「会社員等の被扶養配偶者」で「社会保険料の負担がない層」のうち、約4割が就労している。その中には、社会保険料負担の発生等による手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている人が一定程度存在する。人手不足への対応が急務となる中で、そういった人たちが「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、政府より2つの施策(支援強化パッケージ)が発表された。今回は、「年収の壁」及び「支援強化パッケージ」について解説する。

「年収の壁」とは? 助成金などが用意された「年収の壁・支援強化パッケージ」は人手不足の打開策となるか

そもそも「年収の壁」って何?

「年収の壁」とは、「その金額を超えると、税金や社会保険料が変わり手取りが減ってしまう金額」ということで使用されている。具体的な金額は法改正等により変動する可能性があるが、2023年11月時点での「年収の壁」とされる金額は次の通りである。

なお、(1)「年収」については給与収入(年収)、(2)社会保険料の試算は協会けんぽ(東京)、(3)40歳以上介護保険料負担有り、という条件で解説をする。

1)100万円の壁

一般的に年収が100万円を超えると、住民税の課税対象となる。住所や諸条件により住民税の額は異なるが、101万円の給与収入だと年間で数千円台と考えて良さそうだ。

2)103万円の壁

年収が103万円を超えると、所得税が課税対象となる。年収が104万円だと、年間500円手取りが減ることになる。なお、配偶者の方で「配偶者控除」が受けれるため、配偶者の所得税上もメリットがある。

3)106万円の壁

年収が106万円を超えると、社会保険料が増加する可能性がある。これについては、自身が勤めている企業規模による。

2016年10月から、企業規模により短時間労働者の「社会保険適用」が拡大されてきた。被保険者総数501人以上規模の企業に始まり、2022年10月には101人以上、来年2024年10月からは51人以上の企業に勤める短時間労働者で、賃金の月額が8.8万円以上(年収約106万円)になると、社会保険に加入しなければならない(※他にも条件有)。なお、このような事業所を「特定適用事業所」という。給与月額8.8万円だと年間16万円ほど社会保険料を負担する必要があり、その分手取りが減ることになる。

※「社会保険の適用拡大」の解説記事を収録した資料も公開中
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4)130万円の壁

年収が130万円以上になると、家族の扶養に入れず、自身で社会保険に加入しなければならなくなる。もし、月額11万円で社会保険に加入すると、年間20万円近く手取りが減ることになる。

また、企業の配偶者手当も社会保険被扶養者を対象にしている場合が多い。そうなると、配偶者手当も貰えないことになり、手取りが一気に減ることになるため、「130万円の壁」を意識して働く人は多いようだ。

なお、配偶者手当の条件は各企業で異なるため、詳しくは家族の勤務先にご確認頂きたい。

5)150万円の壁

年収が150万円を超えると、配偶者の所得税が増額となる。これは、配偶者特別控除額が減るからだ。

なお、配偶者の年収が1,195万円超の場合は、配偶者特別控除が受けられないため、こちらについての考慮は不要となる。
「年収の壁」とは? 助成金などが用意された「年収の壁・支援強化パッケージ」は人手不足の打開策となるか

6)201万円以上

年収が201万円以上になると、上記5で説明した配偶者特別控除額がゼロとなる。配偶者特別控除の適用を少しでも受けたい場合は、年収を201万円未満にする必要がある。

「支援強化パッケージ」の詳細を整理

我が国では、生産年齢人口が急減し、社会全体の労働力確保が大きな課題となっている。既に、企業の人手不足感は、コロナ禍前の水準に近い不足超過となっており、人手不足への対応は急務である。本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境づくりは、こうした人手不足への対応にもつながるものである。「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応として次の「支援強化パッケージ」が発表された。

1)106万円の壁への対応

こちらは、特定適用事業所向けの支援策である。

I)キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
「キャリアアップ助成金」のコースが新設され、短時間労働者が社会保険の適用による手取り収入の減少を意識せず働くことができるよう、収入を増加させる取組を行った事業主に対して、労働者1人当たり最大50万円の支援が行われる。大きく「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」があるが、併用しても「併用メニュー」として対象となる。

労働者の収入を増加させる取組については、「賃上げ」や「所定労働時間の延⾧」のほか、「社会保険適用に伴う保険料負担軽減のための手当(社会保険適用促進手当)」として支給する場合も対象とする。

まずは、企業として、社会保険加入に伴い、収入を増加させる取組をするか検討し、結果として助成金が利用できそうであれば積極的に活用することを検討したい。

II)社会保険適用促進手当
事業主が支給した「社会保険適用促進手当」については、適用に当たっての労使双方の保険料負担を軽減するため、「新たに発生した本人負担分の保険料相当額」を上限として、被保険者の標準報酬の算定において考慮しない取り扱いがされる。

社会保険料の負担増を考慮して就業調整をしている人についても、負担増となる企業にとってもメリットがあるため、収入を増加させる取組をする場合は活用を検討したい。

2)130万円の壁への対応

こちらは、特定適用事業所ではない事業所向けの支援策である。

被扶養者認定基準(年収130万円)について、「労働時間延⾧等に伴う一時的な収入変動による被扶養者認定の判断」に際し、事業主の証明の添付による迅速な判断を可能とする。年収130万円を超えるパートタイマー等について、事業主の証明を付すことで2年間、扶養の身分に留まることができるものとされた。一時的な人手不足等については、こちらで対応を検討したい。

3)配偶者手当への対応

配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順等、わかりやすい資料が作成・公表されるようだ。もし、自社で配偶者手当の支給がある場合、今後の支給について、他の手当支給の見直しも含めて検討していきたい。



各対応策については、「今後、所要の手続を経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこと」とされている。「一時しのぎ」という声もあるが、「年収の壁」を意識して働く人が、収入や労働時間を気にせずに働けるようになれば、人手不足の解消につながる可能性がある。企業としては、パッケージの内容を正しく理解し、今後の動向に注意して、活用できるよう準備を進めていきたい。

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