国は中小企業や小規模事業者の生産性を向上するために、設備投資に要した費用の一部を負担したり、事業場内最低賃金を引き上げたりするための助成制度を導入している。それが「業務改善助成金」である。助成金としては、最大600万円まで支給されるという。今回は令和6年度ではどういった点が変更されたのか、利用する際には何に注意したら良いのかなどを解説していきたい。
【令和6年度】「業務改善助成金」とは? 変更点と利用時の注意点を解説

「業務改善助成金」とは?

まずは、「業務改善助成金」とはどのような制度なのか。概要から説明していこう。

●「業務改善助成金」とは

「業界改善助成金」とは、中小企業や小規模事業者の生産性向上を支援する国の仕組みだ。生産性向上につながる設備投資など(機械設備、コンサルティング導入、人材育成・教育訓練など)、または事業場内最低賃金の引き上げ(50円以上)を行った場合に、その費用の一部を助成してもらえる。事業場内最低賃金とは、雇用から3ヵ月が経過した労働者が受け取る事業場内で最も低い時間給を意味する。

●対象事業者の要件

対象事業者となるには以下の3つの要件を満たさなければいけない。

(1)中小企業・小規模事業者である
(2)事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である
(3)解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない

少し補足すると、(1)の中小企業・小規模事業者は業種毎に資本金または出資額、常時使用する労働者数が決まっている。また、(2)で示されている事業場内最低賃金と地域別最低賃金とは、前者が事業所で最も低い時間給、後者は国が毎年10月頃に改訂する都道府県単位の最低賃金額を意味する。

●特例事業者の要件

「業務改善助成金」制度では、特例事業者として認定されるケースもある。それには、「賃金」「物価高騰等」という2つの要件を満たさなければいけない。具体的には以下の通りである。

(1)賃金要件
事業場内最低賃金が950円未満の事業者

(2)物価高騰等要件
原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因に基づいて、申請前3ヵ月のうち、いずれか1ヵ月の利益率が3%ポイント以上低下している事業者

なお、上記(2)に該当する事業者は、一定のパソコンや自動車などの新規導入も認められ場合がある。

●業務改善助成金は個人事業主でも利用できるか

個人事業主が法人化した場合でも、法人化前に雇入れ後3ヵ月以上経過した労働者を使用している場合は、法人化後の経過期間にかかわらず、助成対象となり得る。

【令和6年度】「業務改善助成金」の変更点

令和6年度から「業務改善助成金」の一部内容に変更がある。主な変更点を紹介したい。

具体的な変更点は、以下の4つだ。

(1)特例事業者要件と経費の特例

新型コロナウイルスの影響を受けた事業者向けの「生産量要件」は終了。ただし、賃金要件と物価高騰等要件は引き続き継続する。

(2)経費の特例

「生産量要件」、または「物価高騰等要件」の事業者に認められていた「関連する経費」は終了。ただし、車・PCなどの導入は引き続き実施する。

(3)申請回数

令和6年度中に可能な申請回数は1回までとする。

(4)賃金引上げ方法

事業場内最低賃金の引上げは1回のみとする。ただし、複数回の引上げは助成対象外。

【参考リンク】
厚生労働省「令和6年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ」

「業務改善助成金」の助成額

次に、「業務改善助成金」としてどれほど助成されるのかを紐解いていきたい。

●助成上限額・助成率

助成上限額は賃上げの金額(コース)と引き上げる労働者数などによって決まってくる。コースは、30円、45円、60円、90円などに分かれている。また。助成率は事業場内最低賃金額によって決まる。

具体的には900円未満の場合は9/10。900円以上950円未満の場合は4/5、生産性要件を満たした事業場は9/10。950円以上の場合は3/4、生産性要件を満たした事業場は4/5となっている。

●助成額の計算方法

「業務改善助成金」は、生産性向上を目的として設備投資等に要した費用に一定の助成率を掛けた金額と助成上限額のいずれか低い方が支給される。

「業務改善助成金」の注意点

続いて、「業務改善助成金」を利用するにあたっての注意点を解説しよう。

●各種期日の注意点

令和6年度「業務改善助成金」の申請期限は、令和6年12月27日。事業完了期限は令和7年1月31日と定められている。いずれも、郵送も当日必着。遅れないように注意したい。ただし、この助成金も予算の範囲内で運用されるため、交付件数次第では期限よりも前に募集がストップされることもあり得る。

●助成対象の注意点

「業務改善助成金」の助成対象となるのは、交付決定後に実施される事業に要した対象経費に限定される。決定前は全て対象外となることを覚えておきたい。

「業務改善助成金」の申請の流れ

「業務改善助成金」を利用するには、都道府県労働局への申請が必要となる。その流れを説明しよう。

●交付申請

まずは、厚生労働省のホームページから交付申請書(様式第1号)をダウンロードした上で作成する。その上で、事業実施計画書、賃金引上げ計画書などの必要書類を添付し、事業所所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境均等部に提出する。

