今年も学生からの、いわゆる「オワハラ」の相談が増える季節となりました。オワハラとは、企業が就活生に対して内定を出すことを条件に、他社の選考を辞退するよう強要する行為のことです。このオワハラが季節の風物詩みたいな状態になるのは、決して良いこととは思えないのですが、相変わらずなくなりそうな雰囲気ではありません。今回はオワハラについて、私見を書いてみたいと思います。
第68回 オワハラ
まず、オワハラにはどのようなケースがあるのか挙げていきましょう。一般的な類型としては、下記のようなパターンになると思われます。(出典:東洋経済ONLINE『「若き老害」常見陽平が行く サラリーマン今さら解体新書』より)

1. 他社の内定辞退を強要する→その場で辞退を要求する、または遠回しに辞退を迫ってくるケース
2. 他社の選考を受けられないようにするケース
3. 自社の内定を辞退しようとした人を脅すケース

本学で相談を受けるケースでは、一番多いのが1、次に3です。2はあまり聞いたことがなく、1と3の混合型であれば、時々あるような気がします。

具体的な事例としては、
A.「最終面接で、面接官の目の前の固定電話を使って、すぐに選考中のすべての会社に辞退の電話をかけるよう強要された」
B.「最終面接の前段階で、他社の状況を確認され、内定したら入社すると約束しなければ、最終面接には進ませないと言われた」
C.「最終面接で、入社するなら内定を出すが、それが即答できないなら不採用だと言われた」
D.「選考を辞退しようとしたら、大学との関係性を損なうと脅された」
などがあります。

またちょっと変わった事例では
E.「一度採用通知をもらったが、間違いであったとされ、辞退を強要された」
というのもありました。

このようなオワハラが起こる原因としては、おおよそ以下の3つが根底にあると感じています。

①採用担当の知識不足
これは、人事もしくはリクルータが、労働法を正しく理解していないために、起こしてしまうケースです。上記のCのケースは、状況にもよるでしょうが、合格基準に達しているということを学生に伝えた時点で、内定を伝えたと受け止められます。それを学生が辞退するかもしれない可能性を示唆した場合は、取り消してしまうというのは、内定取り消しに当たるでしょう。採用現場で学生の窓口対応をしている社員の勉強不足とも言えます。

②組織の隠蔽体質
辞退者が出たことを上司に報告しづらいので、採用担当が自らの保身のため、学生にオワハラを強要するようケースです。B、D、Eなどがこれにあたります。
(ちなみにDに関しては、詳しく話を聞くと、学生側のほうが誠実さを欠いているケースもあり、人事へ謝罪に行ったことが何度かあります。)

③法令無視
学生は労働法についてそこまで詳しくないので、企業が確信犯的にうそをついているケース、あるいは、法的には正しくても、道義的に疑問視せざるをえないケースもあるようです。Aがまさにそれにあたるかもしれません。このような企業は、典型的なブラック企業体質と言えますが、最近は少なくなってきたように感じます。
(ちなみにAのようなケースで相談を受けた学生の一人は、その場でその会社を辞退したそうです。)

オワハラの相談に来た学生は、言うなれば、3通りの感情が入り混じっている状況です。それは「悲しさ」と「悔しさ」、そして「情けなさ」だと思います。

最終選考まで残った会社というのはつまり、そこで働く自分の将来の姿を重ね合わせていた会社ということ。そんな会社からハラスメントを受けるというのは、我々が考えている以上に、学生の心にダメージを与えていると思います。裏切られたという「悲しさ」と「悔しさ」、そして、そのような会社へ応募してしまった自らの「情けなさ」を感じるのではないでしょうか。

学生にとって、最終的に自分の将来をどの企業に託すかという決断は、とても重いものです。「怖くて決められない」という相談も、実は、この時期に学生から多く寄せられます。だからこそ本学では、自分自身の意思で後悔のない決断を促すような指導と支援を行っています。こうした状況での企業側のオワハラは、百害あって一利なしです。

もちろん学生側が、未熟さゆえ不誠実な行動をとってしまう部分もあると思います。また労働法で労働契約解除権が労働者側に認められているからといって、その権利を濫用しても良いとも思いません。

しかし、こうした様々な要因や思惑が絡み合う中で重い決断を行う場であるからこそ、学生側も企業側も、お互いに自らの行動を律し、“かっこよさ”にこだわることも大事かなあと思います。
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