HR総研が発行する「HR総研 人事白書2016」では、人材育成に関する調査結果を報告している。そのうち、今回は2016年3月に調査した「新入社員教育」についての調査結果をレポートする。

新入社員研修について人事の皆様に質問をするにあたり、近年の新入社員の傾向について質問した。回答結果をまとめると、これまでの世代と比べて、「まじめで受身的。他者との争いを好まず、自分の時間を大事にする」という傾向だという。

そうした新入社員に対して、どういう研修を行うのか。学生から社会人へのマインドの転換をはかるために「社会人としての心構え」はほとんどの企業が行っている。「マナー」「会社の仕組み・ルール」が8割以上で、この3つが新入社員研修の3種の神器といえるだろう。

新入社員研修を集合研修形式で行っている企業は、9割以上。1001名以上規模の企業では、1か月以上の集合研修を行っているのが23%、1か月程度が28%あり、じっくり新入社員育成をする企業が半数以上に上る。しかし300名以下の中小規模企業では、集合研修は3日以内というところが1/3もある。企業規模が大きいほど、新入社員研修への時間のかけ方が大きいことが明らかだが、中小企業では研修を行わない分の育成を、その後どのようにしていくのかが課題となるだろう。

※企業規模別の数値、自由記述による課題提示等の詳細は、ログインの上、ぜひご確認ください※

新入社員研修は89%が実施で、過半数が自社内リソースによる実施

2016年度において「新入社員教育」を実施するかについては、89%の企業が「実施する」と回答している。「今年の新入社員から取りやめた」(2%)、「前年同様実施していない」(9%)という企業も見られた。規模別に見ると、1001名以上の大規模企業では98%が実施、300名以下の中小では80%が実施となっていて、中小規模で新入社員研修を実施しない企業が見られる。
グラフ表示はしていないが、新入社員研修を内製化するか外部委託するかについては、56%が「自社(グループ会社)で実施(内製)」と回答しており、過半数は自社内のリソース活用である。

〔図表1〕2016年入社の新入社員に対する「新入社員研修」の実施

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

近年の新入社員は「まじめで受け身、他者との争いを好まず自分の時間を大事に」

調査時点は3月だったので、まだ本年の新入社員が入ってきていない状況での回答であるが、「近年の新入社員について、これまでの世代と比べて感じていること」を聞いた。回答で最多となったのは「まじめである」で68%だった。続いて「受身的である」が61%、そして第3位に「他者との争いを好まない」「自分の時間を大事にする」が同率42%となった。

自由記述で「優れている点」を尋ねたところ「とにかくまじめ。一生懸命ついてこようとする誠実さがある。またヨコのつながりを重要視するためか 落ちこぼれたくない?ため復習がよくできている。」(301~1000名、商社・流通)、「まじめで周りの空気を読もうとする」(1001名以上、メーカー)などの意見が多く見られた。またITに慣れている・強い、プレゼンテーションが能力(がある)などの声も上がった。

逆に「以前に比べて劣っていると思われること」を聞くと、「叱られ慣れてないので打たれ弱い。自発性が弱い。受け身。」(1001名以上、メーカー)や「メンタルが弱い。我慢が出来ない。良い意味でとがっている人がいない。争いを好まず、悪く言うと仲良しこよし。」(301~1000名、メーカー)などがあがり、人事としては物足りなさを感じているようである。

では人事は近年の新入社員に対してどのように対応しているのだろうか。「何らか対応していること」を自由記述で聞いたところ、「プロジェクトワークなど、正解がない、しかも比較的長期に渡る課題に取り組ませる」(1001名以上、メーカー)、「新入社員研修のなかで、ディスカッションやワーク系を多く取り入れている。」(301~1000名、サービス)、「ローテション研修を実施したり、指導役を設けたりすることで社内での関係構築に力をいれている」(1001名以上、メーカー)といった工夫をしている。まじめ、誠実さという長所を生かしながら、受け身を脱することができるように支援していく必要がありそうだ。

〔図表2〕近年入社の新入社員について、これまでの世代と比べて感じていること

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

新入社員研修の内容は「社会人としての心構え」が最多で94%

新入社員研修の内容は「社会人としての心構え」が最多で94%、次いで「マナー」が89%、「会社の仕組み・ルール」が82%となった。続いて「コミュニケーション」(77%)、「報連相」(74%)、「コンプライアンス」(70%)である。やはり、一日も早く学生気分を抜け出させて社会人として一人前にするということである。

自由記述にて具体的な新入社員研修の内容を聞いた。「連続6日間の合宿形の集合研修・人事部と関連部署の社員が役割を持って運営する」(1001名以上、サービス)、「マナー系(外部講師2日半)、
段取り、報連相(外部講師2日間)、社内の歴史、事業、個人情報など約1ヶ月、ストレスマネジメント(産業カウンセラー半日)」(301~1000名、情報・通信)などである。
またIT系企業やメーカーでは、業務知識やスキルの研修に時間をかけている。
「自衛隊の入隊体験(3日間)への参加」という企業もあった。調べてみると、自衛隊では国民に自衛隊への理解を深めてもらうために企業・団体を対象として隊内生活体験を受け入れているそうである。マインド面や集団行動教育としては有効ということなのかもしれない。

