厚生労働省が発表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、ひとり親(母子世帯の母)の自身が困っていることは、「家計」が49 %と最も多く、次いで「仕事」が14.2%という結果でした(こどもについての悩みは除く)。今回は、「ひとり親家庭の親(以下、ひとり親)」の就業支援施策について取り上げるとともに、企業が活用できる助成金をご紹介します。
「ひとり親」を積極的に採用する企業を国が応援。就業支援施策や、企業が活用できる助成金とは

「ひとり親」に関する国の就業支援施策

国の主な施策として、「マザーズハローワーク」と「ひとり親自立促進パッケージ」をご紹介します。

●マザーズハローワーク

「マザーズハローワーク」および、ハローワークの「マザーズコーナー」は、仕事と家庭の両立サポートに特化したハローワークで、全国に200ヵ所以上が設置されています。特に、求職中の「ひとり親」へは大きな味方となる機関で、次のような支援を行っています。

※以下、厚生労働省「マザーズハローワーク」案内チラシより引用

お子さま連れでも安心の設備
おもちゃ・絵本のあるキッズコーナー、チャイルドシートを隣に置けるゆったりした相談スペースなど、お子さま連れでも安心してご利用いただける環境を整えています。

担当者が一人ひとりに就職支援
専属スタッフが、1人ひとりの状況に応じた就職活動をサポートします。

子育てと両立しやすい仕事の紹介
「勤務時間が保育施設の送迎に対応できる」、「子どもの急な病気や学校行事の際に柔軟に休暇がとれる」など、子育てと両立しやすい仕事をご紹介します。

就職に役立つセミナーの開催
就職活動に向けた心構え、面接対策、パソコン講習など、就職に役立つセミナーを実施しています。

保育所などの子育て支援に関する情報の提供
地域ごとの保育情報や子育て支援サービスなど、お仕事以外の情報も提供しています。

●「ひとり親自立促進パッケージ」4つの関連事業

2021年3月、新型コロナに影響を受けた非正規労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議において「非正規雇用労働者等に対する緊急支援策について」が決定され、その中に、安定就労を通じた中長期的な自立支援や住居確保につながることを目指した「ひとり親自立促進パッケージ」が盛り込まれました。

(1)母子家庭等就業・自立支援センター事業
母子家庭の母等に対するワンストップの相談窓口です。就業相談から就業支援講習会の実施、就業情報の提供など一貫した就業支援サービスの提供を行うとともに、弁護士等のアドバイスを受けて養育費の取り決めなどの専門的な相談を行う「母子家庭等就業・自立支援センター」が、都道府県・政令指定都市に設置されています。

(2)自立支援給付金事業
経済的な自立を支援するため、ひとり親の就労に関する給付金を支給します。

●自立支援教育訓練給付金
母子家庭の母および、父子家庭の父の主体的な能力開発の取組みを支援するもので、対象教育訓練を受講して修了した場合に、経費の60%(または所定の上限額)が支給されます。

●高等職業訓練促進給付金等事業
母子家庭の母および、父子家庭の父が、看護師や介護福祉士等の資格取得のために、原則1年以上養成機関で修業をする場合、修業期間中の生活の負担軽減を目的として「高等職業訓練促進給付金」が支給されるとともに、入学時の負担軽減のために「高等職業訓練修了支援給付金」が支給されます。

(3)高等学校卒業程度認定試験合格支援事業
ひとり親家庭の親または児童が、高等学校卒業程度認定試験合格のための講座(通信講座を含む)を受けて、これを修了したとき、および合格したときに受講費用の一部を支給します。

(4)母子・父子自立支援プログラム策定事業
福祉事務所等に母子・父子自立支援プログラム策定員を配置し、児童扶養手当(ひとり親家庭などへの手当)受給者に対して「生活状況」、「就業への意欲」、「資格取得への取組み」等について状況把握を行い、個々のケースに応じた支援メニューを組み合わせた自立支援プログラムを策定しています。

企業が「ひとり親」を採用することで、期待できることとは

次に、企業が「ひとり親」を採用することで、どのようなメリットが考えられるかを解説します。

●「長期的な雇用」や「高い専門性」が見込める

国の支援施策の方向性としては、「能力開発」や「資格取得」などを推進しています。こどもが成長すれば、教育費などの負担もより一層増えていきます。児童扶養手当など、現状に対する経済的な支援だけでなく、将来の経済的な世帯自立につなげる支援も必要です。そのため、国は長期的な雇用につなげる施策を重視しており、その軸となるのが「能力開発」や「資格取得」の推進です。それは、ひとり親を採用する企業にとっては、「長期的な雇用が期待できる、高い専門性を持つ従業員」を採用できるチャンスと捉えることもできます。

●「社会貢献」から「企業の発展」へとつながっていく

ひとり親の就業は困難な状況にあります。仕事と家庭の両立を図ることが、とても難しい環境であることは事実です。厚生労働省では2006年度より、ひとり親家庭の自立支援について積極的に取り組んでいる企業に対して、「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」を実施してきました。過去に表彰を受けた企業の実践事例が、公式サイトでも紹介されています。

なお2024年度より、ひとり親に関する政策は、厚生労働省から新設された「こども家庭庁」へ移管されます。こどもに関する社会問題の中には、親の就業環境が十分に整っていないことが背景にあり、福祉施策だけでなく就業支援施策の充実が、より一層求められることになるでしょう。そのような時代背景の中で、ひとり親の積極的な採用は「社会貢献」のイメージを高めるだけでなく、ひとり親従業員が高い能力を発揮して「企業の発展」へ大きな貢献を果たす1つのモデルになることが期待されます。

助成金などを活用し、「ひとり親」の採用を企業戦略に

最後に、ひとり親の採用を支援する企業に関する助成金をご紹介します。

●特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

「母子家庭の母・父子家庭の父」や高年齢者・障害者の方などを、ハローワークなどの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給されます。

●ポイント
ハローワークなどの紹介により雇い入れることが必要です。

●助成額(母子家庭の母・父子家庭の父の場合)
60万円(短時間労働者の場合は40万円)
※大企業の場合は50万円(短時間労働者は30万円)
※短時間労働者とは「1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者」を指します。

●支給の流れ(母子家庭の母・父子家庭の父の場合)
採用から半年後(1期)、1年後(2期)に2回支給します。60万円が支給される場合は、採用から半年後に30万円、採用から1年後に30万円がそれぞれ支給されます。

●トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

事前にトライアル雇用求人をハローワークなどへ提出し、これらの紹介により「母子家庭の母・父子家庭の父」などの対象労働者を原則3ヵ月の有期雇用で雇い入れ、一定の要件を満たした場合に助成金を受けることができます。

●ポイント
事前にトライアル雇用求人をハローワークなどに提出する必要があり、トライアル雇用後(3ヵ月後)に「無期雇用契約」へ移行することを前提とします。

●助成額(母子家庭の母・父子家庭の父の場合)
最大で月額5万円

●支給の流れ
トライアル雇用に係る雇入れの日から1ヵ月単位で、最長3ヵ月間を対象として助成され、この支給期間中の各月の月額の合計額がまとめて1回で支給されます。


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