認知症というと高齢者をイメージしがちですが、若い世代でも「若年性認知症」を発症するケースがあります。若年性認知症の推定発症年齢の平均は51歳程度と若く、働き盛りに発症することが多いため、雇用への影響など、社会的な問題が発生しやすくなります。認知機能の低下により仕事への支障が見られることもあるため、早期発見や発症後の早い段階で適切な支援につなげることが重要です。今回は、若年性認知症とはどのような病気なのか、また障害者手帳の取得や雇用継続に必要なことなどについて説明していきます。
若年性認知症の症状とは? 雇用継続のためにできること

「若年性認知症」とは?

認知症というと高齢者をイメージしがちですが、若い世代でも発症することがあります。65歳未満の人が発症する認知症は「若年性認知症」と呼ばれています。厚生労働省が2009年に発表した若年性認知症の調査によると、推定発症年齢の平均は約51歳でした。なお認知症とは「正常に発達した知的機能が脳の神経細胞の障がいにより持続的に低下することで、記憶障がいなどの認知機能障がいを発症し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」と定義されています。

若年性認知症の場合、発症年齢が若く、働き盛りであることが多いため、本人の就労継続の問題、さらに家族の生活への影響が大きいのが特徴となっています。働いている場合には、わずかな認知機能の低下でも仕事の支障となることがあります。一方で、物忘れが出るなど仕事や生活に支障をきたすようになっても、年齢の若さから認知症と疑われることがなかったり、病院で診察を受けてもうつ病や更年期障がいなどと間違われたりすることもあり、診断までに時間がかかってしまうケースも見られます。具体的にどのような症状があるのか見てみましょう。

●記憶障がいや見当識(けんとうしき)障がい
物忘れが見られ、数日前の出来事が思い出せなかったり、大事な予定や約束を忘れてしまったりすることがあります。忘れた事を指摘されても、予定を組んだ事自体を忘れてしまうため、「忘れていた」ことを思い出すことができません。

また、今日の日付や、自分がいる場所など、基本的な状況がわからなくなる「見当識障がい」が起こります。そのため、書類などに日付を書こうとしても書けない、よく出かける場所で迷子になるといったことが度重なり、おかしいと気付くことがあります。

●理解力、判断力の低下
以前まで得意だったことの手順がわからず出来なくなったり、物をどこに片付けたらよいかわからなくなり、部屋が散らかってしまったりすることがあります。計算が出来なくなり、買い物をしても小銭を考えて出すことができなくなる場合もあります。運転時には車線をはみ出したり、ブレーキが遅くなったりするなど、危険運転が多くなります。

また、特に「アルツハイマー型」などでは、ドアが見えているのにもかかわらず部屋から出られなくなり、グルグル部屋を回ってしまったり、目の前にある物を取ってと言われても、言われたものと目の前にある物が結びつかなくなったりするなどの症状が出ます。

●実行機能障がい
すでに持っているのに同じ物を買ってくる、毎日同じ料理を作るといったように、計画性がない行動をとることがあります。また、電化製品や器具などの使い方が分からなくなります。


若年性認知症は、「精神障害者保健福祉手帳」の申請が可能な精神疾患です。一定レベル以上の能力障がいがある場合、初診日から6カ月以上経過した時点で精神障害者保健福祉手帳の申請を行えば、手帳の交付に該当するかどうかの審査を経た後、精神障害者保健福祉手帳(1級~3級まで)が交付されます。障害者手帳を所持することにより、いろいろな支援が受けることができます。例えば、企業の障がい者雇用枠として働くことや、障がい者の就労支援を受けることが可能になります。

ここまで見てきたように、若年性認知症の場合、記憶や理解力、判断力、実行力などに問題が見られます。しかし、だからといって働けないというわけではありません。当事者が働き続けるために、どのようなことが必要なのかを見ていきます。

