人事コンサルや企業人事はドラッカーの『現代の経営』を参照し、「目標設定に関わることでモチベートはあがる」ことを前提におき、目標をちゃんと書くための書き方や納得のいく面接スキルを評価者に身に付けさせようと研修を繰り返し継続している。
目標管理が機能しない本当の理由

 しかし、今一つ成果が上がっていないのはなぜだろうか。
 目標を作文する能力が高まるだけで、目標管理の本来の狙いが満たされていないのが現実。現場も「人事のルールなのでやっている」と、人事の想いとは裏腹に「やらされ感」が蔓延しており、実際のマネジメントは別フォーマットを活用する等、マネジメントの羅針盤として機能しておらず、あくまでも評価のツールでしか活用されていないのが実態である。

 なぜ理論通りにいかないのか。
 高い目標にチャレンジするリスクや労力と、得られる評価結果と昇給賞与が見合わない、高い目標を達成すると翌年はもっと高い目標を現在と同じ立場で達成しなくてはならなくなることが現場にバレてしまったからだ。
 「仕事の報酬は仕事」と言っても、人員補充や役割変更があるケースは稀で、今の仕事の上に、さらに仕事が付与されることになるなど、前向きにチャレンジすることを支える人事や職場の土壌が手薄なため、挑戦するメリットよりデメリットを強く感じているのが現状である。

 また、中期計画等、やるべき役割や主となる目標は事前に決まっているため、大きくいじることはできないし、バブル崩壊以降、多少の景気の上下はあったものの、目に見えて未来が明るくなったこともなく、仕事がハードになる割に処遇では報われず、「自らビジョンを設定して、輝く未来に向けて打ち手を考えよう。」と言ってもイメージすることすらできなくなっていることも挙げられる。
 ゆえに、中期経営計画や上司から課せられる目標を人事の指示通りに作文して、目標設定シートに書き込むことが繰り返されるだけの「存在」に陥っているのだ。

 そこでキーになるのは「目標の書き方」や「面接の仕方」等ではない。確実に売上や成果をあげ、達成感や成長を与えるように「目標の中身」のレベルアップをはかれるように指導や人事の打ち手を変えることである。
 現場は目の前の仕事に追われているので、シンプルな道具を用いて思考を切り替え、勝ちにつながるヒントを得るところから始めるとよい。

 具体的には、(1)解決志向、(2)キーとなる指標の見直しの2つの道具を使えばよい。
 (1)解決志向は、文字の通り、「目指す姿につながるために「解決」すればいいことにフォーカスして施策を考えるという発想法であり、グローバルでは普通に用いられている問題解決の考え方である。NASAとケネディ大統領が本気で「人類は月面に立つ」とアポロ計画を考えたがゆえに成功したことと同じ発想視点になる。当時の技術のボトムアップでは10年で計画達成は無理であったため、どうすれば月面に人類が立てるか、達成された姿と、何を解決すればよいのかに集中して進めたために成功したと言われている。飛行機を改善していたらいつの間にか月面到達可能なロケットになったわけではない。
 特に日本の現場は、まず目の前でできそうな改善から着手する癖がついているため、大局から見ると外すケースがある。ところが、視点を変えて解決志向で問題解決を考えると、スジのよい論点やシナリオが見つかることが多い。例えば、コストダウンで「電気をこまめに消す」を徹底するよりも、「LEDに取り換える」方が効果は高いが、現場ではついつい近視眼的なり「こまめに消す」方に走りがちだ。解決志向で考える癖をつけることが大切だ。解決志向はチーム全体の士気をあげることにもつながる。

 解決志向でシナリオを描くヒントとして、(2)キーとなる指標の見直しを考えて見ると新たな打ち手が見えてくる場合が多い。シナリオは追いかける指標の意味合いともいえ、指標を変えることで打ち手も大きく変わってくる。進め方は、業務のコアとなるプロセスとキーとなる指標を書き出していき、今大事にしている指標に丸をつけ、「仮に指標を前後に変化させたら打ち手がどう変わるか」を考えるとよい。例えば、英会話学校G社の新規勧誘のプロセスは、PRして生徒をカウンセリングに持ち込み、クロージングするという流れであった。そのため成約率を上げるためには、PRを強化し、カウンセリング数を増やすことを指標にしてマネジメントをしていたが、コストや労力がかかる割に成果が出なくなってきた。そこで、指標をクロージング率向上に変更して打ち手を考えて実施したところ、成約率が2倍に跳ね上がった。このように現場は、今現在の指標を追いかける癖がついているので、あえてキーとなる指標をずらして考えることで、新たな改善の道が見つかることも多い。

 最後に、シナリオの是非は「成功要件おさえているか」という観点で検証、判断しよう。オセロで勝利に近づくために、「四隅を取る」ことがシナリオに入っているかということである。現状の延長でしか考えられないと近視眼的に「目の前のコマをひっくり返す」ことに集中してしまい、苦しくとも目の前のことを頑張るに陥り、それが行動計画に現れる。スーパーやコンビニ等で自社商品の売り上げを伸ばすには、「顧客の目につき、手に取りやすい棚をおさえる」ことがポイントのように、ビジネスによって成功要因はある程度決まっている。それを行動計画から落とさないようにすれば、自ずと勝ちに繋がりやすくなる。

 以上の2つの視点、目標の中身を見直すことで、意外と簡単に行動計画のレベルが上がり、現場の士気も上がる。ぜひお試しあれ!

HR総合調査研究所 客員研究員 松本利明
(人事コンサルタント)

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