●交付決定

申請後、労働局が審査を実施。内容が適正と認められれば、助成金に関する交付決定の通知が届けられる。申請から交付決定に至るまでには一ヵ月ほどを要する。

●事業の実施

事業実施計画に準拠して、設備投資等の業務改善と事業場内最低賃金の引き上げ、助成対象経費の支払いを実施する。もし、実施期間中に事業計画の変更や中止、延期が発生した場合には、それぞれのケースに応じた書類を提出する必要がある。

●事業実績報告

事業を実施した後に、事業実績報告書(様式第9号)と支給申請書を作成し、都道府県労働局に提出する。事業実績報告書には、業務改善計画の実施結果や助成金対象経費の支払い結果、賃金引上げ状況を記入する。報告書は提出期限が決まっており、事業完了日から起算して1ヵ月を経過する日、あるいは翌年度の4月10日のいずれか早い日となっている。

●交付額確定・助成金支払い

都道府県労働局が実績報告書の審査を行い、助成額の確定と支給決定の通知をする。後日、支給申請書(様式第13号)に基づいて、助成金が振り込まれる流れとなる。

「業務改善助成金」の活用例

最後に、厚生労働省が発行している「働き方改革推進支援・業務改善助成金活用のてびき  生産性向上のヒント集」に基づいて「業務改善助成金」の活用事例を3つほど紹介したい。

●事例1「配膳ロボットの導入による料理の運搬業務の効率化」

最初は、埼玉県にある飲食会社の事例だ。同社では繁忙期にもっと多くの配膳ができないかとずっと検討していた。具体的には、何らかの方法を用いて重い料理や食器を運ぶ業務負担を増やすことなく、常時3食以上の配膳を可能にできないかと考えていた。そんな中、同社と付き合いのある中小企業診断士の提案を受け、助成金を活用して配膳ロボットを導入。

その結果、配膳効率を25%アップさせただけででなく。配膳スタッフも5人から4人へと削減できた。その分、顧客に対して丁寧な対応が可能となり、より良い評価が得られている。配膳業務の効率化により生産性が向上。9人の従業員の時間給(事業場内最低賃金)を60円引き上げられている。

●事例2「新型溶接機の導入により、溶接業務が効率化」

次は、千葉県の自動車整備会社の事例だ。同社では、自動車の鋼板溶接の際に「時間がかかる」「連続作業ができない」「重い」「作業者により質に差が出る」などの課題が以前からあった。それらを解消できないかと検討している中、セミナーに参加して「業務改善助成金」の存在を知ることができた。同社が考えたのは、加熱のためのアイドリングタイム、鋼板の種類によって電流・加圧・通電時間を調整するとともに、手元への重量感や作業者による質の違い、特殊鋼の場合の外注などをなくすこと。そこで、助成金を活用して、自動車鋼板用特殊溶接機を導入した。

その結果、重い機器を持つこともなく、作業者の経験にかかわらず高品質の作業が可能となり、溶接時間は35%短縮。作業品質も向上した。溶接作業の効率化により生産性が向上し、1人の従業員の時間給(事業場内最低賃金)を125円引き上げることができている。さらには、事業場内最低賃金を上回る従業員賃金の引上げを実施することも可能となった。

●事例3「職員が3S研修とコミュニケーションセミナーを受講。書類管理と意思疎通が向上」

最後は、東京都で国際交流事業を手掛ける会社の事例。同社の課題は、職場内で使用する書類が多く、管理や探索に時間を要していたこと。また、コロナ禍で職員間の直接的なコミュニケーションが減少していたことも問題であった。そこで、コンサルタントの提案を受け、助成金を活用し、職員に3S(整理・整頓・清掃)研修とコミュニケーションセミナーを受講させた。

その結果、作成書類の記入ミスや提出書類の期限切れ、書類の紛失などが減少。また、部門間の意思疎通が円滑化し、モチベーションや業務効率が大幅に改善された。研修とセミナーの受講により生産性も大幅に向上。2人の従業員の時間給(事業場内最低賃金)を60円引き上げることができた。

【参考リンク】
厚生労働省「生産性向上のヒント集」

まとめ

「業務改善助成金」は、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者にとっては、大きなメリットがある制度である。設備投資等と共に事業場内最低賃金を引き上げた場合に、最大600万円もの助成が受けられるからだ。もちろん、生産性のアップや業務の効率化という課題を解決できるのも利点である。ただし、利用するにあたっては事前に要件や助成額などを確認しておくことが望まれる。申請期限の前に募集が終了してしまう、交付決定前に設備投資をしても助成対象とならないなど、さまざまな点で注意が必要だ。
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