ここ数ヵ月、労働時間に関するニュースが目立っています。たとえば、大手回転寿司店で「労働時間を切り捨てていた」として労働基準監督署から是正勧告を受けたり、地方裁判所の判決ではありますが、「制服に着替える時間は労働時間である」として未払い賃金の支払いを命じたことも記憶に新しいです。このように、労働時間に対する考え方は、どんどん企業にとってシビアなものになってきています。労使のトラブルから企業を守るためには、労働条件の基本である“労働時間”について意識を高めることが必須となっています。ここでは、労働時間の考え方について今一度確認することにしましょう。
休憩や着替えは「労働時間」にカウントされる? 企業を訴訟リスクから守るために再確認を

労働時間=「始業時間〜終業時間」ではない?

まず、労働とは“従業員が会社の指揮監督のもとにある状態”のことをいい、その指揮監督のもとにある時間のことを「労働時間」といいます。

そのため、たとえば就業規則で「始業時間は9時とし、終業時間は18時とする」と定めていても、それ以外の“従業員が会社の指揮監督のもとにある状態にある時間”も労働時間と解される可能性が高くなります。冒頭に述べた、「制服へ着替える時間が労働時間である」という判決になったのも、着替えの時間が会社の指揮監督下にあると判断されたからです。

ただし、“制服への着替えの時間”がすべて労働時間にあたるのかというとそうではなく、個別具体的に判断されるものです。

着替えの時間が労働時間と判断されるためには

●その制服を着ることを会社側が義務付けている
●その着替えを所定の更衣室等で行うよう規定している(制服で通勤することを禁じている)

など複数の要素がありますが、共通して言えることは「制服への着替えについて、従業員に自由な裁量がなく任意性が低い」という点にあります。

つまり、たとえば、着替えの時間に同僚と自由におしゃべりができたり、着替えの合間にスマートフォンでSNSのチェックができたりするような雰囲気の緩い環境下の場合、“労働のための準備行為で、会社の指揮監督下に置かれているとは言えない状況”として、労働時間と判断される可能性は低くなるかもしれません。

しかし、制服で業務を行うことを義務付けているのであれば、制服への着替えは必要な行為であるため、最近では所定の時間を着替えの時間として労働時間にカウントする会社も出てきています。

さて、制服への着替えの時間以外に、従業員から“労働時間ではないか”と言われるものとして、「仮眠時間」や「お昼休憩中の電話当番」が挙げられます。

仮眠時間やお昼休憩中の電話当番は、何か手を動かして作業をしているわけではなく、いわゆる「手待ち」の状態となっています。“何もしていないなら、労働時間には含まれないのではないか”と思いやすいですが、来客があったり電話が鳴ったりしたとき即座に対応するよう会社側が求めている場合は“会社の指揮監督下にある状態”と言え、何も起こらなかったとしても労働時間となります。

仮眠時間もお昼休憩も、「労働時間ではなく給料は発生しない」と言い切るためには、従業員を労働から解放することを保障しているかどうかが重要な要素なのです。

では、次に「労働時間の算定」についてお話ししましょう。

労働時間の算定は「1分」単位が原則

労働相談でよく聞かれるのが、「15分未満の端数は切り捨てます」、「終業時間から30分経過後しか残業時間として認めません」といった類の労働時間のカットです。

給与の計算をする際、たしかに「8時間」というように端数がない方がスッキリしていますが、働いている方からしてみれば「給与のカット」で、1分の労働時間でも塵も積もれば山となります。あとで労働基準監督署から行政指導を受けた際に、未払いの賃金として数十万円単位のお金を支払わなければならないリスクがありますので、労働時間の管理は普段から正確に行うことをお勧めします。

ただし、給与の額について「1ヵ月」の給与額で100円未満の端数が発生したときに、“50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げる”のはオーケーです。また、「1ヵ月」の給与額について“1,000円未満の端数があるときに、その端数の金額を翌月の給与支払日に繰り越して支払う”こともできます。

給与計算と支払は毎月しなければならない業務で、手間がかかるものですが、適正な労働時間の管理を怠ると、思いもよらないトラブルに発展しやすい問題でもあります。したがって、従業員と良好な関係を継続させるためにも、労働時間についての考え方をブラッシュアップすることをお勧めします。

もし労働時間についての考え方で不明点があったり、給与計算を誰かに任せたいと思われたりしたら、社会保険労務士に相談してみてください。
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