一般的なサラリーマンが加入している健康保険では、お子さんや配偶者を、いわゆる「扶養」に入れている方が多いと思います。扶養に入ることができれば、保険料が追加されることなく健康保険に入れるのですから便利ですよね。さて、扶養に入っている人を「被扶養者」と呼ぶのですが、この被扶養者になるための条件として、「国内居住要件」が2020年4月1日から追加されました。普通に解釈すれば「日本に住んでいることが条件」となるのですが、たとえばお子さんを海外に留学させたい場合はどうなるでしょうか。今回は、「被扶養者の国内居住要件」がどのように規定されているのかを見ていくことにしましょう。
健康保険の被扶養者になるための追加条件「国内居住要件」を知っていますか?

そもそも「被扶養者」には誰がなれるのか

一般的には、お子さんや配偶者の方を入れていることが多い「被扶養者」ですが、実は被扶養者になれる方の範囲は案外広いのです。その分、条件も規定されているのです。それでは、具体的に誰が被扶養者になれるのかを確認しましょう。

(1)被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人

配偶者については、いわゆる事実婚のような状態の方も含みます。また、「生計を維持」と書いてありますが、これらの方は、必ずしも同居していることが条件になっているわけではありません。「生計を維持」というのは、生活の基礎を被保険者の方が支えている、というイメージです。

たとえば、お父さんが正社員で月収20万円、奥さんがパートで月収5万円、あと小学生のお子さんがいる家族の場合、この家族の生計は、お父さんが維持している、と考えられる訳ですね。なので、お父さんが被保険者の場合、他の条件を満たせば、奥さんやお子さんを被扶養者に入れることが可能になります。

次に、「直系尊属」という聞き慣れない単語がありますが、直径尊属というのは、父母や祖父母、曽祖父母などの、自分より世代が上の直接の祖先にあたる一族の方々のことです。ですので、自分の子どもを直系尊属とは言いません。この(1)にあたる人々は、自分にとって一番濃い家族関係にある人たちということになりますね。

(2)被保険者と同一の世帯で、主として被保険者の収入により生計を維持されている人で次にあげる人
(a)被保険者から見て、先述した(1)以外の三親等以内の親族
(b)いわゆる事実婚の状態の方にとっての父母や子ども
(c)(a)の配偶者が亡くなったとき、残った父母や子ども

ここに出てくる、「同一の世帯」というのは、同居をしていて家計のお財布が同じ状態のことをいいます。たとえば、同居をしていて家計が同じであれば、甥っ子や姪っ子も被扶養者になることができますが、4親等である従兄弟は被扶養者に入れることができません。また、(a)と(b)に当てはまる人でも、後期高齢者医療制度の被保険者になっている人は、すでにそちらの保険に入っていますので被扶養者に鞍替えはできません。

被扶養者になれる人は上記のとおりですが、次にクリアすべきものが収入の基準です。

(3)被扶養者に入れたい人が被保険者と同じ世帯の場合
・年間収入が130万円未満で、被保険者の年間収入の2分の1未満
・被扶養者に入れたい人が、60歳以上か障害厚生年金を受けられる状態の場合は、年間収入が180万円未満で被保険者の年間収入の2分の1未満

※状況によっては上記の条件に当てはまらなくても被扶養者になることがあります。

(4)被扶養者に入れたい人が被保険者と違う世帯の場合
・年間収入が130万円未満で、被保険者からの仕送りの額よりも少ない
・被扶養者に入れたい人が、60歳以上か障害厚生年金を受けられる状態の場合は、年間収入が180万円未満で被保険者からの仕送りの額より少ない

以上となります。これらを踏まえたうえで、被扶養者の「国内居住要件」について確認しましょう。

被扶養者の「国内居住要件」とは?

まず、「国内居住要件」にある「国内居住」をどのようにして判断するかというと、日本国内に「住民票があるかどうか」で判断されます。ですので、一時的に海外で生活していても日本に住民票があれば大丈夫です。

ただし、住民票があったとしても、海外で働いていて、あきらかに日本に住んでいるとはいえない状態の場合は、国内居住要件が認められないことがあります。

さて、海外にいる状態でも下記に該当する場合は、国内居住要件を満たしていると判断されます。なお、下記が原則になりますが、それ以外の事情がある場合は、個別に判断されます。

(1)外国で留学をする学生
(2)外国に赴任する被保険者に同行する家族
(3)観光やボランティアなど、働くこと以外の目的で海外に渡航する家族
(4)被保険者が外国に赴任している間に結婚した配偶者や生まれた子ども


冒頭に述べた、お子さんを海外留学させたいときでも国内居住要件を満たすので、被扶養者のままで大丈夫ということになります。

また、たとえば海外で観光旅行をしているときに、「急に」病気になったりケガをしたりして、「やむを得ず」現地の医療機関で診察を受けたといった場合に、日本の健康保険である「海外療養費医療制度」を利用して、かかった医療費の一部を返してもらうことができます。ただし、療養目的で海外に行って診療を受けるのはアウトです。そもそも日本で保険が適用されないものを海外で受けてもダメです。

そうは言っても、被扶養者になることができれば日本の健康保険が使えるので、ぜひ活用したいところです。しかし、日本国内にいても国内居住要件を満たせないことがあります。たとえば、医療滞在ビザで来日した人や、観光・保養を目的とするロングステイビザで来日した人については、日本国内に居住していても国内居住要件とは認められません。つまり、被保険者の外国籍の家族が、療養目的や観光目的のビザの状態で日本に住んでいたとしても日本の健康保険は使えない、ということですね。

いかがでしょうか。外国人労働者の家族の方を扶養にする場合や、日本人ですでに扶養に入っている家族の方が海外留学をしている場合は、届けが必要になったりしますので、詳細は勤め先が加入している健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)にご相談ください。

手続き業務をご担当されている方も、色々と大変と思いますが、必要な提出書類など判断に迷う時は、お近くの社会保険労務士にもご相談されることもおすすめします。


山口善広
ひろたの杜
労務オフィス 社会保険労務士

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