若年性認知症の社員が働き続けるために、企業ができること

従業員が若年性認知症である場合に、周囲ができることや心がけておくべきことは何でしょうか。1つずつ見ていきましょう。

●早期発見の重要性
若年性認知症は、早期発見・早期診断・早期治療により、職務遂行上のトラブルを回避し、会社内の混乱を未然に防ぐことができます。同時に、本人が障がいを自覚することができ、家族が将来の予定を考える猶予期間を持ちやすくなります。そのために一緒に働く上司や同僚、産業医、家族、そして本人が、疾患に早く気づくことが重要です。

若年性認知症の発症早期には、日常生活上は問題がなくても、職務遂行上の問題が生じることがあります。そのため、家族よりも一緒に働いている同僚や上司が、当事者の異変に早期に気づくことが多いようです。一緒に働く人に前述の症状が見られるなど、「何かおかしいかも……」と感じたら、当事者を産業医や産業保健師につなげることができるでしょう。産業医は、当事者の職務遂行上の問題を客観的に把握し、若年性認知症の疑いがある場合には専門医の受診を勧めます。

このような内容の話は、職場の上司や同僚が当事者に直接話すことは難しいかもしれませんが、産業医を通すことによって伝えやすくなります。相談しやすい環境を作ることができ、職場での適切な対応の助言を求めることもできます。そして、当事者の家族への情報の共有においても、産業医の存在が重要になります。

●仕事内容の再設計
若年性認知症と診断されたからといって、すぐに仕事が全くできなくなるわけではありません。しかし、何ができないのか、どのようにすればできるのかきちんと検証していくことは必要です。そのため、当事者の現在の仕事内容を整理し、再設計をすることが求められます。業務のアセスメント、職務分析、課題分析をしていくことになります。

アセスメントでは、若年性認知症の発症により、今までの仕事が上手くできなくなってしまったことに対して、「どのような環境で、どのような支援を行えば、職業的能力が発揮できるか」という視点に立ち、仕事内容を見ていきます。そのために、当事者の能力をアセスメント(客観的に評価、分析)します。

アセスメント結果と仕事の内容を見て、当事者に求められる知識やスキルの整理をしていきます。何か難しそうな点があれば、業務の内容をさらに細かく分けて、各領域に関わる作業を行動単位に分けていきます。仕事内容が、いつ、どこで、誰と、何をするのかがわかるようにするとよいでしょう。このようにして、仕事や行動の段取りをわかりやすく定型化することができます。また、当事者が業務で何を求められているのかがわかるため、教える方も教えられる方も、取り組むべきことが明確になります。

●環境整備と社内における情報共有
若年性認知症を発症した人が働きやすい環境にするためには、「作業の目的と流れのわかりやすさ」、「シンプルな作業動作」、「試行錯誤の時間の確保」、「上司や同僚等と作業結果の評価を共有すること」などが重要です。職務分析や課題分析等により、作業手順書の作成、定期的な個別相談の設定、作業に使用する物品の整理整頓、表示の工夫等を行うことで、働きやすい環境を作ることができます。

また、社内での情報共有も必要です。直接関係する上司や同僚の理解がなければ、当事者が困難なく働き続けることは難しいため、関わる人たちは、まず「若年認知症とはどのような病気でどのような特徴があるのか、仕事で配慮することは何か」を把握するようにしてください。当事者の業務に関する担当者を決めることは、実務的で有効な手段ですが、当事者や周囲が担当者に依存しすぎてしまわないようにすることも大切です。組織では人事異動などがありますので、その際は適切な引継ぎを行うなど、担当が変わっても同様のマネジメントができるように体制を整える必要があります。必要に応じて、当事者の障がい特性(得意なことや苦手なこと)および必要な配慮事項等を、記録(文書化)しておくとよいでしょう。

●支援機関を活用する
障害者手帳を活用することにより、障がい者雇用に関する支援機関や支援制度を活用することができます。例えば、ジョブコーチ制度を活用して、当事者が作業遂行力の向上に向けた支援を受けることや、職場に対して、当事者との関わり方や作業方法の指導の仕方について専門的な助言をもらうことなどができます。

若年性認知症といっても、人によってその症状、進行はさまざまです。 若年性認知症の発症と同時に働くことが困難になるわけではありません。病気を発症する前と同じ仕事をすることは難しいかもしれませんが、業務内容や環境を工夫することで働き続けることはできます。

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