〔図表3〕新入社員研修の内容

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

「新入社員研修後は現場が育成できるように人事は支援」が約半数

新入社員育成の実施の方針として、人事がどのような役割を果たすのかについて聞いた。最も多い回答は、「新入社員研修後は現場が育成できるよう人事部は支援する」で47%、次いで「社会人一人前になるまでは会社の責任と考え新入社員研修後も引き続き人事部主体でフォローしていく」が26%である。「新入社員研修後は現場に一任する」は24%だった。

企業規模別に見ると、大規模ほど新入社員研修後も人事がフォローする割合が高く34%である。大規模企業では新入社員の数が多いので、新人は当面人事部が面倒を見るという傾向が高いのだろう。

〔図表4〕新入社員研修の実施方針・人事の役割

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

集合研修は大規模では1か月程度が最多28%、1か月以上が23%

新入社員研修の実施方法のうち集合研修を実施するのは93%である。では集合研修を何日間ぐらい実施するのだろうか。全体としては「1週間程度」が第1位24%、「2週間程度」が第2位19%、第3位は「1か月以上」17%である。続いて「1か月程度」が16%だ。

新入社員研修の期間は、企業規模が大きい方が長期間実施している傾向がある。規模別に見ると、1001名以上規模の企業では「1か月程度」が最多の28%、続いて「1か月以上」が23%だ。

300名以下の中小規模では、「1日」が12%、「2日」が5%、「3日」が16%であり集合研修の実施が3日以内の企業が1/3もある。3日程度で学生から社会人への転換というのはなかなか難しいと思われるので、その後の現場へのフォローなどで、新入社員をサポートしてほしいものである。

〔図表5〕集合研修の実施日数

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

新入社員研修の効果検証は「受講時アンケート」が最多の57%

新入社員研修の効果検証をどのように実施しているかについて聞いた。結果は、「受講時アンケート」が57%と最多、続いて「レポート」(46%)である。「3カ月後・半年後アンケート」(32%)、「研修内で実施した課題等のフォロー」(30%)、「配属先上司の評価」(28%)などの回答があった。

前出のとおり、新入社員研修の第一の目的は「社会人としての心構え」の定着化なので、受講時に社会人としてのマインドが定着したかについてアンケートをとることでその効果を検証する、というのは妥当な方法だ。レポートは人事が効果検証できるだけでなく、受講者に書くことによって意識の変化を認識させるという効果もある。また職場に配属されてから、研修が業務に役立っているかをアンケートや課題のフォローで調べるのも有効だが、いずれも人事としては手間のかかる方法だ。「まじめで受身的」な新入社員を、少しでも自社の戦力に近づけるための新入社員研修。しっかり効果検証を行って、次年度に生かしていきたいものである。

〔図表6〕新入社員研修の効果測定の方法

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

定着してきた新入社員フォロー研修、実施率は64%

新入社員フォロー研修を実施しているかについて聞いたところ、「実施している」が64%、「実施していない」が36%であった。規模別に見ると、1001名以上では87%が実施しており、301~1000名では70%、300名以下で47%である。大規模企業ほど新入社員フォロー研修の実施率が高いことが判明した。大規模企業では、新入社員の人数も多いので、こうしたフォローをすることが人事の役目として定着しているのであろう。

フォロー研修の実施にあたっては、自社で内製するケースが7割以上で、半数の企業が入社半年後に実施している。新入社員はフォロー研修に参加する時点で、モチベーション維持の課題や、配属先での悩みを抱えているケースが多いと、半数以上の人事が回答している。「新入社員フォローにあたり具体的な課題」を記述してもらったところ、「自分たちの行動の振り返りをさせている。他工場の社員とも交流させることで、自発的な向上心をつけさせる」(1001名以上、メーカー)、「モチベーションの維持と同期の結束力」(301~1000名、メーカー)などが挙げられた。一方、人事側の課題も多く、「新卒の人数に対して人事のスタッフ数が不足している。結果、フォローが行き届かない。」(301~1000名、メーカー)といったリソース不足を嘆く声や、「悩み事を引き出すことが難しい。」(300名以下、メーカー)という声も聞かれた。

苦労して採用した新入社員を、社会人として育成して自社の戦力にしていく、その第1歩となる新入社員研修。会社の期待に添えるように、人事はフォローも含めてその育成に力を入れていきたい。

〔図表7〕新入社員フォロー研修の実施

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【2】新入社員研修

【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年3月9日~3月17日
有効回答:162社(1001名以上:47社、301~1000名:44社、300名以下:75社)

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