矢野経済研究所は2023年7月27日、「データ分析関連人材規模」に関する調査結果を発表した。調査期間は2023年1月~7月で、国内のIT事業者、ユーザー企業および自治体などから回答を得ている(有効回答数非公開)。本調査により、データ分析関連人材の採用や研修、育成方法などの現況および職種別の動向、さらに将来展望が明らかとなった。

2025年度の「データ分析関連人材規模」は2020年度の約2倍に。各企業が急ぐ“データサイエンティスト”の採用・研修の取り組みとは

データ分析関連人材規模は2025年度に向け上昇する見通し。4人材のいずれも需要高く

データ分析関連人材市場では現在、新卒採用・中途採用を問わず、AI人材を含むデータサイエンティストを中心に、各企業で採用活動や研修プログラムなどの環境整備が進んでいる。データ分析人材の育成が進む中、その人材規模はどのように推移していくのだろうか。なお、データ分析関連人材とは、データ分析プロジェクトに携わるチームを構成する、分析コンサルタントやデータサイエンティスト、分析アーキテクト、プロジェクトマネージャーの4人材を指す。

矢野経済研究所は、「国内のデータ分析関連人材規模(人数ベース)」について、2020年度から2025年度まで(2023年度以降は予測)を対象期間として調査した。すると、2020年度は8万2,430人、2021年度は9万2,540人、2022年度は10万5,200人と増加傾向にあることがわかった。また、2023年度以降も徐々に上昇し、2025年度の国内データ関連人材規模は17万6,300人に達すると予測している。

職種別に見ると、DXやデータドリブン経営の推進を背景として、データ分析案件の増加や内製化の進展に伴い、4人材のいずれも伸びていく見通しとのことだ。
国内のデータ分析関連人材規模予測

企業は「ジョブ型採用」や「社外研修」の導入でデータ分析関連人材の獲得を目指す

データ分析関連人材の人数規模は上昇傾向にあるものの、獲得競争は加速状況にあるようだ。特に中途採用で競争率の高さが見られ、当該人材は全般的に不足しているという。

まず新卒採用では、大手IT事業者が、データサイエンティストを中心にジョブ型採用を推進している。ユーザー企業では総合職など従来からの一括採用をベースにしながら、IT系の職種を中心に一部でジョブ型採用にシフトしつつあるとのことだ。データサイエンティスト職種を中心に、スペシャリストとして採用する動きが出てきているという。

中途採用では、IT事業者・ユーザー企業問わず、即戦力のデータサイエンティストの採用が積極的に行われている。特にユーザー企業では、電気や自動車、化学、製薬などの製造業や流通・小売業、金融業を中心に積極的に採用活動を行っているとのことだ。

また研修面において、IT事業者は社内研修にとどまらず、リスキリングニーズも相まって社外に向けた研修を提供する傾向にあるという。ユーザー企業では外部の研修プログラムを取り入れたり、地元の大学と連携した高度なプログラムの整備をしたりと、急ピッチでプログラムの整備を進めている状況だ。

データサイエンティストの不足が企業の課題となるなか、教育機関でもデーターサイエンス学部・大学院の設置が急速に普及し、データサイエンティストの輩出に取り組んでいる。しかしながら、教師の不足は引き続き課題にあるようだ。

IT事業者では「仕組みづくり」、ユーザー企業では「多層的な研修プログラム」を推進

それぞれの企業および団体では、データ分析関連人材の定着に向けて、どのような取り組みを行っているのだろうか。

IT事業者では大手を中心に、優秀な人材確保に向けてさまざまな施策が行われている。例えば、自社独自の認定資格や柔軟なIT環境の整備、社内外向けのハッカソン参加のほか、トップ研究者の確保に向けた有期雇用での特別な雇用制度を設け、能力に応じた高額な年俸制度の整備する動きなどが見られるという。

ユーザー企業においては、データサイエンティストの育成と併せて、経営層やマネジメント層、および全社員に向けた研修プログラムを提供する企業もあるという。多層的な研修プログラムを通じて、データ分析関連人材の育成を進めているようだ。

また自治体においても、全庁的にEBPM(※)を推進するべく、データ分析関連人材の採用や育成に向けて取り組んでいるという。

※EBPM:Evidence-based policy makingの略。製作目的を明確化したうえで、政策効果の測定に重要な関連情報やデータ(エビデンス)に基づく政策立案を進める取り組みのこと。“証拠に基づく施策立案”ともいわれる。

将来展望として「スペシャリストの需要」や「専門部署の設立」が多くなると予測

今後IT事業者では、DX関連プロジェクトを推進していくうえで、データサイエンティストや分析アーキテクトのようなIT寄りのスペシャリスト、特にビジネスとしての成功を目指す分析コンサルタントの重要性が一層高まっていくと見られる。

またユーザー企業では、データドリブン経営の浸透に伴い、データ分析の内製化に向けた機運が強まっており、データサイエンティストや分析アーキテクトを中心とした専門部署を創設する企業もあるという。データ分析の活用は、データ分析支援に係る専門部署にとどまらず、事業部門側でも事業の効率化や新事業の立ち上げなどにおいて広がりつつあるとのことだ。

本調査結果から、データ分析関連人材規模は2020年度から拡大しており、今後も2025年度に向けて拡大していく見込みであることがわかった。さまざまな企業や団体で同人材の需要が高まるなか、企業が人材獲得に向けた様々な施策に取り組んでいる様子もうかがえる。今後さらに専門性の高い人材の確保が必要となることを踏まえ、自社での採用計画や研修内容の策定を進めてみてはいかがだろうか。

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