、時には仕事を紹介して頂くこともありました。訪韓して韓国の大企業で管理者教育をする機会を得たのも、その流れからです。振り返ると、いつもこのように周囲の方たちに援けて頂いていました。

雇用機会均等法が1985年に成立し、翌年、実施ガイドラインが出て、働く女性にとっては元気になれる空気が生まれした。私は御先走りで、最早、女性講師を女性の仕事だけに囲い込む時代ではないと、女性能力開発部を解散して、男女講師の区別を無くしました。しかし後に分かるのですが、これは良い決断ではなかったのです。

というのも、その頃から盛んになり始めていた、アセスメント・コースへの女性講師活用が、できなくなってしまったのです。お客様からは「女に男性社員の評価なんか出来ない」と言われ、女性講師には、男性社員の研修注文は入らず、女性社員の研修注文しか入りませんでした。

この状況が変わったのは、部下が女性ばかりの男性管理者が、部下管理に苦労するようになってからでした。そのような時代になってからようやく、男女講師が一緒になってアセスメントをやるようになりました。

様々なことにあたふたしているうちに、25周年の記念パーティがあり、隣に新しいビルが出来、そこへ移転…。まさに「居は気を移す」で、この移転により、皆が一層元気になりました。この移転の決め手となったのは、友人の一言でした。それは、「チャンスの神様は前髪だけだから、何事も機会があったら迷わず、その前髪を掴め」という言葉です。

そうこうしているうちに、インストラクター養成コースは100回目を迎えました。各企業からの参加者たちの多くは、研修後もMSCの女性の能力開発企画に、積極的に協力してくれました。女性のための研修テーマも次第に広がってゆきました。DDI社の紹介で各社の女性講師たちを訪米させ、テレマーケティングのコースに派遣したり、また7年間にわたり、各社の中堅女性で仕事の業績がめざましい人達を誘って、アメリカの西海岸地域の企業訪問や家庭訪問をするツアーを行ったりしました。とても充実していましたが、その一方で、社長としてこんなに走り回っていて良いのかと反省しながらの毎日でした。

1991年にいわゆるバブル景気が突然ストップしました。しかし、教育産業は不景気の影響が2~3年ほど遅れて来るので、アセスメント・コースも健在のまま、アセッサー養成コースは100回目を迎えました。私は社長に任命された時「やるとしても70歳までね」と約束したので、1993年6月初めに尾崎社長と交代し、会長になりました。尾崎社長は坂田副会長と一緒に本社ビルを建設し、1996年に移転することが出来ました。とても運の良い社長、会長時代だったと感じています。

その後、相談役や顧問として立場的には気楽になったものの、引き続き、MSCのPR係として働いています。考えてみれば、私の社長時代など、周りの皆に助けられて何とかやれてきたようなものです。ですから、若い女性の皆さん、突然、難しい仕事を任命されても必ず周囲の人々が援けてくれるので、ぜひ進んで引き受け、楽しく取り組んで下さい。
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